オフィスネットワークの課題の3つ目に当たる「ID中心の認証・認可に基づくセキュリティの実現」は、ゼロトラストアーキテクチャの広範な適用を意味しています。
出社回帰でオフィスが重要な拠点となったとしても、ゼロトラストアーキテクチャの原則である認証・認可と最小権限の付与をオフィス内の端末や従業員に適用するという原則は変わりません。この連載でも繰り返し言及していますが、ゼロトラストアーキテクチャはリモートアクセスを実現するためのものではなく、オフィスなどの組織の内部にいる端末や従業員に対しても暗黙の信頼を置かず、常に検証することでセキュリティを担保するものです。ある端末や従業員に権限を付与した後もその振る舞いを常に監視し、継続的にリスクを監視した上で権限を動的に変える必要もあります。
一方で、これを一気に適用するのは簡単ではありません。出社回帰後も、オフィスの内部ネットワークを暗黙に信頼する従来の仕組みが残っている場合は、ゼロトラストアーキテクチャの考え方を段階的に適用していく必要があります。
特に既存のオフィスネットワークでは、「誰がアクセスしているのか」を確認する認証は実装されていても、「その人が何にアクセスできるのか」を制御する認可までは、厳密に設定されていないケースがあります。例えば、コンテンツ共有のクラウドサービスで、認証を通過した従業員であれば、本来は業務上必要のないファイルにもアクセスできてしまうといったケースです。
このような状況は望ましくないため、各フォルダ、各ファイルのレベルで誰がどのようなアクセスが可能かを厳密に設定しなくてはなりません。また、オフィスからインターネット上にある外部のサービスを利用する場合でも、どのサービスを誰がどこまで利用できるのか、という制御がオフィスのネットワークでも重要になります。
IoT(モノのインターネット)機器などを含む、人間や端末以外の機器やアプリケーションに対しても、適切な認証・認可を適用することが重要です。例えばAIエージェントに対しても適切な認証・認可を実施し、もし本来想定している権限以上の操作を実施しようとした場合には、その操作を実行できないように制御しなくてはなりません。AIエージェントの設定不備やプロンプトインジェクションなどにより、想定以上の権限で操作が実行され、データやプログラムを消去してしまうような事象も実際に発生しています。
これらに加え、出社回帰によるオフィスでの協業のメリットを生かすには、認証・認可を厳密に適用するだけでなく、組織内での役割変更や新たな協業に応じて、アクセス権限を柔軟に変更できることも重要です。例えば、新たなプロジェクトが立ち上がるようなケースでそうした対処が重要になります。そこで求められるのは、プロジェクトの立ち上げと同時にメンバーに必要な権限を付与し、期間中も業務上の必要性に応じて追加の権限を承認・付与する一方、プロジェクト終了時には不要になった権限を削除するといった、動的な信頼の管理です。
本稿ではここまで出社回帰に伴うオフィスでのネットワークの変化と課題、ゼロトラストアーキテクチャ適用のポイントについて述べてきました。次回はゼロトラストセキュリティを実行しているプラットフォームで注意すべき脅威や、ゼロトラストセキュリティだけでは防げない脅威について述べます。
A10ネットワークス株式会社 ソリューション開発・推進部 部長/情報安全確保支援士/博士(情報学)
自社製品を用いた各種ソリューションを他社ソリューションとの連携も含め検討・開発・提案している。デジタル庁においてもネットワークエンジニアリング業務に従事。
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