サイバーリスクの高まりによって、門松氏は「もはやサイバー対策は一企業、一国政府単独の問題を超えた安全保障問題になってきている」と語る。
これに対処するために成立したのが、冒頭で触れたサイバー対処能力強化法だ。この法律には以下の3つの柱がある。
経済安保法に基づいて15業種・258社が指定されている「基幹インフラ事業者」に対しては、特に規制が強化されている。これらの事業者は、VPN装置やファイアウォールといった直接外部につながる機器を「特定重要電子計算機」と定義し、政府に届け出るとともに、機器に対するサイバー攻撃が発生したら政府にインシデント情報を報告する必要がある。
「事業者からインシデント報告が来れば、政府に登録した情報を元に、攻撃対象と同じ機器を共有している基幹インフラ事業者が把握できる。個別の名前は伏せながら内々に対象の組織に知らせることで、仮にまだパッチが存在しない場合でも監視を強化できる」(門松氏)
政府はサイバー対処能力強化法の成立と並行して、体制強化も進めている。「サイバーセキュリティ推進専門家会議」を開催し、民間の有識者から意見を聴取しながら、今後のサイバーセキュリティ戦略の方向性を定めている。2025年12月には新たな「サイバーセキュリティ戦略」が策定された。
サイバーセキュリティ戦略は非常に幅広い内容を包含したものだ。門松氏はこの中から、官民連携に関連する3つのポイントとして「サイバー対処能力を支えるエコシステムの形成」「人材フレームワークの策定」「インシデント報告様式の統一」を紹介した。
特に重要なのが、インシデント報告様式の統一だ。先に触れた通り、サイバー対処能力強化法では、インシデント被害に遭った重要インフラ事業者には政府に報告が求められる。
ただ、報告はこれだけでは終わらない。地元の警察や個人情報保護委員会、監督官庁などへの報告も必要だ。しかしこれまで異なる窓口に異なる書式で届け出をする必要があったことから、被害企業にとって大きな負担となっていた。
インシデント報告様式の統一はこの課題に対処したものだ。高度な標的型攻撃のように長期にわたって潜伏し、侵入されているかどうかが分かりにくいものを除き、DDoSやランサムウェアのように「サイバー攻撃被害に遭っている」とすぐに判断できるものを対象にしている。2025年10月1日からこれらの攻撃に関する政府の報告様式を統一し、これに沿って書類を一つ作ればどの役所でも受け取れるように様式を一元化した。これが第一ステップだ。
2026年10月1日以降はNCOが民間事業者から直接報告書類を受け取れるように整備中だ。「NCOが直接報告を受け取れれば、それを関係省庁に転送できるため、報告窓口が実質的に一元化され、届け出側の負担が低減される」(門松氏)
政府高官などから度々、サイバー攻撃やAIによるセキュリティリスクについて言及される機会はあるが、これに政府機関が具体的にどのような対策を講じているのかは分かりにくい部分だ。今回の講演からその一端やポイントが読み取れた。
政府がAIを活用した防御や官民連携を急ぐ一方で、企業自身もAIによって変化する脅威のスピードに対応できる体制を整えなければならない。AIが攻撃と防御の双方を加速させる時代に、企業は「見つける力」だけでなく、「判断し、動く力」をどこまで高められるか。これがフロンティアAI時代の新たな課題となりそうだ。
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