SE年収アップ大作戦〜26歳、35歳で分岐点がやってくる!〜転職で年収アップできる人、ダウンする人

» 2004年02月14日 00時00分 公開
[中村京介@IT]

自分の“適正年収”を知りたがるSEが急増中!

 「年収アップ」が、転職の大きなインセンティブであることはいまさらいうまでもない。「@IT自分戦略研究所の読者調査結果」(2003年3〜4月に実施)でも、転職先を選ぶ時に重視する点として、「現在よりも給料/年収が高い」を上げた読者は、「優れたエンジニアと共に働ける」に次いで2番目に多い。必ずしも転職は「年収アップ」につながるわけでないが、年収が上がるにせよ下がるにせよ、そこには一定の“法則”があることを知っておくべきだろう。特にIT業界においては――。今回の特集では、この法則を明らかにし、「年収が上がる転職法」を模索していきたい。

●SEが転職時に重視する点とは
図1 @IT自分戦略研究所が2003年3月から4月にかけて実施した第1回読者調査から抜粋。転職先を選ぶ際に重視する点を上げてもらったもの(5つまでの複数回答N=452) 図1 @IT自分戦略研究所が2003年3月から4月にかけて実施した第1回読者調査から抜粋。転職先を選ぶ際に重視する点を上げてもらったもの(5つまでの複数回答N=452)

 「最近は、自分の年収が労働市場の中で適正な値段なのかどうかに関心を持つエンジニアが増えましたね」。リクルートエイブリックでキャリアアドバイザーを務める吉田智春さんはそう指摘する。数年前までは、一口に年収といっても、単純に表面的な数字での比較は難しかった。年収の比較を分かりにくくしていたのが手厚い福利厚生の存在だ。

リクルートエイブリック キャリアプロモーション一部 キャリアアドバイザー 吉田智春さん リクルートエイブリック キャリアプロモーション一部 キャリアアドバイザー 吉田智春さん

 IT業界でも、特にメーカー系の企業では、例えば年俸が350万円でも、月々の社宅費用が1万円程度しかかからないため、年収400万円をもらっている同業他社の人よりも可処分所得が多いということが珍しくなかった。

 また、「残業代」の存在も見逃せない。労働時間が長くなりがちなIT業界では、残業した分にまるまる残業代がつき、年収350万円のエンジニアでも、残業代を含めた年収は400万円をはるかに上回ることも少なくなかった。

 ところが、最近は福利厚生を縮小する会社が相次いでいることに加え、年俸制の導入、さらに残業代は毎月一定額を支払う「職務手当」に置き換える企業が増えてきている。こうして、表面上の年収がそのまま実質に近くなり、周囲との年収比較が容易になってきた。

 「エンジニアは自分の年収がスキルレベルに見合った金額であるのかにすごく不安感を抱いています。『自分はこれだけのスキルで、担当フェーズではこれだけのことをやっていて、チームリーダーをやっているのだが、IT業界での適正年収はいくらくらいになるのですか?』という質問をするケースが多いですね」

業績のいい会社への転職が前提条件

 では、転職で年収をアップできるエンジニアとはどういうスキル、キャリアの持ち主なのか。転職希望者に対する「キャリア査定」も担当する吉田さんによると、転職で年収がアップするケースは、大きく分けて“3つの法則”があるという。

 「1つ目は高いスキルを持っているのに、たまたま業績の悪い会社にいるために、年収が低い人。こういう人は業績のいい会社、つまり十分な給与を払える会社に転職することで、即年収100万円アップもあり得ます。この場合は、年収を上げるというよりも、転職によって“適正年収に戻す”といった方がいいかもしれません」

 2つ目が、転職に伴って担当フェーズ、もしくはポジションを変更することだ。下流工程の仕事をしてきた人が上流工程に携わる、あるいはチームリーダーの人がプロジェクトリーダーもしくはプロジェクトマネージャになれば、通常年収はアップする。

 例えば、小規模な開発案件を請け負うSIerから大規模案件を手掛ける大手コンサルティング会社系の開発会社などに転職することも1つの選択肢だ。ただ、大手コンサルティング会社系の開発会社などは、SEに人気があるため、転職のハードルは決して低くない。どのようなスキルを持った人であれば転職しやすいのだろうか。

 「まず何らかの業務分野に特化している人です。技術的には、WindowsよりもUNIXとかLinuxベースでの開発経験がある人。それと規模の大きいプロジェクトに関わってきた方が有利です」

 となると、一般的には大手SIerなどで働いていた人が有利ということになるが、もちろん中小SIerにいる人にもチャンスはある。「社員数が50人未満など企業規模が小さくても、専門的な業務知識が求められる業界で、パッケージソフトの開発などを手掛けていた人。要するに、スペシャリティを持っている人が好まれるということです」

医薬・医療業界の“社内SE”が狙い目

 特に最近ニーズが高まっているのが「医薬・医療」業界だ。例えば、病院の会計システムの開発などには深い業務知識が求められるが、近年は電子カルテシステムの普及に伴って、IT化へのニーズはいっそう高まっている。実際、リクルートエイブリックにもこの手の案件が大手IT企業から入ってきているという。

