AIの活用範囲が広がる一方で、医療や金融、政府機関などの厳格な規制を受ける業界では、データをクラウドに移行できないことがAI導入の参入障壁となっていた。CiscoとSplunkはこの課題に対し、データが存在するその場所でAIを機能させる新たな基盤を発表した。
CiscoとNVIDIAが共同で提供するAIインフラ構築用のフレームワーク「Cisco Secure AI Factory with NVIDIA」の最新コンポーネントとして登場した「Cisco AI POD for Splunk」は、オンプレミスやプライベートクラウドにSplunk製品のAI関連機能を持ち込むための事前検証済みレファレンスアーキテクチャだ。
NVIDIAのアクセラレーテッド・コンピューティング(※)と「Kubernetes」基盤を組み合わせることで、「NVIDIA Nemotron」や「Gemma 4」「gpt-oss-20b」などのオープン/自社ホストモデルを、自社データセンター内で安全に運用することが可能となる。
(※)汎用(はんよう)CPU単体では処理が追い付かない大量のデータや複雑な計算などを、GPUやFPGA、ASICといった専用のハードウェア(アクセラレーター)に分担・特化させて高速に実行する仕組み。
カスタムエージェントの作成・展開を迅速化するツールとして「Splunk Agent Launchpad」の一般提供も発表された。Model Context Protocol(MCP)を介してSplunk内のデータだけでなく、「Jira」や「Confluence」といった外部システムと接続するエージェントを構築できる。実際にWaitrose社などの先進企業では、これを活用することで手動のトリアージ作業を60%削減し、平均解決時間を最大50%短縮する成果を上げたという。
さらにデータ基盤全体においては、「Databricks」や「AWS CloudWatch Lake」へと対象を広げたデータソースのフェデレーション機能「Splunk Federated Search」により、データを集約・移動させることなくその場でクエリを実行・分析する環境が拡充された。これに加えて、検索とデータ取り込みを同等に評価する新しい課金体系「Activity-Based Pricing」が提示され、データ量急増期におけるコストの予測可能性向上も図られている。
高度化するAI駆動型サイバー攻撃に対抗するため、セキュリティ分野におけるAIエージェント活用も大幅に強化された。Splunkは「Agentic SOC Workforce」として、「検知・セキュリティエンジニアリング」「スレットハンティング」「調査・対応」「ガバナンス・ポリシー」の4領域における目的別のAIエージェント機能を拡充した。
これらの専門AIエージェント群は、孤立して動作するのではなく、企業の全社的なテレメトリーデータを文脈として解釈しながら自律的に機能する。例えば、大量のアラートから誤検知を自動的に判定してクローズし、本物の脅威に対しては関係する端末の隔離やIPブロック、チケット起票などの定型対応を事前実行しておくことで、アナリストの判断負荷を低減する。
さらに、今回の発表で注目されるのが、オブザーバビリティチームとセキュリティチームの連携強化だ。これまで組織や予算、データが分断されがちだったアプリケーション性能・インフラデータと、セキュリティ脅威データを単一のデータファブリックで相関分析できる機能が2026年内に提供される予定だ。これにより、「システムの不具合がソフトウェアのバグやインフラ障害によるものかどうか、あるいはマルウェアなどの攻撃によるものかどうか」という根本的な問いに対し、ドメインを跨いだ文脈を元に即座に判別・対応することが可能になる。
併せて、資産やリスクをリアルタイムに発見・分析する「Exposure Analytics」の機能拡張や、パッチ未適用の脆弱(ぜいじゃく)性に対してバーチャルパッチ(シールド)を即座に適用する「Live Protect」など、Ciscoの各種セキュリティ製品群との統合連携も深化している。これらのAgentic SOC機能は「Enterprise Security Essentials/Premier」を通じて提供され、あらゆる規模の組織における高度セキュリティ運用の民主化を推進するという。
基調講演の締めくくりとして、ハティ氏はSplunkが目指すビジョンを次のように総括した。
「処理するデータ量を10倍に増やしながら、コストの上昇を抑えることができれば、データを強力な参入障壁(Moat)として活用できます。AIエージェント時代に必要なのは、コストを跳ね上げずにSystem of Recordとしてのデータ基盤を構築し、AIへの信頼を獲得することです」
今回の発表で興味深いのは、AIエージェントの自律性をひたすら高める方向だけを示していないことだ。むしろAIが自律的に動くほど、その行動を観測し、コストを把握し、必要な場面では人間が止められる仕組みが必要になる。
Splunkが掲げる「System of Record for AI」は、AIそのものを記録するというより、AIが企業のデータやシステムを使って「何をしたのか」を追跡可能にする基盤、と捉えた方が分かりやすい。AIエージェントの導入競争が進めば、企業に問われるのは「AIを導入したかどうか」ではなく、「AIに何を任せ、どう監視し、どこで人間が止めるのか」という運用設計になるだろう。
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