AIコーディングが当たり前になった今、新人教育の現場に新たな課題が生まれている。「使わせるか」「禁止するか」という問いに、明確な答えはあるのか。そのヒントを、現場の事例と筆者なりの考えから探る。
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AIがコードを書くことは、もはや特別なことではなくなりました。Claude CodeやOpenAI Codexといったツールを使い、AIと対話しながら実装を進めるのが、開発現場の新しい前提になりつつあります。そして2026年4月、そうした環境を“当たり前”としてきた新人たちが、皆さんの現場にも入り始めているのではないでしょうか。
ここで、これから多くの現場が直面していくと予想されるのが、「教育をどうするか」という問題です。AIを使えば「動くもの」はすぐに作れます。しかし一方で、理解が伴わないまま進み、説明できない、レビューで手戻りが発生するといった問題も見え始めています。
現場の流れとしては、まずAIを使う方向に進みますが、トラブルの増加を受けて「新人にはAIを禁止すべき」という極論も出てきます。しかし、AIを禁止すれば新人の不満や生産性の低下といったリスクも抱えることになります。では、このまま「新人にAIを使わせる」しかないのでしょうか。
皆さんは、どちらを選ぶべきだと思いますか。実際の現場では、この問いに明確な答えを出せないまま、手探りで新人教育を進めているケースも多いのではないでしょうか。本稿では、このジレンマをどう考えるべきか、ネット上の意見も参考にしながら、考えを整理していきます。
2025年末にQiitaに公開された記事では、新人にAIの利用を解禁した結果、開発現場でさまざまな問題が顕在化したそうです。具体的には、コードレビューでは多数の指摘が発生し、その内容も、
など、基本的なルールや設計、責務の理解不足に起因するものが目立っていました。コードは一見すると動いているものの、設計の観点では崩れており、結果としてレビューの負荷が高い状態になっていたことがうかがえます。
また、記事中ではレビュー指摘の件数にも触れられていますが、重要なのは数ではなくその中身です。筆者の見立てとしては、こうしたケースでは単に件数が増えているだけでなく、理解不足に起因する“根本的な修正が必要な指摘”が増えていることが、現場の負担を大きくしているのではないかということです。
新人に理由を問うと、「AIがそう言ったので正しいと思った」という答えが返ってきたと言います。このように、新人ほどAIを“神”のように扱ってしまう傾向があります。そのような状態に陥ると、あらゆる判断をAIに委ねてしまうことになりかねず、問題がさらに大きくなってしまうでしょう。
では逆に、AIの利用を制限するとどうなるのでしょうか。同じく2025年末にQiitaに公開された記事では、結果として新人エンジニアの基礎力が育ったそうです。具体的には、
といった良い変化が見られたそうです。いずれも、先ほどの事例で見られた問題とは対照的な変化です。AIに頼らずに試行錯誤することで、開発スキルが伸びていく様子がうかがえます。
一方で、この方法にも課題があります。AIを使わない前提では、冒頭でも述べたように、開発スピードはどうしても落ち、試行錯誤にかかる時間も増えます。また、周囲がAIを使っている中で「なぜ新人の自分たちだけAIが使えないのか」という不満が生まれる可能性もあります。
ここまで見てきた通り、「AIを使わせる」と問題が起き、「AIを禁止する」と別の問題が生じます。2つの事例が示しているのは、「使わせるか/使わせないか」の二択で考えること自体に限界があるということです。筆者がこれらを踏まえて「新人を育てるのに有効だ」と考えたのは、教育プロセスの中でフェーズを分け、AIの役割を段階的に変えていくことです。
具体的には、次の2つのフェーズを意識的に設計します。
最初の段階、例えば1カ月ほどは、あえてAIの使用を制限します。目的は、分からない点を自分で把握し、ドキュメントや既存コードを読み解く力を身に付けることです。いわば「筋トレ」の期間です。
この段階では、正解にたどり着く速さよりも、「なぜそうなるのかを説明できること」を重視します。確かに多少の遠回りにはなりますが、ここで培った力が、後にAIが出したコードの良しあしを判断する土台になります。
基礎的な理解ができた段階で、AIを段階的に解禁します。いわばフェーズ1の「筋トレ」に対して、ここからは「練習試合」の期間です。
まずは1週間のうち1日を「AI活用デー」にしてみます。ただし、AIの出力をそのまま提出するのではなく、「どこをどう直したか」「なぜこの提案を採用したか」を説明できることを必須とします。
