第310回 【最新動向】やはりAIバブルは崩壊するのか? イラン情勢を背景にAI・半導体・電力が一蓮托生で沈む新シナリオについて考える頭脳放談

2026年、世界は各地で噴出する戦火と、膨張しきった「AIバブル」の臨界点に直面している。NVIDIAとOpenAIの関係変化や、ホルムズ海峡封鎖によるエネルギー危機、そして半導体供給を揺るがす物理的リソースの限界。かつての日本バブル崩壊を知る筆者が、複雑に連関し、制御不能な大クラッシュへと向かう世界の危うさを鋭く突く。

» 2026年03月23日 05時00分 公開

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「AIバブル崩壊」の足音が…… 「AIバブル崩壊」の足音が……
2026年、世界は各地で噴出する戦火と、膨張しきった「AIバブル」の臨界点に直面している。NVIDIAとOpenAIの関係変化や、ホルムズ海峡封鎖によるエネルギー危機、そして半導体供給を揺るがす物理的リソースの限界。かつての日本バブル崩壊を知る筆者が、複雑に連関し、制御不能な大クラッシュへと向かう世界の危うさを鋭く突く。画像は、Morgan Stanleyが2026年3月4日(米国時間)に米国サンフランシスコで開催したイベント「Morgan Stanley Technology, Media & Telecom Conference」で講演したNVIDIAのJensen Huang(ジェンスン・フアン)CEOをイメージして編集部で作成したもの。同イベントで、Huang氏はOpenAIへの投資金額の見直しなどについて記者の質問に答えている。

 後の時代の人からすると、2026年は戦火が燎原(りょうげん)の火のごとく世界各地に飛び火していった年に見えるのかもしれない。ひとたび「点火」された火は、条件によっては着けた人の思惑を超えて飛び火していくのだ。その様子は、2025年末から2026年にかけての冬に日照り続きで頻発した山林火災に似ているかもしれない。

 特に問題に思えるのは、世界中に火種が充満しているかのように思われてならないことだ。当然だが、ドミノ倒し的、あるいは連鎖反応的にあちこちで発火すると手が付けられなくなる。制御不能だ。突拍子もない話かもしれないが、そういう危うい世界の中心に近いところに今の半導体業界は置かれているような気がしてならない。

 経済的な火種の一つが、膨れ上がったバブルである。ひとたびはじけると直撃を受けた範囲の人々は苦境に陥る。筆者は日本のバブル崩壊を目の当たりにし、不動産バブルの負の遺産を実体験している。崩壊しかかったところで何やら人為的に押しとどめられている中国の様子など見ると、全くのひとごととも思われない。自分もいつか通った道か。

 苦しい体験をしたが、しかし、日本のバブル崩壊は経済面に限定されていた。「失われたX年」といわれても、日本社会は耐え忍ぶ体力があったし、周囲の世界秩序もまだまだ維持されていた。今にして思えば、局所的・限定的な崩壊だったといえる。

 しかし、2026年の今、どこかの戦火のとばっちりで何かのバブルが崩壊すると、経済面だけ限定とか、どこかの地域限定とか言っていられず、世界的大混乱を招くことになることは必定だ。どうもそんなバブルはこの世界に幾つも存在して、その多くに半導体も組み込まれているようだ。

 また、今の世界、それら多数のバブルがそれぞれに連関し合っている。その上、その仕組みがよく見えないことも多い。恐ろしいことに、崩壊するときは一蓮托生(いちれんたくしょう)か。

AIバブルという最大の火種

 今の世界で最も大きそうな「バブル(まだ崩壊すると決まったわけじゃないのだが)」といえば、「AI(人工知能)バブル」ということになるだろう。大きさはその成長速度と金額による。半導体はまさにその真ん中にある。経済学素人の筆者が書くのも何だが、バブルの特徴として、大きくレバレッジを効かせた指数関数的な成長(金額的に)の後にはじけることが挙げられると思う。

 勝手な意見だが、そろそろ「AIバブル」が限界に近づいている兆候を感じている。例えば、両者手を取り合って急激に「膨らませてきた」元凶ともいえるNVIDIAとOpenAIの関係にも変化が見えてきた。

 つい最近、NVIDIAのJensen Huang(ジェンスン・フアン)CEOは、Morgan Stanleyが2026年3月4日(米国時間)に米国サンフランシスコで開催したイベント「Morgan Stanley Technology, Media & Telecom Conference」で「OpenAIへの300億ドルの投資が最後かもしれない、2025年発表した1000億ドルという投資計画は見直す」というようなことを言ったらしい(NVIDIAのWebキャスト「Morgan Stanley Technology, Media & Telecom Conference」参照のこと)。

