象印マホービンのサービスを支えるIoT/AIネットワーク、「SORACOM」とは羽ばたけ!ネットワークエンジニア(99)

IoTデータ通信サービスの先駆者であるソラコムは2026年1月、グループ全体の契約回線数が900万を突破したことを発表した。事例を通じて、IoT/AIネットワークの最新形態と活用方法を見てみよう。

» 2026年03月30日 05時00分 公開

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連載:羽ばたけ!ネットワークエンジニア

 「SORACOM」は、ソラコムが2015年に従来のMVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想携帯通信事業者)とは一線を画する先進的なIoT(Internet of Things)向けMVNOとして開始したサービスだ。

 SORACOMが画期的だったのは、AWS(Amazon Web Services)上に自前のモバイルコア(通常ハードウェアで構築される通信事業者の中核システム)をソフトウェアで構築したことだ。そのため、MNO(Mobile Network Operator:大手携帯通信事業者)の基地局やバックボーンネットワークは利用するが、モバイルコアでSIMの認証に加え、速度や各種サービスの設定、利用の開始/中断などをユーザーコンソールやAPIを使って簡単かつ柔軟に行えるようになった。

 単にMNOに代わってスマホやPCをインターネットに接続するだけが目的だったMVNOと違い、「CPUやメモリが非力なIoTデバイスを効率的、効果的にクラウド上のアプリケーションと接続する」という目的を、別次元の機能で可能にしたのだ。

 2026年3月9日、ソラコムのエバンジェリストである松下享平氏に、大きく進化したSORACOMの現在のサービスと事例について取材させていただいた。

SORACOMの仕組みと特長

 SORACOMの基本構成を図1に示す。

図1 SORACOMの構成

 SORACOMは、SIM/デバイス、ネットワーク、クラウドの3層から成っている。SIMとしては、スマホなどで使われている「カード型SIM」、書き換え可能な「eSIM」(Embedded SIM:チップとして基板に実装)、書き換え可能でチップレスの「iSIM」(Integrated SIM:プロセッサの一部として実装)の3種がサポートされている。デバイスとしては、USBドングル、通信モジュール、クラウド型カメラなどが提供されている。

 ネットワークは国内ではNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクを使っており、海外は200を超える国と地域に対応している。4G/5Gだけでなく、LPWA(Low Power Wide Area:少ない消費電力で、広範囲の通信ができる無線通信)としてLTE-M(Cat-M1)に対応している。

 携帯電波の届かない場所では狭帯域の衛星通信(日本では認可待ち)が利用でき、IoT向けVPN(仮想プライベートネットワーク)サービスを併用することで「Starlink」との接続も可能だ。

 サービスのコアとなるクラウドは多彩なアプリケーションとソリューションを持っており、その数は20数種類に上る。図1にはそれらを4つに集約して書いている。

 以下、事例で具体的な機能を見ていこう。

象印マホービンの「みまもりほっとライン」

 「みまもりほっとライン」は、「遠く離れて暮らす親の毎日を電気ポットを通じてそっと見守る安否確認サービス」として、象印マホービンが2001年3月から提供し、多くのユーザーに使われてきたIoT応用サービスだ。

 2023年5月のリニューアルでSORACOMが採用され、サービスの充実や通信モジュールの小型化による電気ポットの小型軽量化が図られた。その仕組みは図2の通りだ。

図2 「みまもりほっとライン」の仕組み
MQTT:Message Queuing Telemetry Transport 非力なデバイスでも不安定な電波状況で効率よく通信するために開発された軽量通信プロトコル
MQTTS:MQTT over TLS 通信相手が本物かどうかを確認する認証とデータの暗号化を行う

 みまもりほっとラインには、サービス専用の電気ポット「iポット」に4G通信モジュール(SIM内蔵)が組み込まれており、インターネットやWi-Fiがなくても、ポットに水を入れて電源コードを挿し込むだけで利用できる。

 ご高齢者がiポットを使用(給湯、電源を入れるなど)すると、その利用情報が発信され、Microsoft Azure(以下、Azure)上のIoTプラットフォームにデータが蓄積される。ご家族(見守る方)は、任意に設定した時刻にその情報をメールで受け取れる。それにより「今日も元気でお茶を飲んでいるな」などと、さりげなく見守れる仕組みだ。

 みまもりほっとラインのように多数のSIMを使用する場合でも、SORACOMのユーザーコンソールで効率的に運用できる。回線の操作(使用開始、休止)、接続状況の一覧表示などが簡単にでき、APIを使ったソフトウェアによる制御も可能だ。

 デバイスに負荷をかけず、伝送データ量も増やさずセキュアな通信ができるのも、SORACOMの特長だ。iポットからSORACOMまでは閉域モバイル網で接続するため、暗号化なしでセキュアなMQTTによる通信ができる。

