元麻布春男の視点次期内蔵グラフィックス機能を占う「SiS315」の性能 |
前回の「元麻布春男の視点:DDR SDRAM対応Pentium 4用チップセットは市場を動かすか?」で取り上げたPentium 4用チップセット「SiS645」は、2つの点で最近のSiSのチップセットとは異なっていた。1つはノースブリッジとサウスブリッジが分かれた2チップ構成であること、もう1つはグラフィックス機能を内蔵しないことだ(SiSではグラフィックス機能を内蔵しない、AGPスロットを備えたチップセットを「オープン・アーキテクチャ」と呼ぶ)。USB 2.0、シリアルATA、ギガビット・イーサネットなど、I/O技術についてはこれから1年以内に登場しそうな、言い換えればチップセットがサポートしなければならないものが少なくない。これまでSiSが手がけてきた1チップ構成のチップセットでは、こうしたI/O技術について、個別に対応することが難しい。かといって、一度にすべてをサポートするには大きなリスクがある。シリアルATAが普及するまで(当面の目標が果たされるまで)、チップセットは2チップ構成にしておいた方が無難だ
一方、SiS645がグラフィックス機能を内蔵しないのは、当面Pentium 4がパフォーマンスPCセグメントのチップセットであり、性能の高い外部グラフィックスが主流になるという見方からだろう。ならば、ほとんど使われないグラフィックス機能を内蔵しても、チップセットのコストが上がるだけだ。だが、Pentium 4の価格セグメントが広がるにつれて、グラフィックス統合型チップセットへの需要が増すことは間違いない。Intel自身も2002年の中頃には、グラフィックス機能を統合した開発コード名「Brookdale-G(ブルックディール・ジー)」で呼ばれるチップセットをリリースするとみられている。SiSも、そう遠くない将来、グラフィックス機能を統合したチップセットをリリースするとみて間違いないだろう。
SiS315がサポートする機能
SiSのグラフィックス・チップ「SiS315」 |
529ボールBGAパッケージに封入されたSiS315。内部アーキテクチャは256bit化されている。機能面では、ほぼGeForce2に相当する。グラフィックス・メモリは、SDRAMとDDR SDRAMの両方に対応している。 |
そのグラフィックス機能を占うべき製品が「SiS315」だ。SiS315は、2000年12月11日に発表された同社最新のグラフィックス・チップだ(SiSの「SiS315に関するプレスリリース」)。2001年6月に台湾で開催された展示会「COMPUTEX TAIPEI 2001」で展示されたものの、なかなか製品が登場しなかった。ようやく8月末になって、搭載したカードのリリースが始まった。
SDRAMとDDR SDRAMの両方に対応したSiS315は、AGP 4x対応のグラフィックス・チップだ。自社の0.15μmプロセスで量産される(SiS645は0.18μmプロセス製造)。同社製グラフィックス・チップとしては、初めてDirectX 7.x互換のハードウェアT&Lエンジンを搭載しているのが特徴だ。テクスチャ圧縮にも対応しており、機能面ではほぼNVIDIAのグラフィックス・チップGeForce2に相当する(Environment Bump Mappingのサポートがないことも含めて)。グラフィックス・コアのクロック周波数は明らかにされていないが、メモリ・バスのクロック周波数は166MHz、内蔵するRAMDACのドット・クロックは375MHz(一部366MHzとした資料あり)とされている。
下の写真は、SiS315を搭載したPower Colorブランド(C.P. Technology製)のグラフィックス・カード「Evil SAM」。メモリ・バス・クロックの定格は166MHzだが、使われているメモリは最大同期周波数200MHzのものだ。DVI-Iコネクタの右に見えるチップ「SiS301」は、セカンダリRAMDAC、テレビ・エンコーダ、TMDSトランスミッタ(DVIデジタル出力)の3つのいずれかとして利用できる(DVIによるデジタル出力時の最大解像度は1280×1024ドット)。SiS315は3Dメガネも標準サポートしているが、このカードでは実装されていないようだ。
SiS315搭載のグラフィックス・カード |
SiS315を搭載したPower Colorブランド(C.P. Technology製)のグラフィックス・カード「Evil SAM」。搭載するメモリ容量、TV出力の有無、DVI出力の有無などにより、複数のモデルが用意されている。写真は32Mbytesメモリ搭載でテレビ出力とDVI出力をサポートした「S315VT」。なお、SiS315自体はヒートシンクの下になって見えない。 |
