愛媛編:リケジョもいるよ――「新居浜高専」でロボコン出場を目指そう:ITエンジニア U&Iターンの理想と現実(30)(4/4 ページ)
大人だけなら地方暮らしもいいけれど、子どもの教育には都会が最適?――いえ、そうとは限りません。愛媛には「新居浜高専」をはじめとした、大人も子どもも学べる環境があるのです。U&Iターンの理想と現実、愛媛編Part3は「愛媛の教育環境」を紹介します。
子弟の学び〜研究者やエンジニアへの最短経路〜
ハイレベルな愛媛の公立学校
もし子連れ移住か、定住して家庭を持つなら、お子さんの教育環境が気になるだろう。
その点、愛媛の義務教育は良質なので安心していい。2017年の全国学力テストでは、小学校、中学校とも上位に入っている(※)。愛媛には私立の学校もあるが、デフォルトは公立なので、保護者の懐も安心だ。
国際的研究者を育てる「愛媛大学の特別コース」
親がエンジニアなら、子は技術に関心を持ちやすい。幼いころから身近に機器があるのだから当然ではある。二世が理系を目指すなら、愛媛大学のある松山市と高専のある新居浜市は、有力な移住先候補だ。
愛媛大学には、2005年に開設された「スーパーサイエンス特別コース」がある。前述の3つのセンター、「沿岸環境科学研究センター」「地球深部ダイナミクス研究センター」「プロテオサイエンスセンター」とその関連分野で活躍できる、国際的な人材を育成するカリキュラムだ。
研究者を目指すお子さんがいるなら、このコースは選択肢の1つだろう。移住して自宅から通学すれば、アルバイトに時間を奪われることなく勉学に専念しやすい、という現実的な利点もある。
即戦力エンジニアを育てる「新居浜高専」
愛媛県新居浜市の工学系高等教育機関に、新居浜工業高等専門学校(以降、新居浜高専)がある。連載第28回で紹介した「介護工学研究会」の発起人でもある。地に足のついたエンジニアや研究者を養成する機関だ。
同校には、機械工学科、電気情報工学科、電子制御工学科、生物応用化学科、環境材料工学科があり、多彩な科目を履修できる。
授業を受け持つ教員は、研究者である。当然、専門性は高い。専門学科の教員は、全員が博士号または技術士の資格を持っている。
実験・製造設備も整っている。3D-CADや数値解析ソフトウェアなどのある「情報教育センター」、実験室、実験設備を持つ「高度技術教育研究センター」、実習工場のある「エンジニアリングデザイン教育センター」など、専門的な学びの環境がある。
卒業生の就職率はほぼ100パーセント、学生1人につき10倍を超える求人があるという。「5年間学んで大学の3年に編入」というフレキシブルな進路選択も可能だ(出典:卒業および修了者の就職・進学状況)。
2017年4月に開設した「マシンラーニング応用ラボ」は、人工知能技術を用いた次世代の産学連携を目指しているという。テキストはオライリーの「ゼロから作るDeep Learning — Pythonで学ぶディープラーニングの理論と実装」だ。中学を卒業したばかりのテーンエイジャーが通う構内にこうしたラボがあるなんて、素晴らしい環境ではないか。
高専といえば、何といっても「アイデア対決!全国高等専門学校ロボットコンテスト」だ。同校のWebサイトには最近の戦果が掲載されている。
その昔、1995年にドリームタワー賞を受賞した「ひうちのジョーダン(燧灘のマイケル・ジョーダン)」は、マスタースレーブシステムで、オペレーターの学生の腕に連動して動くアームがシュートを放つ、斬新なものだった。
昭和の時代にはほぼ男子校だった同校も、平成15年には女子寮が竣工。女子は3割弱まで増えている。リケジョの子をもつ保護者の皆さん、新居浜高専いいですよ。
「学ぶ」とはどういうことだろうか?
情報を蓄え、取り出して処理するだけなら、計算機は既にヒトを超えている。五感のセンサーを研ぎ澄まし、得られる気付きをトリガーとして、神経系を伸ばしていく。脳を変容させ、個性ある身体を再構築してこそ、学んだといえるのではなかろうか。
愛媛の学びの環境は、移住者の気付きを喚起するに違いない。
「U&Iターンの理想と現実:愛媛編」、次回(11月公開)は、地方で収入を得る方法を考察します。お楽しみに。
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筆者プロフィール
薬師寺聖
個人事業所セイザインデザイン自営。
1980年代より、勤務先業務の一環として、地域高度情報化推進、産学共同開発、技術イベントや地域ポータルの企画など、地域活性化活動に従事。1998年、XML1.0勧告翌月に退職し、愛媛県鬼北町に移住して開業。東京案件にテレワークで応える。XMLマスター資格試験の初発本など、著書、連載、多数(おもにPROJECT KySS名義)。Microsoft MVPを12年間受賞(Oct 2003- Sep 2015)。
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