AI需要で国内エンジニア雇用に大変化 全レイヤでのソブリンAI思考が競争力強化に直結

日本は国際競争力を高めるため、エンジニア不足に対処するとともに、ソブリンAIを進めるべきだとCNCFは提言する。ソブリンAIといってもデータ主権だけではない。全てのレイヤで取り組む必要があるという。

» 2026年08月13日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

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 日本がAIで国際競争力を強化するには、データ主権だけでなくフルスタックでのソブリンAI思考が不可欠だとCNCF(Cloud Native Computing Foundation)は指摘する。LLM(大規模言語モデル)については蒸留を積極的に使い、日本のためのオープンなモデルを開発していくべきだという。

クラウドネイティブエンジニアは急増も人材不足は深刻に

 AIが日本の組織を突き動かし、ITエンジニアの雇用環境を急速に変えている。

 日本におけるクラウドネイティブエンジニアの数は約95万人に達したとCNCFは発表している。Kubernetesをはじめとしたクラウドネイティブ技術はモダンなアプリケーションの基盤として世界中で普及してきたが、日本は遅れをとっていることが指摘されてきた。この状況に大きな変化が見られるという。

 AIシステムの開発と運用ではクラウドネイティブ基盤の利用がほぼ常識。このため、日本におけるAIの導入に向けた動きの活発化に呼応して、クラウドネイティブエンジニアへのニーズが急速に高まっているとCNCFは説明する。全開発者に占めるクラウドネイティブ開発者の比率は、2024年第1四半期の24%から2026年第1四半期には41%に急上昇し、世界平均を上回ったという。2026年6月までの1年間にKubernetes技術者の認定試験を受けた技術者の数は、それ以前の約2.5倍に増えているとする。

 だが、喜んでばかりはいられない。絶対数で見るとインドや中国といったアジアの主要国に比べて圧倒的に少ないからだ。日本のIT人材不足は長年の課題だが、AI関連でもDevOps、CI/CD、Site Reliability Engineering(SRE)など、インフラにおけるスキル不足が特に深刻化している。これが日本におけるAI推進の最大の課題だとCNCFは指摘する。

 一方で、日本の組織が既存人材のアップスキリングという、他国ではあまり見られない戦略でこの課題を乗り越えようとしていることにCNCFは注目する。新規採用者が組織内で戦力化するまでには、既存社員のアップスキリングに比べて2倍の時間を要するというデータを取り上げ、理にかなったやり方だと評価する。

蒸留をどんどん使って日本のためのオープンAIモデルの開発を

 日本は、得意分野を生かしながらフィジカルAIなどの取り組みを進め、国際競争力を高めていく必要がある。そのためには、あらゆる観点から「ソブリンAI」(AI主権)を推進すべきだとCNCFは提言する。ソブリンというとデータ主権のみがクローズアップされがちだが、物理インフラ基盤から開発/運用ツールまで、全てのレイヤで特定の国や事業者への依存を減らし、自らの制御を強化する必要があるとする。

 まずインフラ基盤については、これまで世界中でハイパースケールクラウドへの採用が進む一方で、日本は「クラウドへの移行がなかなか進まない国」というレッテルを貼られてきた。ところが最近は、欧米でもAIのためにメジャークラウドから離れ、制御の効きやすい特化型クラウド/コロケーションやオンプレミスへの回帰を考える組織が増えてきた。こうなると、1周回って日本はトレンドをリードする国という言い方もできるようになってきたとCNCFは指摘する。

 だが、物理インフラに関する主権とはオンプレミス回帰の話ではない。ニーズと状況に応じ、自らの判断で選択していける自由を確保することだという。Kubernetesはさまざまな環境を抽象化し、統一した開発・運用基盤を構築できる。この特徴を生かすことを考えるべきだという。

 AIの基盤モデルについては、オープンウェイトモデルが高いコストパフォーマンスを発揮し、注目を集めるようになった。性能についても、数カ月遅れで先進的なクローズドモデルと肩を並べるようなモデルが登場しつつある。

 Linux Foundation CEOのジム・ゼムリン氏は、日本が日本の組織のためのオープンウェイトモデルを構築することが、競争力の源泉になると強調する。

 日本語能力に優れ、日本の文化への適合度が高いLLMを開発し、ユーザー組織が独自の産業データでファインチューニングできるようにする。モデルはユーザー組織のインフラで稼働し、データは日本国内から出ることがない。特定事業者にロックインされず、トークン課金による海外依存もない。

 モデルの開発には蒸留を積極的に活用すべきだという。

 「米国では蒸留が知的財産権違反だと主張する人がいるが、間違いだ。蒸留は出力のランダムなサンプリングであり、知財違反でも窃盗でもない。Google Cloudもサービスとして提供し始めた。オープンなモデルが互いに教え合って性能を高めることで、日本の競争力向上に貢献できる」(ゼムリン氏)

 ゼムリン氏はさらに、「AIにおける競争はモデル単体ではなく、開発・運用環境、SDK、データコンテキスト、コーディングツールといった周辺のソフトウェア生態系をいかに生かすかという点に移行している」と指摘する。

 そこで注目すべきは、CNCFの管理下にあるオープンソースソフトウェアだ。例えばAI推論Podをアイドル時にゼロスケールできる「KubeElasti」、AIモデルのルーティングを実現する「d-LLM」、AIエージェントを安全に実行できるサンドボックス環境として機能する「Lima」など、AI運用の重要な課題を解決するツールが現在も次々と開発されている。

 フルスタックにまたがるオープンソースツールを自らのコントロール下に置き、透明性を確保する形で使いこなしていくことが、ソブリンAIのために不可欠だという。

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