SiS315の性能はGeForce2 MX200よりも上
では、SiS315の性能はどれくらいのものなのか。いくつかのベンチマーク・テストにより、筆者の手元にあるグラフィックス・カード2枚と比較してみた(グラフィックス・メモリの容量はいずれも32Mbytes)。1枚はPowerVR/ST Micro製グラフィックス・チップ「KYRO I」をI搭載するKY2A(Power Color製)、もう1枚がNVIDIA製グラフィックス・チップ「GeForce2 MX」を搭載するWinFast GeForce2 MX(Leadtek Research製)だ。SiSの資料によると、SDR SDRAMを用いたSiS315のライバルはGeForce2 MXより下位のGeForce2 MX200、またDDR SDRAMと組み合わせたSiS315のライバルがGeForce2 MX400ということだが、手元にあったこのカードで代用させていただく。
下の表に示したのは、現時点でのハイエンドとでもいうべきPentium 4-2.0GHzを搭載したシステムでのベンチマーク・テスト結果だ。3枚の中ではSiS315が最も成績がふるわないが、その差は決して大きなものではない。特に、GeForce2 MXとの差は小さく、これなら本来のターゲットであるGeForce2 MX200となら性能が逆転する可能性がある。性能的にはKYRO IIが最も高いが、価格もSiS315より高い。
SiS315 | KYRO II | GeForce2 MX | |
SYSmark 2001 (1024×768ドット/32bitカラー) | |||
SYSmark Rating |
161
|
165
|
164
|
Internet Content Creation |
180
|
183
|
184
|
Office Productivity |
144
|
148
|
146
|
3DMark 2001 | |||
1024×768ドット/32bitカラー |
2198 3DMarks
|
2659 3DMarks
|
2372 3DMarks
|
1280×1024ドット/32bitカラー |
1106 3DMarks
|
2322 3DMarks
|
1409 3DMarks
|
QuakeIII Arena (Demo2) | |||
1024×768ドット/32bitカラー |
42.6frames/s
|
92.5frames/s
|
63.3frames/s
|
1600×1200ドット/32bitカラー |
11.6frames/s
|
38.9frames/s
|
21.9frames/s
|
各グラフィックス・カードのベンチマーク・テスト結果(Pentium 4-2.0GHzシステム) | |||
テストに用いたPCやグラフィックス・カードについては、以下の表を参照していただきたい。 |
グラフィックス・チップ | SiS315 | KYRO II | GeForce2 MX |
カード・ベンダ(ブランド) | Power Colorブランド(C.P. Technology) | Power Colorブランド(C.P. Technology) | Leadtek Research |
カードの製品名 | Evil SAM (S315VT) | KyroII (KY2A) | WinFast GeForce2 MX |
ディスプレイ・ドライバのバージョン | 2.02.05 | 4.12.01.3114 | Detonator XP (21.81) |
ベンチマーク・テストに用いたグラフィックス・カードの概要 |
項目 | 内容 |
プロセッサ | Pentium 4-2.0GHz |
マザーボード | Intel D850MD(Intelの製品情報ページ) |
メモリ | 256Mbytes PC800 RIMM |
ハードディスク | 40Gbytes 7200RPM Ultra ATA/100対応IDEハードディスク(IBM製Deskstar 60GXP、IBMの製品情報ページ) |
サウンド | ヤマハ製YMF744B |
OS | Windows Me |
DirectX | DirectX 8.0a |
ベンチマーク・テストに用いたPentium 4-2.0GHzマシンのシステム構成 |
