第316回 AI相場の崩壊前夜か? 中国半導体メーカー「CXMT」が引き起こすDRAM市場の大改編:頭脳放談

中国のメモリメーカー「CXMT」が、2026年内に新構造の最先端DRAMを投入すると発表した。既存の韓国勢を2年先行するアグレッシブな動きは、市場に衝撃を与え関連株価の下落を招いている。米国の輸出規制下で自前製造を進める中国の思惑と、過熱するAI投資バブルの限界をDRAM市場の動きから読み解く。

» 2026年10月23日 05時00分 公開

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中国半導体メーカー「CXMT」が引き起こすDRAM市場の大改編 中国半導体メーカー「CXMT」が引き起こすDRAM市場の大改編
中国のメモリメーカー「CXMT」が、2026年内に新構造の最先端DRAMを投入すると発表した。既存の韓国勢を2年先行するアグレッシブな動きは、市場に衝撃を与え関連株価の下落を招いている。米国の輸出規制下で自前製造を進める中国の思惑と、過熱するAI(人工知能)投資バブルの限界をDRAM市場の動きから読み解く。画面はCXMTのWebサイト。

 個人情報流出のニュースがほぼ毎日のように流れてくる。それも複数だ。大慌てでパスワードを変更した人も多いのではないかと思う。しかし、氏名や住所、顔写真などは一度流出すれば「覆水盆に返らず」である。

 企業にとってもユーザーにとっても、漏えいして困る個人情報をサーバに保存しておくこと自体が、今やリスクといえる。企業側は本人確認がとれたら照合用の「印」だけを残し、具体的な情報そのものはサーバから即座に抹消するしかない。少なくとも認証については、サーバには漏れても困らない公開鍵だけを保存し、ログインのたびにユーザーの端末内の秘密鍵で署名してもらって確認する、パスキーのような方式が急速に定着していくはずだ。

 ただ、その移行過程では「パスキーへの設定変更をお願いします」といったメールがまた届くことになる。変更が面倒なだけでなく、「変更お願いメール」の中にはかなりの割合で発信元を偽装したフィッシングメールが含まれるだろうから、これはこれで危ないことになりそうだ。

AI進化の影と「現物」の限界

 そんな個人情報の大量流出を引き起こした原因の1つが、AI(人工知能、Donald Trump米大統領の言葉を借りれば「SI」)の急速な進歩にあることは間違いない。AIエージェントは人間の疎漏な対策などどこ吹く風で穴を見つけ出し、エージェント同士で連携し、目的(評価関数の成績向上)のためには手段を選ばない。「あるときは正義の味方、あるときは悪魔の手先」という昔の言葉が頭をよぎる。

 AIは既に人間を超えているのではないか。そういえば、少し前までは「シンギュラリティ」という言葉をよく聞いたが、最近はあまり聞かない。知らない間にシンギュラリティを超えてしまっているのかもしれない。

 おかげで「このままAIの拡大を野放しにしていてはまずいのではないか」という声もよく聞くようになった。その「ヤバさ」には複数の局面が指摘されている。究極的には人類滅亡への道が憂慮されているが、本稿ではそこまで風呂敷は広げない。まずは現物と銭金の絡む皮相な半導体商売から見ていく。何せ情報だけでなく現物が絡むので、いろいろある局面の中でも限界が分かりやすいからだ。

中国CXMTが仕掛ける最先端DRAM

 ここで登場するのが、前回の頭脳放談「第315回 SK hynix・Samsung・Micronの3強崩しへ。米中ハイテク覇権争いの裏で進む中国HBM国産化のリアル」でも取り上げた中国のメモリメーカー「CXMT(長鑫存儲技術)」である。前回は、韓国勢が大半を握るAI半導体向けの先端メモリ「HBM(High Bandwidth Memory)」をCXMTも開発している、という話であった。CXMTが開発しているというHBMの詳細は未公開なので、憶測(おくそく)を重ねた解説となってしまったが……。

 今回は、より汎用的な主記憶用の最先端DRAMである。2026年10月9日から10日にかけて中国の上海で開かれた半導体関連の会議「第4回集積回路・チップレット会議(Integrated Chip and Chiplet Conference)」で、CXMTの曹堪宇(Cao Kanyu)総裁が、新構造のDRAMを使った最初の製品として、サーバ向けメモリモジュールの「DDR5 RDIMM」を年内に投入すると語ったのだ。影響を受ける範囲(金額)は前回よりも大きいと考えられる。

 最初はサーバ向けとはいえ、この技術が広がれば、AIデータセンターのサーバ機の主記憶からスマートフォンに至るまで応用範囲が広いからだ。年内投入(といったらもうすぐだが)といいつつ、今回も詳細は未公開である。容量もデータレートもプロセスも、顧客も量産目標も明らかにされていない。韓国では、初期製品は新構造を部分的にしか使わないのではないか、という報道も出ている。またもや断片的な報道から推測するしかないのが実情だ。

「4F2」がもたらす構造変化と既存メーカーの葛藤

 キモは4F2と呼ばれるメモリセルの大きさである。現状の世界の主流(実際には韓国勢を中心とするメーカー各社)は6F2だ。ざっくり言えば、F(最小加工寸法)の2乗が単位面積であって、現状では6単位分の面積が必要なセルを4単位分の面積で作れるようになる、つまりセル面積がおよそ3分の2になるということだ。

6F2と4F2 DRAMの比較 6F2と4F2 DRAMの比較
CXMTが2023年のIEDMで公開した論文「High-Performance Gate-all-around Junctionless Vertical-Channel Transistors with the Ultra-low Sub-threshold Swing for Next-generation 4F2 DRAM[PDF]」で、6F2の横型(Recess access transistor)と4F2の縦型(Vertical access transistor)の比較。

