「ターミネーター」のモト・ターミネーターを、2022年のテクノロジーで解説しよう(後編):I'll be back(4/4 ページ)
スピルバーグが、手塚治虫が、そして全世界の子どもたちがあのころ夢見たテクノロジーは、2022年現在どこまで実現できているのだろうか?――映画や漫画、小説、テレビドラマに登場したコンピュータやロボットを、現代のテクノロジーで徹底解説する「テクノロジー名作劇場」。「ターミネーター」後編は、3と4を中心に解説する。
軍事AIは襲ってくる?
TERMINATORシリーズに一貫している背景は、米国の軍事システムが全てAIに乗っ取られることから始まる。「審判の日」は、AIのスカイネットが「人間を抹殺すべし」と判断したことが原因で引き起こされた。
今日の軍事AIにおいて注目されているのは、無人運転のような話が多い。開発国は人的被害なしにチャレンジングな作戦を展開したい。兵士は貴重であり、死なせたくない。
数年前までは無人偵察機の遠隔操作が最先端だった。無線操縦のドローンを遠隔から飛ばし、ミサイルを運んだり、偵察したりする。人が乗らない分小型化できるし、地対空ミサイルなどで打ち落とされても捕虜や死者を出さずに済む。これが、さらに進んで今日のドローンの自律制御技術などにより無人化できるようになってきた。通信が切れても自律で任務を遂行できるから都合が良い。放ってしまえば「操縦者」も要らない。
背景になる技術を挙げてみよう。まず自律行動の技術。自動運転技術が発達することで、車両の自律運転技術が発達した。障害物を避けるためのさまざまなセンサーを活用した対象物認識技術、周囲の状況を読み取るSLAM技術、行動計画の最適化を行う技術、クルマの姿勢を制御する技術。航空機も、クアッドコプターなどの発展により、航空機の姿勢制御技術などが組み合わされて、自律制御技術の発展が目覚ましい。
シミュレーション上での架空バトルではあるが、2020年にAIがF-16のパイロットとのドッグファイトで勝利した。
自律制御の開発にシミュレーション技術は欠かせない。今日、ロボット動作の開発が急激に進んだのは、非常に精度の高いシミュレーション技術のおかげだ。シミュレーション技術がないと、実際のロボット、クルマ、航空機を作り、実際に歩かせ、走らせ、飛ばさなければいけない。コストと時間もかかるし、失敗するたびに大きな損害が出る。
シミュレーション技術で制御アルゴリズムを開発することで、納期が短縮化されるし、深層学習などにおいては、繰り返すことが可能になるため精度を上げられる。モータースポーツのフォーミュラワン(F1)でも、エンジンの開発に重要な役割を持っているのがエンジンへの負荷をシミュレーションする「ダイナモ(発電機の意味で知られているが、負荷装置のこと)」という技術だったりする。
これらのAIの利用は、個別の制御に関係するものだ。ドローンを無人で飛ばす、偵察ロボットを無人で歩かせる。少し発展して銃撃やロケットの標的対象物を決定することなどに使われようとしている。
ところで、過去の幾つかの事例に、現場での突然の、不用意な、突発的な攻撃が戦争の口火を切っていると歴史に記録されているものがある。本当に事故のように起きたのか、陰謀なのではないか、など諸説あるだろうが、私は歴史学者ではないのであまり触れたくない。
しかし、誤動作を含めてロボットが判断を誤ることで、戦争に発展することは否定できないだろう。そのような背景からか「非人道的な兵器を規制する特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の締約国が、人工知能(AI)により自律的に人間を殺傷する兵器に関する初の国際指針で合意」という報道もある。撃つのか撃たないのか、まだAIには任せられない、という世界の判断だ。
第2作TERMINATOR2で、スカイネットの基礎技術を作った技術者とされる「マイルズ・ダイソン」が登場し、サラ・コナー、ジョン・コナーと共に、研究成果と参考になった腕部分の残骸を破壊すべく行動する。彼は基本的な技術を作ったにすぎず、人間を抹殺することを計画したわけでない。多くの科学が戦争などと関係なく開発され、結果的に戦争で利用されてしまう。AIのように「判断をつかさどる」テクノロジーでは、研究開発者が「発端」だと解釈されてしまうのだろうか?
AI軍団と人間の間で戦争が起きるとしたら、どういう場合だろうか。それには2つの条件がある。1つはAIが全権を掌握すること。もう1つは、AIが目の前にある事象だけでなく、広範囲かつ長期間に関する大局を処理するようになることだ。
この2つを達成することは現代のテクノロジーでもなかなか難しい。「審判の日」は、核ミサイルの発射制御をAIが行うことで起こり得るが、戦争を続けるにはいささか問題が残る。それは資源とエネルギーだ。軍事活動を長期にわたって継続するには、金属、石油、繊維などさまざまなものを入手する必要がある。ロボット軍団が、それらを全て自前で準備できるとは思えない。
まだ議論は始まったばかりだが、決してAIと人間が敵対するようなことがないよう、見守らなければならないだろう。
ターミネーター
筆者プロフィール
米持幸寿
Pandrbox代表・音声対話インタフェース・プロデューサー
博士(システム情報科学)
日本IBM、ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパンをへて現職。
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