第1回 仮想化とOSSが運用コスト削減に効く理由
株式会社野村総合研究所
田中 穣
首都圏コンピュータ技術者株式会社
工藤 一樹
青柳 隆
2009/3/18
「仮想化」と「オープンソースソフトウェア」は、今後最も発展していく技術分野の1つとなるでしょう。この2つの技術を組み合わせ、システム運用コストと負荷を下げるための考え方やポイントなどを説明します。 (編集部) |
はじめに
「仮想化」と呼ばれる技術が登場から数年がたち、いまやVMware、Xenといった仮想化ソフトは、IT技術者にとって必要不可欠なものとなってきています。仮想化技術自体は数年前から注目されていましたが、それ自体がまだ評価対象であったり、検証用環境、開発用環境として利用するということが多く、ようやく最近になって本番用のシステムとして仮想化技術を導入するという案件が増えてきました。
同じように「オープンソースソフトウェア(OSS)」も、年々種類が増えていくのに加え、その信頼性や実績も認知され、徐々にミッションクリティカルなシステムでも利用されるようになってきました。
仮想化とOSSは、今後最も発展していく技術分野の1つとして、IT技術者にとって避けて通れない道となっていくでしょう。しかし、両者とも入り口は大きく開かれているものの、使い方はユーザーに任されている部分が大きく、運用まで含めた手法というのはあまり確立されていません。
今回は仮想化とOSSのお互いのメリットに注目し、運用負荷を下げるためには、この2つの技術をどう組み合わせ、どう扱っていくべきかという点に注目して説明していきたいと思います。
運用コスト削減のポイント
■コスト削減の考え方
単純にコストといっても導入コスト(一時費用)とランニングコスト(年間費用)がありますが、今回はランニングコストに絞って考えてみます。
ランニングコストの中には、ライセンスのようにお金を支払うだけでいいものもありますが、保守・運用維持のように人の労力が掛かるものも多くあります。最近厳しくなってきている内部統制やセキュリティといった運用負荷が高くなる要素も考慮しながら、いかに楽に運用できるシステムを設計・構築するかということが、システムの生存期間トータルの価値に大きく影響を及ぼすことになります。
■仮想化による運用コスト削減
まずは仮想化、OSSのそれぞれのメリットを整理してみましょう。
すべての仮想化ソフトウェアが対応しているわけではありませんが、仮想化ソフトウェアの基本的な特徴として、以下の機能によるコスト削減が可能なことが挙げられます。
(1)ハードウェアの利用効率向上によるコスト削減
基本的に仮想化ソフトウェアはリソースを動的に割り当てられるため、時間や日によって変動する負荷に柔軟に対応することができます。また、リソース割り当てやサービスレベルを保証する機能もあります。
(2)ダウンタイムの削減
仮想OSを停止することなく、ネットワークコネクションも維持したまま、別の環境に瞬時に移動可能です。つまり、ダウンタイムなしで業務を継続するなどの運用が可能です。
(3)複製による拡張コストの削減
新規に動作環境を作成したい場合は、テンプレートを作成しておけば、ハードウェア購入、OSインストール、アプリケーションの設定などを毎回行わなくても、簡単な設定だけですぐに環境構築が可能です。これを応用すれば、負荷増加時におけるロードバランスとしての水平分散を実現することも可能です。
(4)保守コストの削減
仮想環境を利用したときのライセンスコスト、サポートコストなどの考え方は、基本的にアプリケーションごとに異なります。アプリケーションによっては、物理CPU数に依存している場合もあり、規模が大きくなればなるほど保守コストが大幅に削減できる可能性があります。
■OSSによる運用コスト削減
OSSによるコスト削減としては以下のポイントがあります。
(1)ライセンスコストの削減
OSSを利用する大きな理由の1つとして、無償で利用できるというメリットがあります。また同様に有償ソフトウェアと異なり、保守期限切れによってソフトウェアのアップデートを強要されることもないため、安定したバージョンをより長く利用することが可能です。
(2)障害リスクの削減
無償であることの結果、複数の開発者用端末に入れてもコストが変わらないため、すべての開発環境において本番環境と同じソフトウェア構成が無償で利用できます。本番環境と同じソフトウェア構成で開発できるということは、本番機との相違点が少なくなるため、本番機トラブルの減少が期待できます。
(3)学習コストの削減
一概にはいえませんが、よく利用されているOSSであれば、書籍やインターネットに数多くの情報があります。書籍を読めば簡単に概要を知ることができますし、サンプルアプリケーションが含まれていることも少なくありません。またインターネットでは、コミュニティなどで開発者と直接やりとりすることもできます。開発者や利用者の生の声を聞くことができるのも大きな特徴です。これらの情報源に当たれば、無料もしくは低コストでそのソフトウェアについて学ぶことができます。もちろん商用製品と同じように、有償、無償のセミナーも各社で開催されています。
■オープン系サーバの運用管理の課題
OSSを活用したオープン系のサーバが主流になるにつれ、さまざまなメリットが生まれましたが、逆に新たなデメリットが発生しているのも事実です。
運用という観点からいうと、オープン系サーバの一番の特徴はサーバ台数が多いということです。台数にひも付く運用負荷要素として、構築負荷、検証負荷、パッチ配布負荷、運用負荷などが課題として挙げられます。これらの課題をまとめて解決するソリューションとして、「仮想化とOSS」の組み合わせは相性がよいといえます。
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表1 OSSを利用したオープン系サーバ運用の課題 |
図1 仮想環境利用によるメリット |
本稿では仮想化環境として「VMWare ESX(+Virtual Center)」、OSとして「RedHat Enterprise Linux(RHEL)」、パッチ配布ツールとして「RedHat Network Satellite」を取り上げて説明していきます。
なお、このシステム構成はご覧のとおり、すべてオープンソースというわけではありません。例えば仮想化環境を構築するならば「Xen」、OSとしては「CentOS」というような選択肢もありますが、導入実績を考慮して一部の機能については商用製品を選択しています。すべてオープンソースにするというのも1つの選択肢ですが、場合によっては商用製品と自由に組み合わせることができるというのも、オープンソースの魅力の1つだといえます。
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