 メモリ半導体において、ビット当たりの面積の小ささは正義である。理屈の上では、同じウェハから取れるビット数が増え、コストパフォーマンスは大きく向上する。もっとも、チップには周辺回路もあるのでチップ面積がそのまま3分の2になるわけではない点には注意が必要だ。また、発表からもうかる歩留まりに達するまでには時間がかかる、とみるアナリストもいる。それでも、CXMT製品が広く出荷されれば、市場を席巻する可能性もなきにしもあらずだ。

 主流の韓国勢も4F2レベルの技術開発は行っている。Samsung Electronicsは2026年2月の学会ISSCCで16Gbitの4F2チップを発表済みだが、量産は2028年頃を目指しているとされる。SK hynixも4F2ロードマップを示しているが、2026年内出荷というようなアグレッシブな予定は出していない。

 発表上のスケジュールだけを比べれば、CXMTが2年ほど先行する格好だ。既存ビジネスを動かしてきた側としては、たとえ開発にメドが立っていたとしても、既存の工場設備の有効活用も図らねばならない。量産している最中に突如路線変更するようなことは、なかなかできないだろう。唐突なCXMTの発表に対抗するため、押っ取り刀で4F2の前倒しを発表することになるのかもしれないが。先のHBMといい、韓国の半導体メーカーは「突然の参入はやめてくれ」という心境だろう。

株式市場の動揺と中国の「内製化」戦略

 これに反応したのが「西側世界」の株関係者たちである。Micron Technology、Samsung Electronics、SK hynixが4%安で引けた翌日(2026年10月13日)も、Samsung ElectronicsとSK hynixが7%超下落した。CXMTのDRAMがシェアを奪っていけば、ここまでAI需要で超好況に沸いてきたメモリ業界の業績が落ち込むのではないか、という思惑から半導体関連株が売られた形だ。

 さらに言えば、AIを支えるデータセンタービジネスにもほぼ同時に影が差した。2026年10月14日には、企業のAI投資がデータセンター向けハードウェアの成長を支え続けられるか疑問だとする証券会社(Barclays)の格下げを受けて、AIサーバ大手のDell Technologiesの株価が10%以上下落している。半導体需要全体も落ちるのではという思惑と重なったことも大きそうだ。比重としては後者か。実際、市場関係者の中には、今回の発表は好調だった1年の利益確定売りの「口実」にされただけだ、という見方もある。

 中国が全てにおいて他国に頼らずに済む、何でも自前製造の志向であることはみなさんお分かりのはず。DRAMでもフラッシュでもロジックでもソフトウェアでも、必要なものは全て自国製で展開することを狙っているのは明らかなのだ。

 しかも米国などの規制で、CXMTは最先端のEUV露光装置をASMLから買えない。手持ちの旧世代装置でビット密度を上げるには、セル構造そのものを変える4F2は数少ない有力な手段なのである。

 CXMTは既に台湾の市場調査会社「TrendForce」の調べでDRAM売上シェア9.5%、Samsung Electronics、SK hynix、Micron Technologyに次ぐ世界4位につけている(TrendForceのプレスリリース「DRAM Industry Revenue Rises 59.5% QoQ in 2Q26 as Supply Expansion Continues to Lag Demand Growth, Says TrendForce」)。突然現れたわけではなく、着実に迫ってきた存在なのだ。分かっていても、今回のように一度「材料」が出ると株価が大きく下がったり(そしてリカバリーの過程で上がったり)するのは、株式商売のサガといってしまえばそれまでか。

TrendForceが調査した2026年第2四半期のDRAMサプライヤーの売上ランキング TrendForceが調査した2026年第2四半期のDRAMサプライヤーの売上ランキング
TrendForceのプレスリリース「DRAM Industry Revenue Rises 59.5% QoQ in 2Q26 as Supply Expansion Continues to Lag Demand Growth, Says TrendForce」によると、CXMTのDRAM売上シェアは9.5%と世界第4位。

実体経済とAI需要のひずみ

 ちょっとしたことで株価が一気にガクンと下がるのは、みなさんが現状のAI主導の相場の大崩壊を予感しているからではないかとも思う。いざその時に至れば、崩壊で壊滅的な傷を負う前に売り抜けたい。だいたい指数関数的な拡大というものは長く続くものではないのだ。数学的には指数関数は無限大に発散する。

 しかし、人間社会に無限大はあり得ない。無限大に向けて拡大するかに見えたトレンドは、早晩崩壊するのだ。崩壊の後は乱高下の世界だ。ただ、数字が躍る金融、証券といった分野よりも、現物の制約がある半導体や電力などのリソースの方が、より早く限界に直面しそうだ。

 炭鉱のカナリアか? ただ、現物が流れているだけに、舵を切ってもすぐには反応できない。限界の兆しが早く現れる一方で、その後の動きは鈍い。半導体は、瞬発的な大変動の引き金を引くには速度不足だ。しかし現物があるだけに、一朝事あれば傷は深くなる。巨大な実体設備を抱えるデータセンタービジネスも同様の傾向ではないか。

 お金の流れがイマイチよく分からないAI投資(開発側やインフラ側は巨額の投資をかき集めているが、AIの利用者の誰がAI利用でそんな大金をもうけているのだろう? AIに乗り遅れないために無理やり使っていないか?)に比べたら、半導体は現物があるので、個数も金額も明朗だ。その中でもDRAMは市場規模も大きく分かりやすい。そこに「この時期」に一石を投じてきたのがCXMTということなのだと思う。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサを中心とした開発を行っている。


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