 SORACOMとAzureの間はインターネットを使うため、MQTTSで認証と暗号化を行い、セキュリティを保っている。デバイスで暗号化が不要なため、デバイスのCPUに負荷がかからない。

 また、デバイスとSORACOM間のデータ量が暗号化で増えることもない。認証に必要な証明書をデバイスに持たせるとデバイスへの書き込みや有効期限が切れた場合の書き換えに大きな運用負荷がかかる。しかし、SORACOMでは証明書をSORACOMのクラウドで一元管理し、デバイスのSIMとひも付けて利用するため、大量のデバイスがあっても効率的に証明書を管理できる。

 クラウドの認証も、デバイスにクラウドキーを設定せず、SORACOMでSIMとひも付けて管理する。これもデバイスの負荷軽減と運用負荷軽減に役立っている。

 このように、SORACOMは単にデバイスとクラウド上のアプリケーションをつなぐだけでなく、デバイスの処理負荷を下げてCPUやメモリのスペックや消費電力を抑え、無線通信の帯域幅を節減している。サービス運用者に対してはコンソールとAPIを提供し、大量のSIM/デバイスの効率的な運用を可能にしている。

映像IoT/AIを実現する「ソラカメ」

 SORACOMは2022年5月、映像IoT/AIサービス「ソラカメ」を開始した。その仕組みは図3の通りだ。

図3 ソラカメの仕組み

 ソラカメはクラウドに映像を蓄積するクラウド型カメラサービスで、「低コストで短期間に導入できる」「カメラに映像を保持しないため、セキュリティが高い」「APIにより、自社システムとの連携やAI(人工知能)による分析ができる」という特徴がある。

 カメラは固定モデル3980円(税込)と首振りモデル5680円(同)が用意されている。クラウドライセンスは月額990円からだ。カメラは防塵(じん)防水で、暗い場所でも赤外線で映像が撮れる高性能なものだ。図3にある通り、屋外用キットも用意されており、電源のない農地などでもソーラーパネルと大容量バッテリーで利用できる。

 2025年9月にSORACOMとの連携が強化され、ライブ画像をソラカメからSORACOMに連携することで、AIによる状況分析・記録、特定条件発生時の通知などが可能になった。

 ソラカメは既にさまざまな用途で使われている。倉庫における不審人物の侵入検知と通知、セルフレジの監視といった防犯用途、工場における製造ラインの監視と停止時の原因分析、遠隔監視や巡回監視の省人化、スマート農業における作物映像のAI処理と灌水(かんすい)の最適化などだ。

 映像IoTとAIの連携はまさに「フィジカル(物理空間))のデジタル化」であり、これからもさまざまなアイデアで用途が広がっていくだろう。

企業ネットワークがIoTネットワークに学ぶべきこと

 企業ネットワークにおいても、ネットワークをソフトウェアで制御するSDN(Software-Defined Networking)が10年以上前に登場し、ネットワークのソフトウェア化が進んでいる。SORACOMは企業ネットワークよりもはるかにソフトウェア化が進んでいることに驚かされた。

 そもそも、中核であるパケット交換機能がAWS上にソフトウェアで作られている。認証や暗号化といったネットワークレイヤーに近い処理だけでなく、アプリケーションレイヤーの機能までコンソールやAPIで使えるようになっている。

 企業ネットワークにもIoTネットワークの手法を生かせるシーンがあるはずだ。例えば、企業は今まさに新年度を迎え、組織改正や人事異動が行われている。人が動き、会社貸与のスマートフォンやPCが動く。従業員とデバイス(スマホ/PC)、ネットワーク(SIM)のひも付けと管理をソフトウェアで自動化できれば、企業ネットワークの運用負荷は大きく削減できるだろう。

 モノが情報を発信するIoTネットワークと人が情報を入力する企業ネットワークの間には大きな隔たりがあるように見えるが、企業ネットワークはソフトウェア化という点でIoTネットワークを参考にできる。

筆者紹介

松田次博(まつだ つぐひろ)

情報化研究会(http://www2j.biglobe.ne.jp/~ClearTK/)主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。

IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。本コラムを加筆再構成した『新視点で設計する 企業ネットワーク高度化教本』(2020年7月、技術評論社刊)、『自分主義 営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(2015年、日経BP社刊)はじめ多数の著書がある。

東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)、NEC(デジタルネットワーク事業部エグゼクティブエキスパートなど)を経て、2021年4月に独立し、大手企業のネットワーク関連プロジェクトの支援、コンサルに従事。新しい企業ネットワークのモデル(事例)作りに貢献することを目標としている。連絡先メールアドレスはtuguhiro@mti.biglobe.ne.jp。


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