イノベーションや価値創出の圧力が高まる中、自律的に動くエージェント型AIの活用が注目されている。ROIを得るために、ソフトウェアエンジニアリングのリーダーはエージェント型AIをSDLC全体で体系的・段階的に適用することが重要となる。
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ソフトウェアエンジニアリングのリーダーは、イノベーション、スピード、価値を実現しなければならないというプレッシャーの高まりに直面している。自律的かつ非同期に行動するAI(人工知能)である「エージェント型AI」は、ソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC)全体に変革をもたらす可能性を秘めている。
有意義な投資対効果(ROI)を生み出すために、リーダーは、AIユースケースへの単発的な取り組みを超えて、SDLCにおけるさまざまなユースケースや業務にわたって、体系的かつ段階的にAIを活用する必要がある。この体系的かつ段階的なアプローチにより、エンジニアリングの改善をビジネス成果につなげられる。
Gartnerの2025年のソフトウェアエンジニアリングにおけるAI調査では、明確な格差を浮き彫りにしている。10件以上のユースケースにAIを適用しているチームは、5件未満のチームと比べて、イノベーション、ユーザー満足度、開発者の仕事満足度において「AIの効果が表れている」と答えた割合が高い。それぞれ55%、53%、61%となっている。その意味するところは明らかだ。AIのインパクトを最大化するには、SDLCの全領域にわたって広範かつ戦略的に、AIを統合することが不可欠だ。
まず、ソフトウェアデリバリーのバリューストリーム(価値の流れ)全体をマッピングし、ボトルネックを特定して、最大の制約の解消に優先的に取り組む。このプロセスにより、チーム間の引き継ぎから社内の開発ループに至るまで、全フェーズにおける真のボトルネックが明確になる。
ただし、これらのボトルネックを解消するには、AIを導入する前の基礎的な段階として、継続的インテグレーション(CI)やコード解析など、従来の手法が必要な場合もある。AIはあらゆる問題の解決策というわけではないことを認識することが重要だ。
開発者だけでなく、全ての担当者の能力が高まれば、生産性は掛け算で向上する。プロダクトオーナーやUX(ユーザー体験)デザイナー、プラットフォームエンジニアなども、AIによる能力拡張の恩恵を受け、認知負荷や反復作業を軽減できる。
プラットフォームエンジニアリングは、ツールが統合された標準的な開発工程を実現する「社内開発者プラットフォーム」(IDP)を確立する。この開発工程は、AI導入の一貫性向上と規模拡大を促進する、いわば「舗装された道路」だ。
プラットフォームエンジニアリングチームは、SDLC全体をシステム規模で可視化できる独自の立場にある。この固有の視点により、計画、設計、脅威モデリングといった上流フェーズから、リリース管理、構成、運用といった下流の活動までAIを組み込むことができる。
Gartnerの2025年のソフトウェアエンジニアリングにおけるAI調査は、多くの企業がAIの取り組みをコーディング作業に集中させており、上流の要件収集や下流のデプロイ(展開)にAIを適用する企業は少ないことを示している。適用範囲を広げることが、AIの価値を最大化するための前提条件だ。
現代のエージェント型コーディングツールでは、AIはIDE(統合開発環境)で動作して関数スニペットを補完する、単なるコーディングアシスタントから、機能全体を構築できる存在へと進化しており、開発者は、タスクを非同期に実行する多数のエージェントをオーケストレーション(調整、管理)できるようになっている。このアプローチは、並列処理を最大限に活用しながら、開発者が監視を維持することを可能にする。
リーダーは、どのステップを排除できるか、何を残すべきかを見極め、プロセスの変革に注力すべきだ。例えば、手動テストや環境プロビジョニングを自動化すれば、貴重な時間が解放される。その一方で、ユーザーの共感のような重要な人間的要素に焦点を当て直すことは、今後も欠かせない。
チームが自律型エージェントに任せる仕事が増える中、プラットフォームを通じたガバナンスの強化がますます重要になっている。フェーズ1で述べたように、プラットフォームエンジニアリングチームは、IDPを強化することで、セキュリティガードレールの適用、コスト管理、相互運用性の確保ができる独自の立場にある。
IDPの強化により、プラットフォームエンジニアリングチームは以下の4つの方法でAIエージェントを支援できる。
プロンプトからアプリケーションへのワークフローは、自律的なソフトウェアデリバリーの萌芽を示している。自律的ソフトウェアデリバリーは、ユーザーが望む機能を自然言語で説明すると、バイブコーディングプラットフォームが人間の意図を、テスト可能な動作するソフトウェアに変換し、それがテスト、修正を経て本番環境にデプロイされるというものだ。
ソフトウェアの開発、デリバリー方法におけるこうした進化は、人間の仕事の在り方を再構築し、再定義している。人間の仕事は「どのように」行うかが問われる、指示をこなすタスクから「何を」達成したいかを明確にすることが肝要なタスクへと移行する。エージェント型システムがその意図を、動作するソフトウェアへと変換する。
自律的デリバリーパターンを大規模に実装するには、自律的ワークロード最適化や自律的SRE(サイトリライアビリティエンジニアリング)を実現する高度なツールへのセルフサービスアクセスをサポートするように、IDPを拡張する必要がある。これらのツールは、リアルタイムデータ分析によって予測コスト最適化と信頼性向上を実現し、本番環境での自己修復型アプリケーションの運用を可能にする。
Gartnerは、2029年までにSREの60%が、定型的なインシデント対応やポストモーテム(事後検証)タスクをAIエージェントに委ねるようになると予測している。この割合は2025年には5%だったが、今後大幅に上昇することになる。
自律的ソフトウェアデリバリーにおいても、AIの行動に対する人間の監督と介入は重要だ。人間による適切な監視レベルは、ビジネス上の重要性、リスクプロファイル、アーキテクチャの複雑さに応じて調整しなければならない。
ヒューマンインザループ(HITL)監視では、人間が明示的かつ継続的に、エージェントが行動を起こす前に承認する必要がある。一方、ヒューマンオンザループ(HOTL)監視では、エージェントは自律的に行動でき、例外が発生したときにのみ人間が介入する。
従来の出力ベースの指標では、AIエージェントの真のインパクトを捉えきれない。企業はデリバリー効率だけに目を向けるのではなく、アイデア創出、実験、戦略的ブレークスルーから得られる価値を反映した成果ベースの創造性指標に焦点を当てる必要がある。
プロダクトの発見、計画、設計といったSDLCの初期段階において、エージェント型ツールはアイデア出しのパートナーとして機能し、実験を加速させる。この人間とAIのパートナーシップは、画期的なプロダクトイノベーションの触媒となり、単なる生産性向上をはるかに上回る変革的なインパクトをもたらす。
出典:Maximizing Agentic AI Impact in the Software Development Life Cycle(Gartner)
※この記事は、2026年2月に執筆されたものです。
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