下の表は、Celeron-700MHzを搭載したシステムのベンチマーク・テスト結果だ。ここでは、SiS315が3DMark 2001でKYRO IIを逆転しているが、これはKYRO IIがハードウェアT&Lに対応しておらず、スコアのプロセッサ性能に依存する度合いが大きいためだと考えられる。ここで気になるのがQuake IIIのスコアで、SiS315はCeleron-700MHzにしても、Pentium 4-2.0GHzのときとほとんど変わらない。この条件(1024×768ドット以上の解像度でフル・カラー)では、プロセッサ性能がほとんど影響していないことが分かる。加えて、GeForce2 MXでも性能差が少ないことを考えると、グラフィックス・メモリの性能がボトルネックになっている可能性が高い(とはいえ、SiS315のOpenGL ICDにはまだ改善の余地があるようにも思えるが)。
SiS315 | KYRO II | GeForce2 MX | |
SYSmark 2001 (1024×768ドット/32bitカラー) | |||
SYSmark Rating |
62
|
64
|
64
|
Internet Content Creation |
68
|
68
|
68
|
Office Productivity |
57
|
61
|
60
|
3DMark 2001 | |||
1024×768ドット/32bitカラー |
1606 3DMarks
|
1020 3DMarks
|
1749 3DMarks
|
1280×1024ドット/32bitカラー |
1027 3DMarks
|
992 3DMarks
|
1247 3DMarks
|
QuakeIII Arena (Demo2) | |||
1024×768ドット/32bitカラー |
42.2frames/s
|
59.8frames/s
|
58.9frames/s
|
1600×1200ドット/32bitカラー |
11.6frames/s
|
38.6frames/s
|
21.8frames/s
|
各グラフィックス・カードのベンチマーク・テスト結果(Celeron-700MHzシステム) | |||
テストに用いたPCについては、以下の表を参照していただきたい。グラフィックス・カードは、前出のPentium 4-2.0GHzシステムでのテストと同じものを使用している。 |
項目 | 内容 |
プロセッサ | Celeron-700MHz |
マザーボード | Intel D815EEA(Intelの製品情報ページ) |
メモリ | 256Mbytes PC133 DIMM |
ハードディスク | 7200RPM Ultra ATA/100対応IDEハードディスク(Maxtor製DiamondMax Plus 60、Maxtorの製品情報ページ) |
サウンド | ヤマハ製YMF744B |
OS | Windows Me |
DirectX | DirectX 8.0a |
ベンチマーク・テストに用いたCeleron-700MHzマシンのシステム構成 |
SiS315はチップセット統合用グラフィックス・コアとして優秀
カードの価格は、テレビ出力の有無やDVI出力の有無などにより変わるが、こうしたオプションを備えない「素」のSiS315搭載グラフィックス・カード(32Mbytes SDRAM)の価格は、6000円前後と思われる。これは、KYRO IIベースのカードより安価なことはもちろん、NVIDIAのエントリ向けグラフィックス・チップ「GeForce2 MX200」ベースのカードよりも安い。SiS315の価格性能比は、きわめて高いといえる。GeForce2相当の機能を備えていることと合わせ、チップセットに統合されるグラフィックス・コアとして見ても、なかなか魅力的だ。
NVIDIAのDetonator XPは性能向上をもたらすのか? 下表は、ドライバの違いにより、GeFore2 MXとGeForce3の2種類で、性能がどう変わったかをまとめたもの。テストに用いたのは本文と同じPentium 4-2.0GHzベースのシステムである。この表を見れば、新しいドライバ(Detonator XP)が2Dグラフィックス性能にほとんど影響しないこと、GeForce2 MXよりGeForce3で性能向上の度合いが大きいことが分かる。注目されるのは、Quake IIIの1600×1200ドット解像度で30%以上の性能向上が得られている点だ。通常、この解像度は、メモリの帯域がボトルネックとなるのだが、大幅な性能向上が得られているということは、この部分での最適化が行われているということなのだろう。GeFroce2 MXで性能向上の度合いが小さいのは、メモリの帯域に性能向上をもたらすだけの余地が残されていない、ということなのかもしれない。
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