問題がなければ、AI活用デーを週2日に増やします。ここでは、“根本的な修正が必要な指摘”が出ないコードになっているかをチェックし、AIを使っても品質が保てるかを検証します。問題があれば、前の段階に戻します。
さらに問題がなければ、完全解禁に進みます。ただし、ここもまだ経過観察中です。フェーズ2全体で例えば3カ月ほどの期間を見て、問題があれば前の段階に戻すなど、解禁の度合いを調整していくとよいでしょう。
経過観察の期間を終えれば、新人は「AIに依存する状態」から「AIを使いこなす状態」に成長したといえます。いわば、「筋トレ」→「練習試合」の成果を発揮する「公式戦デビュー」です。
ここからは、AIの使い方に制限をかける必要はありません。むしろ、AIを積極的に活用して生産性を高めることが期待されます。フェーズ1〜2で身に付けた「知識」と「判断力」があるからこそ、AIの出力をうのみにせず、適切に取捨選択できるはずです。
「新人にAIを使わせるべきか、禁止すべきか」……。この問いに対して、本稿では「段階的にAIを使う」という第3の選択肢を提示しました。重要なのは、二択で考えることではなく、教育のフェーズに応じてAIとの関わり方を変えていくことです。
もちろんAIコーディング自体は今も進化中なので、ツールや使い方は今後も大きく変わっていくでしょう。しかし、AIがどれだけ賢くなっても、最終的にコードの責任を持つのは人間です。だからこそ、「コードの良しあしを自分で判断できる力」という基礎は、どんなツールが登場しても変わらない価値を持ち続けるのではないでしょうか。
本稿の提案はあくまで一つの考え方であり、現場ごとに最適な方法は異なるでしょう。それでも、皆さんの新人教育を考えるヒントになればうれしいです。
Deep Insider編集長の一色です。こんにちは。
私自身も、日々AIを使ってコーディングしています。正直なところ、今さらAIを使わない開発はほとんど考えられません。そうした中で、「新人だけAIを禁止する」と言われると、少し引っかかる気持ちも分かります。「AIを使いたい」というのは自然な感覚ですし、私も同じ立場なら不満を感じるかもしれません。
ただ、書籍や体系的なコンテンツで基礎をしっかり学ぶことの重要性も、強く感じています。AIがあるからといって、その土台となる理解まで省略できるわけではありません。むしろ、AIを使いこなすためには、基礎がこれまで以上に重要になっているのではないでしょうか。
実際、Claude Codeの生みの親であるボリス・チェルニー(Boris Cherny)氏は、エンジニアとして最も影響を受けた技術書として『Functional Programming in Scala』を挙げています。日常的にScalaを使うわけではなくとも、コーディングに対する考え方が根本から変わるのだそうです。AI時代の最前線にいる人が「技術書を読め」と勧めていることは、基礎を学ぶ価値を裏付けるエピソードではないでしょうか。
だからこそ、最初はあえてAIを使わずに基礎を固め、その後で段階的に解禁していくという今回のアプローチが、現実的な落としどころになるのではないかと考えています。
現在は、AIに関する新機能や新しい使い方が次々と登場し、情報の消費スピードも非常に速くなっています。一方で、数学やアルゴリズム、データの扱い方といった基礎は、今も変わらず重要です。Deep Insiderでは、「すぐに役立つ情報」だけでなく、「時間をかけて身に付ける基礎的な知識」を体系的に学べる連載コンテンツが多数公開されています。もし腰を据えて学びたいと思ったときには、ぜひそうしたコンテンツにも目を向けてみてください。
この記事を読み終えたら、まずは以下のプロンプトをAIのチャット欄に貼り付けて、たたき台を作ってみてください。いきなり完成形を作るのではなく、AIと対話しながら詳細を詰めていくのがポイントです。
あなたはエンジニア教育のスペシャリストです。
2026年に入社した新人エンジニア向けに、AIコーディングツールの「段階的な活用プラン」のたたき台を作ってください。
まずはシンプルな構成で構いません。以下の観点だけ含めてください。
・最初にAIを使わない期間を設ける理由
・どのタイミングでAIを使い始めるか
・AIを使うときの最低限のルール
出力後は、このプランを改善していきたいので、私に質問しながらブラッシュアップしてください。
出力されたたたき台をもとに、開発スタイルに合わせてカスタマイズしてみてください。その際、新人と一緒に内容を確認し、「なぜこの段階を踏むのか」も共有していくとよいでしょう。
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