脱VMwareで顕在化した「ITインフラを任せられる人」不足――“AI頼み”で本当に解決できるのか:AI時代におけるITインフラ担当者の在り方とは

ITインフラ人材の不足は、単に人数を増やせば解消できるものではありません。対策としてAIに期待する向きもありますが、AIを使うこと自体にも実は難しさがあります。では、どうすればよいのでしょうか。

» 2026年09月27日 08時00分 公開

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 「人材不足」は、ITの世界では目新しい話題ではありません。開発や運用、セキュリティなど、さまざまな分野で人材の確保が難しくなっています。システムの安定稼働を支えるITインフラの構築・運用も、こうした状況と無縁ではありません。

 厄介なのは、ITインフラ業務を担う人材の不足が、単に人数が足りないという“量”の問題にとどまらないことです。ITインフラの構成を理解し、障害や変更がシステムや業務に与える影響を見極めて、今後の構成や対処方針を判断する――。こうした役割を担えるかどうかという“質”の問題もあるというのです。

「ITインフラを任せられる人」はこうしていなくなる

 特に“質”の問題が顕在化した例として、Broadcomによるライセンス変更をきっかけとしたVMware仮想化製品群からの脱却、つまり「脱VMware」に伴う、サーバ仮想化製品の見直しが挙げられます。

 ITインフラの設計・運用に詳しい日本仮想化技術 代表取締役社長兼CEOである宮原徹氏は、脱VMwareを巡って現場を回る中で、オンプレミスインフラ、とりわけ仮想インフラを設計・構築できる人材が不足していることをあらためて実感したと明かします。クラウドサービスの浸透によって、ITインフラ担当者の役割が、ITインフラを「作る」ことから「使う」ことに変わりつつあることが背景にあるというのが、宮原氏の見方です。

 実際、サーバ仮想化製品はオンプレミスインフラを支える仕組みとして広く採用されているものの、クラウドサービスの利用が広がる中で、ITインフラ担当者がオンプレミスの仮想インフラを新たに設計・構築したり、大きく変更したりする機会は、以前と比べて限られるようになりました。新規導入だけではなく、物理サーバの増設や、ハイパーバイザーをはじめとするITインフラの設定・構成の変更についても、経験を積みにくくなっています。

 仮想インフラを設計・構築した経験もないし、既存の構成をどう変更すればよいのかも分からない――。そうした状況にあるITインフラ担当者が「VMware以外のベンダーの仮想化製品に置き換えてほしい」と言われても、何から着手すべきか見当も付かないでしょう。

 いったんクラウドサービスにシステムを移行した後、コストやパフォーマンスなどの理由からオンプレミスインフラに戻す「オンプレミス回帰」に踏み切ろうとする企業もあります。オンプレミスインフラの中身を理解している人材が不足していれば、こうした回帰も進めにくくなります。

 ITインフラを作る経験を積みにくくなることが、結果としてITインフラ人材の“質”の問題につながり、企業の選択肢を狭めることになりかねないのです。

ITインフラ業務へのAI活用では“丸投げ”ではなく“分担”が重要

 AIを活用すれば、ITインフラ人材の“量”および“質”の不足に対処できるのではないか――。その可能性を考える上で参考になるのが、Microsoftが示したAIエージェントによるITインフラの構築・変更、いわば「AI駆動インフラ」の考え方です。AI駆動インフラでは、AIエージェントが人の意図を受け取り、クラウドインフラに変更を適用します。こうした仕組みを活用すれば、人が担ってきたITインフラ業務の一部をAIに任せられる可能性があります。

 ソースコードによってITインフラの構築や変更を実現するIaC(Infrastructure as Code)など、ITインフラ担当者の作業を効率化する技術は既にあります。それでも実現したいITインフラの構成をソースコードに落とし込むといった作業は従来、人が担っていました。こうした作業をAIが担えるようになれば、ITインフラ担当者は手を動かす作業を減らし、構成の検討や判断などに時間を振り向けやすくなります。

 AI駆動インフラのような考え方が広がると、ITインフラ担当者の在り方も変わる可能性があります。手作業をAIが担うようになれば、ITインフラ担当者は、実現したい状態や制約条件といった、人の意図をAIに伝える役割をより重視することになるでしょう。つまりAIで人を代替するのではなく、人とAIが役割を分担するようになるのです。

ITインフラ業務にAIを組み込むこと自体にも壁が

 人とAIの役割分担を進めるには、そもそもAIをITインフラ業務に組み込む必要があります。しかし、それは簡単なことではありません。実際、日本企業ではAI活用がPoC(概念実証)段階にとどまり、ITインフラ業務への適用が進んでいないと、ITインフラサービスベンダー、Kyndrylの日本法人であるキンドリルジャパンは説明します。

 ITインフラの構成要素は相互に依存していることがあり、一部の構成を変更すると、その構成を前提に動くシステムの性能や可用性などに影響する可能性があります。ITインフラの設計や構築、運用、保守といった作業は、こうしたシステムへの影響を見極めながら進める必要があることから、従来は熟練したITインフラ担当者の経験や手作業に依存してきました。

 AIがITインフラ業務を担うには、AIがITインフラの構成や運用状況を参照し、システムへの影響を避けながら必要な操作をできるようにする必要があります。企業はそのための仕組みを用意しなければなりません。AIに任せる作業と、人が判断する作業の範囲も定める必要があります。

 こうした準備を支援する動きも出てきています。例えばキンドリルジャパンが2026年5月に開始したサービス「ITサービス高度化ソリューション」は、複数のAIエージェントを連携させ、ITインフラの構成設計やシステム変更時の影響調査などを支援する仕組みを提供します。この仕組みでは、AIエージェントがITインフラに関する情報を複数のデータソースから横断的に分析し、必要な作業を自律的に判断して実行するといいます。

AIとの役割分担はこう決める 「何をAIに任せるか」は人が握るべし

 これまで人が担ってきたITインフラ業務の一部をAIが代替したり、効率化したりできる可能性は確かにあります。ただしAIには「自社のITインフラをこうしたい」といった意思や目的があるわけではありません。あくまでも「人が定めた目的を実現するための手段」に過ぎないのです。

 ITインフラ人材不足にAIで向き合うのであれば、単にAIを導入したり、AIに全てを任せようとしたりするのではなく、人とAIの役割分担を明確にすることが大切です。具体的な検討の流れを見ていきましょう。

 まずAI活用の目的や要件を定める役割は、引き続き人が担う必要があることを明確にします。ITインフラであれば「どのような構成を実現するのか」「どの要件を満たす必要があるのか」「変更によって何を守るべきなのか」「どこまでのリスクを許容するのか」といった判断がこれに当たります。

 その上で、AIに任せる仕事を切り出します。例えばITインフラに関する情報収集や調査・分析、IaCのソースコード生成、ITインフラの変更案の作成、その他の定型的な作業などです。人はAIが出力した結果を確認し、必要に応じて修正します。特に重要な変更では、最終的な承認やリスク判断を人が担います。

 こうしてAIに任せる仕事が明確になれば、ITインフラ担当者は業務の重心を手作業から意思決定に移せます。AIを単に人の代わりとして使うのではなく、人が担う仕事そのものを変える手段として生かすことが重要です。

 AI導入そのものを目的にしたり、AIを過信したりするのではなく、目的のために人とAIがどう役割を分担するかを考え、実践する。そのことが、ITインフラ人材不足の“量”と“質”双方の問題を解決する糸口になるでしょう。

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