携帯やデジカメの充電は面倒なもの。ところが、一部のスマホは、ワイヤレス充電規格「Qi」に対応、充電台に置くだけで充電可能。その仕組みやメリットを解説。
ケーブルをつながなくても充電できるワイヤレス給電技術の標準規格。ワイヤレスパワーコンソーシアム(WPC)が標準化を行っている。名称の「Qi」は、中国語で「チー」と発音し、アジア哲学における見えない力の流れを意味する「気」にちなんでいる。送電電力は5W以下で、USB接続で充電が可能な機器を対象にしている。
ワイヤレス給電自体は、特に端子による接続が好まれない防水性が求められる電動歯ブラシや電動シェーバー、医療機器などの機器ですでに採用されており、信頼性も高い技術だ。しかしこれまでワイヤレス給電の標準化は行われておらず、機器ごとに独自の給電システムを採用していた。そのため機器ごとに充電器が必要となり、例えば10個の機器があれば、10個の充電器が必要となる状態となっていた。
また最近では携帯電話やスマートフォン、タブレット、音楽プレイヤー、デジタルカメラ、ゲーム機器、ICレコーダーといった携帯機器が増えており、これらの機器の充電には、いちいちケーブルを差す必要があることに加え、それぞれのACアダプタの形状や仕様が異なることから、コンセントには多くの機器のACアダプタが接続される状態となる。また出張などの際には、それぞれの機器のACアダプタを持たなければならないなど、ケーブルによる充電が煩雑になってきている現状がある。
そこで注目を集めているのがワイヤレス給電技術「Qi」である。Qiでは、機器にケーブルを接続することなく、充電パッドのうえに対応機器を置くだけで充電できる。Qiの規格では、充電パッドと携帯機器間の制御プロトコルなどが決められており、対応機器間での互換性が保証されている。そのためQi対応機器であれば、どこのメーカーの充電パッドと携帯機器の組み合わせでも充電が行えるようになっている。互換性のない充電パッドが机の上に何個も並ぶということはなくなり、1つの充電パッドの上に機器を順番に置くだけで充電できる。
Qiによる送電は、伝送側コイルに電流を流して発生する磁束により、隣接した受電側コイルに電力が発生する電磁誘導を利用したもの。そのため、ワイヤレス給電とはいうものの、伝送側コイルと受電側コイルの距離が近いほど送電効率が高くできることから、充電パッドに接した状態での送電が望ましい。
電磁誘導方式では、伝送側コイルと受電側コイルの位置ずれや、受電側機器の電池ケース(金属)などによる損失で効率が劣化する場合がある。そこでQiの実装では、例えば充電パッド内で伝送側コイルを受電側コイルの下に物理的に移動させることで位置ずれを補正したり(ムービングコイル方式)、バッド内に敷き詰めた多数の伝送コイルの中から最適なものを選んで利用したり(コイルアレイ方式)を採用している。また受電コイルの裏側に防磁シートを付けるなどの工夫をして損失を少なくしている。
Qiの電力の伝送効率は、上述の工夫などにより約70%を実現している。ACアダプタの平均72%に比べて、効率が若干悪いものの大きく見劣りするものではない。WPCは使用部品の品質向上を図ることで、伝送効率もさらに高められるとしている。また待機電力消費量は、0.0001ワット(100μW )と非常に小さいのが特長だ。携帯電話用のACアダプタ(クレードル)の待機電力は平均0.12Wということなので、Qiの充電パッドの待機電力が小さいことが分かるだろう。クレードルや充電パッドをコンセントに差したままの場合、充電にかかる電力と待機電力の合計は、待機電力の低いQiの方が圧倒的に小さくなる。
すでにQiに対応した製品が各社から販売されている。NTTドコモは、「AQUOS PHONE f SH-13C(シャープ製)」「AQUOS PHONE slider SH-02D(シャープ製)」「ARROWS Kiss F-03D(富士通製)」など、Qi(NTTドコモでは「おくだけ充電」と呼んでいる)に対応したスマートフォンの販売を開始している。これらの機種では、本体や電池パックを置くだけで充電できる。また日立マクセルはQi対応のiPhone4用ワイヤレス充電用カバーと充電パッドを、パナソニックはモバイル電源パックと充電パッドをそれぞれ発売している。
WPCは、さらに大きい電力を使用する機器や装置向けの国際規格を策定する予定であるとしている。
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