第8回 イーサネット(その3) - イーサネットとリピータ/ブリッジ/スイッチ詳説 TCP/IPプロトコル(3/4 ページ)

» 2001年08月16日 00時00分 公開
[岡部泰一]

10BASE5と10BASE2イーサネット

 同軸ケーブルを利用するイーサネットの規格には10BASE5と10BASE2があり、ともに転送速度は10Mbpsである。10BASE5はオリジナルのイーサネットで規定された規格であり、1983年にIEEE 802.3として承認された。直径が1/2インチ(約1.27cm)もあるThick Wire(太いワイヤ)と呼ばれる同軸ケーブルを使用するため、Thick-Ethernetとも呼ばれる。またケーブルは、当初黄色の外部被覆のものが多く使われたこともあって、イエロー・ケーブルとも呼ばれていた(現在ではさまざまな色のケーブルが使用されている)。10BASE5では、1セグメントあたりに接続できるステーションは最大100台で、最大セグメント長は500m、4つのセグメントをリピータで接続して最長で2000mまでコリジョン・ドメインを延長することができる。Thin Wireケーブルは太いので取り回しは容易ではないし、折り曲げ半径は25cm以上でなければいけないなど制限が厳しく、オフィス内で自由に引き回して配線することは難しい。そのため、主にネットワークのバックボーンとして使われることが多かった。

 10BASE2は10BASE5の次に導入された規格で、1985年にIEEE 802.3aとして承認された。Thick Wireより細い同軸ケーブル(ケーブルの正式な規格名はRG58A/UまたはRG58C/U。TVの同軸ケーブルほどの太さ)をメディアとして使用するため、Thin Ethernet(細いワイヤ)とも呼ばれる。導入コストが10BASE5に比べ安価だったためCheaper Net(チーパネット=安価なネット)とも呼ばれた。1セグメントあたりの最大接続可能ステーション数は30台で、最大セグメント長は185m(約200mなので規格名では単純にするために2となっている)、4つのセグメントをリピータで接続して最大740mまでコリジョン・ドメインを延長することができる。10BASE5に比べ安価でケーブルの引き回しが容易であったため、広く利用されていたが、同軸ケーブルのイーサネットはケーブルのどこかに障害が発生するとLAN全体が停止してしまうといった欠点があった(信号が障害地点で途切れるし、信号の反射によって正しく伝送できなくなるから)。10BASE2でネットワーク上にステーションを増設するためには、ケーブルを切断して、そこにコネクタを取り付けるのだが、そのコネクタが外れたり、接触不良を起こしたりすると、ネットワーク全体が不通になってしまうのである。特に10BASE2はクライアント・マシンに直接接続しなければならないため、ケーブルを付けたり外したりする機会が多く、またユーザーがケーブルに不用意に触れて、接触が悪くなったりすることが多かった。そのため、次に登場したツイストペア ケーブルを利用したイーサネットに次第に置き換わっていった。

イーサネットの各種メディア
左は10BASE5用の同軸ケーブル(Thick Wire)。当初は被覆が黄色のものが多く使われたのでイエロー・ケーブルなどとも呼ばれていた。ケーブルに横穴を空けて、タップと呼ばれる針(爪)を直接芯線に接触させる方式で接続する。中央は10BASE2用の同軸ケーブル。ステーションを接続する場合は、ケーブルをその部分で切断して接続用のコネクタ(BNCコネクタ)を取り付ける。そしてT型のBNCコネクタを間にはさんでカードに接続する。いずれも芯線は1本しかないので、1つのステーションで送信と受信を同時に行うことはできない。右はツイストペア・ケーブル。2本ずつより合わせた(ツイストした)ケーブルが、4組(計8本)まとめられている。10BASE-Tや100BASE-TXではこのうち2組(4本)しか使用しないが、100BASE-T4や1000BASE-Tでは4組全部を使用する。

