ハルシネーションを抑える「RAG」の仕組みや効果を学ぼうビジネスパーソンのためのIT用語基礎解説

IT用語の基礎の基礎を、初学者や非エンジニアにも分かりやすく解説する本連載、第37回は「RAG」です。ITエンジニアの学習、エンジニアと協業する業務部門の仲間や経営層への解説にご活用ください。

» 2026年02月02日 05時00分 公開

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1 RAGとは

 RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)は、生成AI(人工知能)が回答を作る前に必要な情報を検索、参照した上で答える仕組みです。生成AIが事前に学習した知識のみで回答を生成するのではなく、社内マニュアルや規定、インターネット上の情報などを参照して回答を生成します。

 近年、生成AIが急速に普及していますが、業務で利用する際には、事実ではない内容をもっともらしく回答する「ハルシネーション」に注意する必要があります。生成AIは一般的な知識を基に文章を作ることは得意ですが、企業独自の業務ルールや最新情報を正確に反映することは苦手です。

 業務で利用する際の課題は、回答の正確性や根拠の明確さです。RAGを使うことで、AIはあらかじめ指定された情報を参照してから回答するため、ハルシネーションを抑え、業務に即した回答が可能になります。生成AIの利便性を生かしつつ、実務で求められる安心感を確保できる点から、RAGが注目されています。

2 RAGの仕組み

 RAGの仕組みは、技術的には複雑ですが、考え方自体はとてもシンプルです。自分の記憶だけで答える人と、関連する資料を確認してから答える人の違いだと考えると分かりやすいでしょう。

 RAGを使わない生成AIは、これまでに学習した一般的な知識を基に、その場で回答を生成します。そのため、回答は素早い一方で、社内ルールや最新の業務手順と異なる内容を返してしまうことがあります。自然な文章でもっともらしく応答するため、誤りに気付きにくい点も課題です。

 RAGを使えば、AIはまず社内資料やインターネット上の情報を検索し、その内容を参照した上で回答します。これにより、業務ルールや前提条件を踏まえた情報に基づく回答になりやすく、業務でそのまま使える情報を得られるようになります。

図1 RAGの有無比較イメージ

 重要なのは、RAGでは情報をAIに再学習させる必要がないという点です。参照する情報を更新すれば、次回以降の回答にはその内容が反映されます。

 業務ルールが変わりやすい企業や常に最新の情報を必要とする企業にとって、この点は大きなメリットです。また、RAGを使うことで、回答の正確性だけでなく、「どの情報を基に答えているか」が分かりやすくなります。これは、業務でAIを使う上での安心感につながります。

 RAGは生成AIを、単なる便利な「ツール」から業務に耐え得る実用的な「仕組み」へと変える役割を果たしているといえます。

3 RAG導入で期待できる効果

 RAGを導入することで生成AIは、単なる情報検索や文章生成のツールにとどまらず、日常業務の改善に直接役立つ仕組みとなります。企業において特に効果が表れやすい代表的な業務改善の例は以下の通りです。

3.1 社内問い合わせ対応、業務ルール確認の効率化

 社内規定や手続き方法、業務ルールに関する問い合わせや確認作業は、情シス、人事、総務などのバックオフィス部門に集中しがちです。RAGを活用すると、社内規定やFAQなどの資料を参照しながら回答できるため、担当者による個別対応を減らすことができます。

3.2 引き継ぎ、ナレッジ共有の支援

 異動や退職に伴う業務引き継ぎでは、過去の資料やノウハウが分散し、属人化しやすいという課題があります。RAGを活用することで、引き継ぎ資料や過去の業務記録を参照しながら情報を確認できるようになり、担当者が変わっても業務内容を把握しやすくなります。結果として、引き継ぎ負荷の軽減や、組織としての知識の蓄積、共有を促進します。

3.3 経営層向けの情報確認、意思決定支援

 社内に散在する資料をまとめて参照し、必要な情報を短時間で把握できます。詳細な分析ではなく、全体像を素早くつかみたい場面で効果を発揮します。

3.4 最新情報、外部基準を踏まえた情報提供

 官公庁やベンダーの公式サイトなど、信頼できる外部情報を参照することで、社内資料だけでは補えない最新情報や外部基準を踏まえた回答を実現します。

4 RAG導入時に注意すべきポイント

 RAGは業務で使いやすい仕組みですが、導入すれば自動的に成果が出るわけではありません。効果を発揮させるためには、事前に押さえておくべきポイントがあります。

4.1 参照する情報と運用ルールの整備

 RAGは指定された資料を基に回答する仕組みであるため、参照する情報の品質に大きく左右されます。情報が古い場合や内容に曖昧さがあると、回答の正確性も低下します。

 そのため、導入に当たっては、参照する情報を整理するとともに、「誰が」「いつ」「どの」情報を更新するのかといった運用ルールをあらかじめ定めておくとよいでしょう。RAGは再学習が不要という利点がありますが、その分、参照元の情報を継続的に管理する仕組みを持つことが重要です。

4.2 セキュリティとアクセス制御

 社内情報を参照する際、参照範囲を適切に整理し、利用者の役割に応じてアクセスできる情報を制御する必要があります。また、どの情報を基に回答しているのか把握できるようにしておくことで、問題発生時の確認もしやすくなります。利便性と安全性のバランスを意識した設計と運用が求められます。

4.3 インターネット上の情報を参照する際のリスク

 インターネット上の情報は参照先の選定を誤ると、誤答につながる恐れがあります。そのため、参照先を公式サイトなどの信頼できる情報源に限定するよう設計することで、情報の信頼性を確保します。

5 今後の展望

 総務省によると、日本企業におけるAI活用は着実に進みつつあるものの、実業務への本格的な定着はこれからの段階にあります。

 特に生成AIについては、関心や検討が広がっている一方で、業務ルールや社内情報との整合性、誤情報への懸念から、慎重な導入姿勢を取る企業もまだ多いようです。今後は、生成AIを単体のツールとして使うのではなく、企業が保有する情報を前提とした形で業務に組み込んでいく動きが一層進むと考えられます。

 こうした流れの中でRAGは、生成AIを業務プロセスに自然に組み込むための実践的なアプローチといえます。社内情報の整理と併せてRAGを活用することで、より安定的に、業務の中で生成AIが使われていくようになるでしょう。

古閑俊廣

BFT インフラエンジニア

主に金融系、公共系情報システムの設計、構築、運用、チームマネジメントを経験。

現在はこれまでのエンジニア経験を生かし、ITインフラ教育サービス「BFT道場」を運営。

「現場で使える技術」をテーマに、インフラエンジニアの育成に力を注いでいる。

実践型ITインフラ研修 BFT道場


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