データベースから「データ」へ データベースウォッチャーが振り返る2016年、2017年に注目すべき技術:Database Watch(2016年総集編)(2/4 ページ)
データベースの最新事情を追う連載「Database Watch」から、2016年の動向を振り返りながら、技術者に向けた「2017年にチェックしておくべきトレンド」を先読みします。
オープンソースRDBの両雄、MySQLとPostgreSQLの進化
では、節目が続いたオープンソースRDBから2016年を振り返ってみましょう。
2016年は、2015年の「MySQL 20周年」に続き、「PostgreSQL」も命名されてから20周年となる年でした。ちなみに、ソースコード単位ならば約30年になります。PostgreSQLは、カリフォルニア大学バークレー校の研究プロジェクトであった「Ingres」の後継となる「Postgres」がPostgreSQLの始まりとされ、途中でオープンソース化とSQL標準実装を節目に「PostgreSQL」となりました。
2016年は、世界各地でPostgreSQL 20周年記念イベントが開催されましたが、東京でも2016年12月1日に「PGConf.Asia」が開催されました。国際イベントとしては2回目、アジア地域開催イベントとしては初の開催とのことで、以降、アジア各国で持ち回りでの開催を目指すそうです。こういった取り組みによって、オープンソースソフトウェア(OSS)を率先するグローバルな技術者や企業の結束が一層強まっていくと感じます。
イベント冒頭にはPostgreSQLコアチームのブルース・モムジャン氏(Bruce Momjian)氏があいさつし、続けて基調講演にはHeroku Postgresチーム創設メンバーのピーター・ヴァン・ハーデンバーグ氏(Peter van Hardenberg)氏がPostgreSQLの歴史を振り返り、中国のアリババグループのスコット・シウ(Scott Siu)氏がアリババクラウドにおけるPostgreSQL活用を紹介しました。
PostgreSQLは原則として年に1回のペースでメジャーバージョンアップを行っています。2016年にはPostgreSQL 9.6が公開されました。目玉となる新機能はスケールアップのためのパラレルクエリが挙げられます。他にも、スケールアウトのための同期レプリケーション、VACUUM性能向上で拡張がなされるなど、大規模なエンタープライズシステムでの利用にも耐え得る機能拡張や性能強化に力を入れています。商用データベースに劣らない存在を目指しており、企業のOSS導入に伴う技術的な障害や不安を取り除くことを目的にしたマネージドサービスを展開する動きも活発になってきています。
なお、PostgreSQLの次のメジャーバージョンは数字が飛んで「10.0」に、その次は「11.0」となることが決まりました。バージョン番号のルールが変わり、小数点の第1位がマイナーバージョン番号となるそうです。
また、MySQLも2016年時点の最新版である「5.7」からバージョン番号が飛び、次期メジャーバージョンは「MySQL 8.0」となります。2016年12月現在、MySQL 8.0はまだDMR(開発途上版)の段階ですが、筆者はドキュメントデータベース機能となる「MySQL Document Store」に注目しています。MySQL 5.7でネイティブJSON対応したこともあり、MySQL 8.0では、ドキュメント指向のNoSQLデータベースに近い機能強化に力を入れています。
この他、MySQL 8.0はInnoDBストレージエンジンを利用したデータディクショナリにも特徴があります。これまでフラットファイルで管理されていたテーブル定義やトリガー定義、旧来のストレージエンジンであるMyISAMを用いたユーザーアカウント管理や権限管理などがデータディクショナリに統合されます。内部的な整備が急速に進むと期待されています。
また、ラボ版ではマルチマスター型レプリケーションに関する機能セットが「MySQL InnoDB Cluster」として登場しています。これも将来的にはMySQLの本体に組み込まれることが期待されます。
このようにMySQLとPostgreSQLは、RDBでありつつも、非構造データも対象としたNoSQL的な機能も積極的に採り入れ、RDBとNoSQLのハイブリッド化が進んでいます。同時に、RDBとしてエンタープライズクラスの大規模利用に耐えうる性能強化も着実に実現しています。RDBとしての誇りを持ちつつ、「この先のデータベースはどうあるべきか」を追求し、形にしているように感じます。
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