ツイストペア・ケーブル(より対線)を利用したイーサネット

 ツイストペア・ケーブルは現在最も広く利用されているネットワーク媒体である。絶縁した2本の銅線をより合わせているので(これが1組)、ツイストペア・ケーブルと呼ばれている。これを2組もしくは4組を束ねて1本のケーブルにしている。銅線をより合わせるのは、クロストーク雑音(他の銅線の信号を拾ってしまう現象)の影響を抑えるためである。イーサネットでは、8線4対を1本のケーブルに束ねたものを使用する。

 イーサネット・インターフェイスとツイストペア ケーブルの接続には8芯のRJ-45コネクタを使用する。10BASE-Tと100BASE-TXの場合、1番と2番のピンを送信用、3番と6番を受信用として使用し、それ以外のピンは使用しない。そのため10BASE-Tや100BASE-Tでは4芯2対のケーブルを使用することもできる。ただし、1000BASE-Tではすべてのピンを使用するので8線4対のケーブルでなければならない。


ツイストペア・ケーブル
ツイストペア・ケーブルで使われるコネクタの拡大写真。絶縁した2本の銅線をより合わせたものを4対束ねたケーブルで、両端にはRJ-45コネクタ(8ピンのコネクタ。電話などで使われる6ピンのRJ-11よりもやや大きい)が付けられている。この写真では、左端が1番ピン、右端は8番ピン。番号を付けたペア同士でより合わせられている(このコネクタの場合は、同じ色の線がより合わせられている)。10BASE-Tと100BASE-TXでは4ピン(1、2、3、6番)しか使わないので4線2対のケーブルを使用することもできる。TDは送信データ線、RDは受信データ線。ストレート・ケーブルではどちらのコネクタもこのように配線するが、クロスケーブルでは、送信ペア((1))と受信ペア((2))を入れ換える。
 (1)送信信号ライン。
 (2)受信信号ライン。
 (3)10BASE-Tと100BASE-TXでは未使用。2線式の電話線などに使われる。
 (4)10BASE-Tと100BASE-TXでは未使用。

 ツイストペア・ケーブルのセグメントは、1本のケーブルの両端にデバイスを接続して構成する。最も単純なネットワークは、2つのステーションをツイストペア・ケーブルで直結したものである。ただし、この構成の場合はツイストペアの「クロス・ケーブル」を使わなければならない。通常のツイストペア・ケーブルは両端のRJ-45コネクタの同じピン番号同士を結線している「ストレート・ケーブル」である。イーサネット・インターフェイスは送信ピンから信号を送信し、受信ピンで信号を受信するため、ステーション同士をストレート・ケーブルで接続してしまうと、送信した信号が相手の送信ピンに伝わることになり通信ができない。このような場合にはケーブル内部で送信用のピンと受信用のピンを結線しているクロス ケーブルを使う必要がある。

 ツイストペア・ケーブルで接続するデバイスは、送信ピンと受信ピンがつながっているかどうかを常に検査している(一定時間間隔ごとにリンク・パルスという信号を送信している)。一般的なデバイスには、送信ピンと受信ピンがつながっている間だけ点灯するリンク(Link)LEDがついているので(リンク・パルス信号を受けると、リンクLEDが点灯する)、正しく接続できているかどうかは目で確認することができる。

 ここでは単純な構成を示すためにクロス ケーブルを使った例を示しているが、場合によってストレート・ケーブルとクロス・ケーブルを使い分けるというのは混乱のもとにもなるため、一般的なネットワークでは使用するケーブルをストレート・ケーブルで統一するのが望ましい。

最も単純なネットワーク

両端にステーションを接続しただけの最も単純なセグメント。ケーブル内部で送信ピンと受信ピンを結線しているクロス・ケーブルを使う。ネットワークとしては特殊な構成である。  同軸ケーブルを利用したイーサネットの場合は、ケーブル上で信号が混信し衝突が発生したが、ツイストペア・ケーブルを利用したイーサネットの場合、伝送路が2つあり信号が流れる方向が決まっているため、同時に送信を行っても伝送路上で信号の混信は起こらない。しかし10BASE5や10BASE2との互換性のために、送信中に受信ピンに信号が届くと衝突と判断する(後述する全二重通信モードでは、衝突とはみなさない)。


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