「AIエージェントが自ら金を稼ぐ」時代になる――開発者はどうあるべきか、Kongに聞いたAI時代のAPI管理とその変化(後)

生成AIからAIエージェントの活用への流れが生まれる中で、開発者や企業のIT部門はこれからの変化にどう備えるべきか。

» 2025年12月23日 05時00分 公開
[遠藤文康@IT]

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 生成AI(人工知能)の急速な普及により、企業のシステム設計やソフトウェア開発の在り方は、大きな転換点を迎えている。特に、自律的にタスクを実行するAIエージェント活用の機運も高まる中で、開発者に求められるスキルや役割も変化し始めている。

 企業にとっては、単に生成AIツールを導入するだけでなく、システムとデータのつながり方や、それらをどう安全に制御するかという基盤設計そのものの見直しが重要なテーマになりつつある。

 そうした中、AIエージェントが外部の情報やサービスに接続し、タスクを実行する際の接点となるのがAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)だ。その接続を安全かつ効率的に管理するための仕組みとして「APIゲートウェイ」がある。この分野を手掛けるKongは、AIによる外部データやサービスとの連携向けに最適化した「AIゲートウェイ」の機能強化を進めている。

画像 KongのCTO 兼 共同創業者のマルコ・パラディーノ氏

 同社のCTO(最高技術責任者)で共同創業者のマルコ・パラディーノ氏は、「AIエージェントが、他のAIエージェントから何かを“購入”する――そんな世界が、既に仕様レベルでは動き出している」と語る。AIを取り巻くこうした進化は、企業のシステムや開発者の役割にどのような変化をもたらすのか。

 AIが外部のデータやツールに接続するためのプロトコルとして登場した「MCP」(Model Context Protocol)やAIエージェントがAPIに与える影響について聞いた前編に続き、本編は開発者や企業のIT部門がAIエージェントの時代にどう向き合うべきかを考察する。

「AIエージェントが自ら金を稼ぐ」時代に、開発者に求められるものとは?

 いまわれわれが経験しているのは、1995〜1996年ごろのインターネット黎明(れいめい)期に相当すると言える大きな変革。「AIエージェントが与えられたタスクに対して自らどのAPIが利用可能なのかを探索し、判断し、労働を交換し合うような世界が控えている」とパラディーノ氏は語る。

 そこでは大規模言語モデル(LLM)や、AIが外部のデータやツールに接続するために使われるMCPなどのトラフィックを管理、保護する機能が必要になるだけではなく、「AIエージェントがAIエージェントに支払いをするための仕組み」も必要になる。

 このような自律的なAIエージェント同士の取引が現実味を帯びていることを示す動きとして、Kongは2025年9月にOpenMeterの買収を発表した。OpenMeterは、サービスの使用量に応じたメータリング(測定)と課金処理を提供するオープンソースおよびSaaS(Software as a Service)型のツールだ。

 「現状は利用したトークン単位で課金されるのが一般的だが、今後AIエージェントの場合はアウトカム(成果)に対して課金する方が自然なケースも多くなる」(パラディーノ氏)という。例えば「○件の問い合わせに自律的に対応した」といった成果に対して支払いが発生するようなケースだ。こうした“AIエージェント前提”のマネタイズ(収益化)インフラが必要になる。

 なおOpenMeterは2026年前半までに、同社のAPI管理プラットフォーム「Kong Konnect」に統合される予定だという。

変革は既に始まっている

 こうした変化に対して、企業のIT部門はどう向き合うべきか。パラディーノ氏は「どれだけ早く普及するのか」を真剣に見極めなければならないと指摘する。

 その変化は、インターネット黎明期に匹敵するほどのインパクトを持ちながら、当時よりもはるかに速いスピードで進行する。OpenAIの「ChatGPT」が登場し、Google検索の一部が生成AIによる回答に置き換わり始めてから、わずか2年足らずでAIエージェントの時代が動き出した。MCPのような新しい接続プロトコルが広がりつつあるのも、その一端だ。

 現在では、マネタイズを含めた「AI活用前提の設計」や、それを支えるインフラへの移行が、実装段階に入り始めている。

 一方で開発者は、AIによるコーディング支援ツールを活用し、コードの生成や補完、レビュー、テストといった開発工程の効率化を進めている。こうした支援が当たり前になる中で、数年後には「キーボードをたたいて一行ずつコードを書いていた時代が、若い世代には“狂気じみて”見えるかもしれない」と、パラディーノ氏は語る。

 これから重要になるのは、「最終成果物を自分の手で作る」のではなく、「AIエージェントが安全かつ予測可能な範囲で自律的に動ける枠組みを設計する」ことだと同氏は指摘する。

 エージェントの自律性を支える基盤の設計と構築こそが、今後より強く求められる役割になる一方で、AIが実行する個々の処理の流れには、人間が深くは関与しない。「われわれは、極めて強力で自律的な力である“原子炉の反応”そのものを起こすのではなく、それが安全に制御された環境で発生するように設計する側に回るべきだ」と、同氏は例える。

リスク回避的な傾向が強い日本企業にも変化

 一方、企業全体としての姿勢にも変化の兆しが見えてきた。これまで日本企業は、イノベーションに対して慎重でリスク回避的な傾向が強いとされてきたが、生成AIやAIエージェントに関しては状況が変わりつつある。パラディーノ氏は、「顧客企業との対話の中で、現実に目を向け始める動きを確かに感じている」と語る。

 多くの企業では、AI活用の取り組みが遅れていることを幹部自らが認識しており、もはやAIは「リスクがあるから避けるべき存在」ではなく、「その可能性を引き出すために積極的に取り込むべき技術」であるという意識が浸透し始めているという。

 Kongは2023年11月に日本法人を設立してからまだ2年だが、国内ではシステムのモダナイゼーション(近代化)に積極的な企業や、セキュリティを重視する企業を中心に、APIゲートウェイの導入が着実に増えている。

 同様に保守的な傾向がある欧州でも、生成AIへの取り組みが遅れている地域はある。パラディーノ氏によれば、共通して見られるのは「生成AIを拒絶している」のではなく、「関心はあるものの、始めるための準備が整っていない」ケースが多いという点だ。

「知能×能力」の組み合わせ

 では、企業がAIエージェントを活用するための“準備”とは何か。まず必要になるのが、AIエージェントが業務システムやデータに、安全かつ継続的にアクセスできる環境を整備することだ。その前提として、「APIをどのように公開・管理し、安心して利用できる状態にするか」は、基本的な要素の一つになる。

 これまで社内外のシステムやデータをつなぐAPI基盤の整備に継続して取り組んできた企業では、システムの分断(サイロ)をある程度解消しつつある。一方で、API基盤への投資をしてこなかった企業では、AIエージェントの活用以前に、そもそもそれを構築・導入できる体制が整っていないケースが多い。生成AIやAIエージェントは、業務システムやデータに接続できなければ、その力を十分に発揮できない。

 「本当に重要なのは、“LLM単体”ではなく、知能(Intelligence)を担うLLMと、実行力を担うAPIという“能力(Capabilities)”をどう組み合わせるか。『知能 × 能力』をどう実現するかが鍵になる」と、パラディーノ氏は語る。


 新しい技術に対しては「まず様子を見る」という姿勢が選ばれがちだが、AIを取り巻く技術の進化が加速する中では、その判断が後れにつながり、結果的に大きな代償を伴う可能性があることも意識しておくべきだ。

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