 はた目に見ても風呂敷広げ過ぎで大丈夫かという気がしていたから、足元を見直しているということかもしれない。そしてお金を集め続けるAIの裏側で、従来型のソフトウェア産業からお金が逃げる兆候もあるみたいだ。

バブルを律速する「物理的リソース」

 バブルにおける膨張はその多くが「金融的」な手法でなされることが多いので、スピードも速いし、数学通りの指数関数的な挙動は実現されやすい。しかし、現物に裏打ちされた実体経済と結び着くとき、各種の「物理的」リソースにより律速される。現物は計算だけでは存在できない。

 素人考えだが、先行する数字に対して実体との乖離(かいり)が巨大になり過ぎるとバブルというものは崩壊するような気がしている。AIの場合の律速リソースは、第一にNVIDIAのGPUに代表される半導体の供給である。その中にはDRAMやフラッシュメモリといったメモリデバイス、GaN(窒化ガリウム)に代表されるパワーデバイスも含まれている。

 NVIDIAのGPUの供給(供給元は台湾のTSMC)が正常でも、メモリが市場に入らなくなったらリソースで律速される。メモリ大手といえば韓国勢だが、現在、Samsung Electronics(サムスン電子)では、ストライキの動きがあるらしい。Samsung Electronicsでストでも起きて、万一DRAMが入らなくなったらバブル崩壊のトリガーになり得る。

 特にSamsung Electronicsがシェア2位を誇る、AIに不可欠なHBM(High Bandwidth Memory)が供給不足になれば、AIバブルが一気に崩壊する可能性もある。ただ、そこで行動しているのは業界の中の人々である。自分たちの行動で金のなる木を枯らそうとは思わないはずだ。そこは理性的で常識的な行動が期待できるだろう。

電力という急所――ホルムズ海峡の影

 一方、理性的な行動とその結果が期待できない分野もあるのが厄介だ。AIの場合、「電力」がそれに当たるだろう。再生可能電力の使用を前面に打ち出して世の中の批判をかわしているAI業界だが、今や「ちょっとした先進国一国」分くらいの電力を消費していると聞く。計算のために超巨大な電力を消費してと考えると、めまいがする。AIがなければ、他のもっと切実な分野に振り向けられたかもしれない電力である。

 そして、米国とイスラエル対イランの紛争に起因するホルムズ海峡封鎖の件がここにのしかかる。石油とLNG(液化天然ガス)の価格が高騰すれば、電力価格も当然ながら高騰することになる。大規模な電力不足にでもなったら、AI業界は再生可能電力を長期供給で確保していたとしても、とばっちりは避けられない。

見えないサプライチェーンのほころび

 そして、石油やLNGに限らず、物流は大問題である。コロナのときにみんな思い知ったと思うのだが、何のサプライチェーンがどこをどう通っているか、全てを把握できている人などいない。

 どうもホルムズ海峡も石油やLNGばかりが通っているわけではないらしい。思わぬものが思わぬところで滞って、ようやく気が付くのだ。特にレアメタルやら銅といった鉱物資源は、それを取引材料にしようとする可能性もある。そう考えると、意外なところで意外なトリガーが引かれて、思いもよらぬ分野でバブル崩壊ということもあり得そうだ。

非対称攻撃という「奇襲」シナリオ

 さらに言えば、リソースの律速による成長の停止(と崩壊)シナリオ以外に、人為的な奇襲事件がトリガーを引いて崩壊するというシナリオもあり得る。バブルならではのレバレッジの高さは、無理に無理を重ねた破裂寸前の状態である。ちょっとした事件でも急激な巻き戻りを起こす可能性があると思う。

 そして、どの分野でもバブルな状況が逆回転を始めると、元に戻すのはまず不可能なのだ。日本のバブル崩壊を経験した者として言える。その中でも現在のAI業界、インターネットを「つかさどる」プラットフォーマー各社というのは、世界に対する影響力という点で最重要のインフラを抑えている存在といえる。

 物理攻撃から守るのが非常に難しいソフトターゲットである。その心臓部の一部でも停止すればそれに依存する全世界が大混乱となるだろう。一矢報いたいと思う立場の人物にとって、非対称な戦闘の狙い目にならないか。9.11もひどかったが、ここの部分の機能喪失は、たった数週間でも世界的な大混乱を起こしかねないのだ。

 世界のあちこちに存在するバブル、それらは富の非対称と言ってもいいかもしれない。昔のバブルでは、その範囲内は好景気だった。今のバブルは、もうけている人とそうでない人のまだらな現象だ。そして各種のバブルは相互に連関している。非対称な攻撃は連鎖的な崩壊のトリガーを引きかねない。制御できない大クラッシュは社会の退化とでもいうべき現象を起こすかもしれない。老人の世まい言か。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサを中心とした開発を行っている。


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