AIエージェントとは別物 「エージェンティックAI」の概要と活用シーンを理解しようビジネスパーソンのためのIT用語基礎解説

IT用語の基礎の基礎を、初学者や非エンジニアにも分かりやすく解説する本連載、第34回は「エージェンティックAI」です。ITエンジニアの学習、エンジニアと協業する業務部門の仲間や経営層への解説にご活用ください。

» 2025年10月08日 05時00分 公開

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1 エージェンティックAIとは

 エージェンティックAI(Agentic AI)とは、自らゴールを理解し計画を立てて行動する自律型のAI(人工知能)のことです。従来のAIが「人の指示に応じて回答する存在」であったのに対し、エージェンティックAIは「成果を出すために自ら動く存在」です。

 昨今のAIの進化を振り返ると、AIはまず、検索エンジンやチャットbotのように「蓄積された情報を探して返す仕組み」として普及しました。その後、「ChatGPT」に代表される生成AIが登場し、既存の情報を返すだけでなく、新たに文章や提案を作り出せるように進化しました。生成AIは自然な文章を作成し、業務効率化を大きく進めましたが、それでも人が細かく指示を与える必要がありました。

 エージェンティックAIはこの次の段階に進んでおり、例えば「営業会議用に競合調査をまとめて」と依頼すると、単なる情報提供ではなく、調査範囲を分解し、情報収集を進め、最終的にレポートを仕上げるところまで担います。指示待ちではなく自律的にゴールへ向かう点が大きな特徴といえます。

図1 AI進化のステップ

2 AIエージェントとの比較

 AIエージェントは、人が指示を与えることを前提に動き、単純作業や定型業務を効率化する「代行者」として活用されます。ルールや条件に従い、ある程度自律的にタスクを進めることができますが、その範囲は限定的です。

 一方で、エージェンティックAIは人の意図や方針を理解し、自律的に判断しながら行動を進める点で異なります。エージェンティックAIは、AIエージェントの役割も担いつつ、その先まで踏み込んで「次に何をすべきか」を考え、より複雑な業務全体を動かすことができる存在です。

図2 AIエージェントとエージェンティックAIの比較

3 想定されるビジネス活用シーン

 エージェンティックAIの強みは、自律性と柔軟な意思決定にあります。従来は人が担っていた業務を効率化するだけでなく、タスクを分解して最適化したり、膨大なデータを分析して改善点を見つけたりすることなどが可能です。結果として、プロセス全体をより質の高い形に進化させる効果が期待できます。

図3 チャット型生成AIとエージェンティックAIの比較

 現状はまだ部分的な導入や試験段階のものがほとんどであり、人間による監督と判断が不可欠なケースが多いのですが、以下のような活用が想定されています。

営業支援

 顧客データや過去の商談履歴を基に「次にどのような提案をすべきか」を自律的に考え、最適なアクションを提示します。単なる資料作成や予定調整にとどまらず、商談の進捗(しんちょく)や競合状況を踏まえて提案内容を調整し、フォローアップのタイミングまで自ら判断して動く点が特徴です。

スケジュール調整

 関係者の予定を考慮するだけでなく、会議の目的や緊急度を踏まえて優先順位を判断します。必要に応じて会議そのものの再設計を提案し、調整にとどまらず業務全体の進め方を最適化します。

新規事業の企画

 単なる市場調査を超えて、競合分析や収益シミュレーションを踏まえた複数のシナリオを自律的に構築します。その中から成功確度の高い選択肢を提示し、事業アイデアの方向性そのものを導きます。

4 メリット

 エージェンティックAIを導入することで、従来の業務の進め方が大きく変わる可能性があります。人の負担を軽減しつつ、組織の競争力を高める効果が期待できます。以下のようなメリットがあります。

4.1 属人的業務の自動化と再現性の向上

 特定の担当者しかできなかった判断やノウハウをAIが吸収し、誰でも同じ品質で業務を遂行できる仕組みを実現します。これにより、人に依存しない業務の継続性と安定性を確保します。

4.2 意思決定の迅速化と競争力の強化

 データの収集から分析、解釈、提案までを自律的に実行します。経営判断のスピードと精度を高め、変化の激しい市場においても柔軟かつ迅速に対応できる体制づくりに寄与します。

4.3 業務プロセス全体の最適化と高度化

 作業単位の効率化にとどまらず、業務の流れ全体を整理し、無駄を減らしながら成果を高めます。人間の判断に頼っていた部分もAIが補い、組織全体としての生産性と精度を引き上げます。

5 注意点

 エージェンティックAIにはその自律性故に新たなリスクも伴います。AIエージェントと異なり「次の行動を自ら決める」ことができるため、従来以上に管理やガバナンスの重要性が増します。

5.1 責任の所在が不明瞭

 自律的に行動するAIの判断結果に誤りがあった場合、その責任が経営層/現場担当/システム管理者の誰にあるのかを明確にしないと、組織内で混乱や責任の押し付け合いが生じる恐れがあります。

5.2 自律性とガバナンスのバランス

 AIが高度に自律的であるほど、企業内ルールや法規制との食い違いが生じやすくなります。エージェンティックAIの自由度をどう制御するかは、経営とIT部門が協力して設計すべき課題です。

5.3 人間の判断力低下

 業務の大部分をAIに委ね過ぎると、従業員が自ら考え判断する力を失いかねません。定期的に人間によるレビューや検証プロセスを組み込み、AIと人間の役割分担を適切に管理する必要があります。

6 今後の展望

 エージェンティックAIは、今後ビジネスにおける位置付けを「効率化のための道具」から「共に成果を生み出すパートナー」へと変えていくと考えられます。特に注目されるのは、これまで人の役割が大きかった戦略的な判断や新規事業の立ち上げといった領域への活用です。

 さらにIoT(Internet of Things)やロボットと結び付くことで、デジタル領域を超えて実世界での活動にも広がる可能性があります。一方で、先に挙げた通り、AIが自律的に行動する時代には責任の所在やルールの整備が重要です。人とAIがどのように役割を分担して協働していくかを見極めることが、企業の競争力を左右する重要なテーマとなります。

古閑俊廣

BFT インフラエンジニア

主に金融系、公共系情報システムの設計、構築、運用、チームマネジメントを経験。

現在はこれまでのエンジニア経験を生かし、ITインフラ教育サービス「BFT道場」を運営。

「現場で使える技術」をテーマに、インフラエンジニアの育成に力を注いでいる。

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