なぜ「光ファイバー」ではなく「無線」なのか? 2Tbpsを実現したNTTの伝送技術:100メートル先まで伝送

毎秒2テラビット(2Tbps)という、次世代の光通信にも匹敵する通信速度を「無線」で実現する――。NTTが、100mの無線伝送実験で2Tbpsを達成した。なぜ光ファイバーではなく無線を使用したのか。またどのような仕組みを用いたのか。

» 2026年09月29日 13時00分 公開
[@IT]

 次世代の光通信にも匹敵する毎秒2テラビット(2Tbps)のデータ伝送を「無線」で実現する――。そんな通信技術の実用化に向けた研究開発が前進している。NTTは2026年9月14日、屋外で100メートル離れた地点に毎秒2テラビット(2Tbps)のデータを無線伝送する実証に成功したと発表した。

2Tbpsを光ファイバーではなく「無線」で伝送する仕組み

 今回達成した2Tbpsは、実用化に向けて研究開発が進む800Gbps(800G)や1.6Tbps(1.6T)といった次世代の光通信にも匹敵する通信速度だ。なぜこれほど高速なデータ伝送を無線で実現できたのか。

 NTTによると、今回の実証実験では100〜300GHzの周波数帯を指す「サブテラヘルツ帯」を利用した。2Tbpsは、ミリ波・サブテラヘルツ帯の無線伝送として世界最高速だという。

 大容量の無線通信を実現する方法として、NTTは「広帯域化」「空間多重化」「高利得化」という3つのアプローチを挙げる。

 今回利用したサブテラヘルツ帯は、広い周波数帯域を利用できるため大容量通信に適している一方、高い周波数の電波は伝送距離を伸ばすことが難しいという課題がある。

 NTTはこれまで、電波の「軌道角運動量」(OAM:Orbital Angular Momentum)を利用した「OAM-MIMO多重伝送方式」を研究してきた。

OAM多重伝送技術 OAM多重伝送技術(提供:NTT)

 OAMを持つ電波は、進行方向に対して波面がらせん状に回転する性質を持つ。異なるOAMモードの電波は互いに干渉しにくいため、複数のデータを同じ時間、同じ周波数帯で並行して送る「空間多重」に利用できる。

 ただし、多重する信号を増やせば、それらを処理するためのデジタル演算の負荷も大きくなる。そこでNTTは、空間多重に必要な信号処理をデジタル処理とアナログ処理に分担させる「ハイブリッド構成」を採用した。OAMモードの生成などをアナログ処理で担うことで、デジタル処理の負荷を抑える。NTTによると、全てをデジタル処理する場合と比べ、演算負荷を数百分の1程度に低減できるという。

 今回の実証では、OAMモード多重やモード内多重、偏波多重を組み合わせ、最大22の信号を空間的に多重した。使用した周波数帯は136.0〜148.5GHzと151.5〜164.0GHz。こうして複数のデータを並行して伝送することで、合計2Tbpsの通信速度を実現した。

「1メートルで1.4Tbps」から「100メートルで2Tbps」へ

 NTTは2023年にも、サブテラヘルツ帯を使って1.4Tbpsの無線伝送に成功している。ただし、そのときの伝送距離は1メートルだった。今回のポイントは、通信速度を2Tbpsまで高めると同時に、伝送距離を100メートルまで延ばしたことにある。

 「高利得化」によって伝送距離を延ばすため、同社は、反射鏡を使ってアンテナの「拡大像」を形成し、電波を特定方向へ強く送受信できるようにする「イメージングリフレクタ技術」を開発した。

 OAMを利用した通信では送信側と受信側のアンテナを精密に向かい合わせる必要がある。距離が長くなるほどわずかな方向のずれが通信品質に影響するため、NTTは電波の干渉状態を基にアンテナの向きを調整する「軸ずれ補正技術」も開発した。

なぜ光ファイバーではなく「無線」なのか

 2Tbpsもの通信が必要なら、光ファイバーを使う選択肢もある。無線を使う理由の一つは、ケーブルを敷設する必要がないことだ。

 AIの普及によってデータセンター内のデータ転送量が増大する中、ネットワークにも800Gbpsや1.6Tbpsといった大容量通信が求められつつある。一方、有線ネットワークでは、光ファイバーの敷設や配線といった物理的な制約がある。

 NTTは今回の技術について、AIデータセンター内やビル間の接続、「6G」(第6世代移動通信技術)の基地局を結ぶバックホール/フロントホール、大規模イベントや災害時の臨時中継回線などへの応用を想定する。

 ケーブルを敷設せずに大容量の通信経路を構築できれば、必要な場所に迅速にネットワークを設置したり、構成変更に合わせて移設したりできる。

 NTTは今後、実環境での長期運用や既存の無線システムへの組み込みなど、実用化に向けた検証を進める。また現在の1対1の通信から多地点同時接続へと拡張し、将来的には10Tbps級の大容量無線伝送技術の実現を目指すとしている。

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