 「病院関係のシステム開発をやっていた技術者が一番有利ですが、多少開発スキルがズレていても、業界内に人脈を築いているとか、病院経営の仕組みを知っている方であれば、書類審査をクリアして面接に進むケースが多い。独特な世界なので業界特有の“常識”を知っているだけでも、ポイントは高いのです」

 この医薬・医療業界への転職とも関係するのが、3つ目の年収アップ法だ。つまり、製薬会社、医療機器会社などの医薬・医療系業界をはじめ、業績が好調な業界で「社内SE」になる方法だ。

 従来、社内SEといえば、ネットワークやデータベースなどの保守・運用、あるいはヘルプデスク、インストラクターなど社内の“お守り役”的な仕事を任されることが多かった。社内システムを再構築する仕事にやりがいを感じる技術者はいても、カットオーバー後の運用・保守フェーズに入ると、ある意味“退屈”な仕事をアサインされ続け、その仕事に嫌気を感じる人もいる。

 しかし、大規模なプロジェクトの導入を仕切る社内SEの場合は、自社の業務分析、システムの設計・企画、そして投資効果の測定など“最上流工程”を担当することになる。将来プロジェクトマネージャやITコンサルタントのキャリアを考える人にとって、これはやりがいのある仕事といえるかもしれない。

 「医薬・医療系企業からは、社内の情報システム部門やシステム企画部門などのポジションの案件がかなり入ってきています。例えば会社の業績が好調なので、ERPやCRMを導入したいとか、これまでそれぞれの部署で作っていたシステムを統一し効果的に活用したいので、全社的な視点から社内システムの企画をできる人材が欲しいとか……。医薬・医療業界は平均年収が高いので、社内SEとして転職し、年収をアップさせることも可能です」

 このほか、外資系の生・損保やノンバンクなど、年収水準の高い業界への“社内SE転職”も同様に年収が上がるケースが多い。一方、国内の銀行や証券会社、そのシステム系子会社などは、経費削減のあおりで年収が下落傾向にあるため、元々の年収が低い人を除いて、年収アップが期待できるのは「勝ち組企業」に転職した場合ということになるだろう。

大企業の20代SEは転職で年収ダウンの恐れも

 ここまで「年収がアップする転職」について見てきたが、もちろん転職によって逆に年収がダウンするケースもある。典型的なのは、20代の大手企業で働くエンジニアの場合だ。

 「例えば国内大手シンクタンク系の若手SEや外資系ベンダなどで働くSEのケース。24〜25歳でも年収600万円くらいもらっている人が少なくありません。こういう会社は、もともと入社時の年収が高いために、若いうちは、年収が実力以上になっている。こういう人が『年収800万円欲しい』といって転職を希望してきた時には、『いまは転職しない方がいい』とアドバイスすることもあります。数年後に実力が伴ってきてから転職した方がいい結果になるからです」

 しかし、中には、年収ダウン覚悟で転職する人も少なくないという。それはなぜか。「転職が当たり前の時代になって、最近は、下流工程でプログラミングなどの仕事をコツコツしていた人がその仕事に満足できず、コンサルティングファームなどにどんどん転職しています。そういう人達は、きちんと基本設計をして、プログラミングをして、テストをして……という実践経験を積んできているのでかなり開発現場のことが分かっている。明らかにコンサルタントだけをやってきた人よりもプロジェクトを推進できる。こういう現状を見て、『俺ってこのままでいいのかな』と考え、勉強のために年収ダウンを覚悟して下流工程を扱うSIerなどへの転職を希望する人もいます。ただ、その場合は、何のための転職なのか、キャリアビジョンを明確にしておく必要がありますね」

 このことは銀行や保険会社などで働く社内SEが下流工程を扱うSIerに転職するケースにも当てはまる。

SE「年収アップの方法」を職種別にチェック

 では、具体的に以下の「転職時決定年収」(出所:Tech総研/リクルート)を参考に、IT系職種に転職する際の「年収アップ法」を年齢別に見てみよう。まずは、「エンジニア系アプリ」。いわゆる組込系の開発エンジニアだ。この分野でいま爆発的なニーズを抱えているのが、携帯電話の制御系の開発だ。

●職業別「転職時の平均年収」〜30歳の上限は年収約600万円
図2 国内・外資系企業など資本形態によって、転職時の平均年収は前後する。中でも「コンサルタント/ERP/SCM」職種が一歩抜きん出ていることが分かる(出所:Tech総研/リクルート・2003年7月度) 図2 国内・外資系企業など資本形態によって、転職時の平均年収は前後する。中でも「コンサルタント/ERP/SCM」職種が一歩抜きん出ていることが分かる(出所:Tech総研/リクルート・2003年7月度)

 「26歳くらいまでなら、業務系アプリケーションの開発をやっていた方でも、あるいはCとかC++をマスターしている方であれば、携帯電話に関する開発案件の経験がなくても転職の障害にはなりません。当社に相談にくる方は、せめて2次開発を手掛ける会社に転職したいと希望する方が多いですが、開発環境と製品が合っていれば3次開発から2次開発の会社に転職することはそれほど難しいことではありません。担当フェーズが下流工程のプログラミングやデバッグなどでも、年収アップの条件で移ることが可能です」

 上記の場合、転職による年収アップ額は平均30〜50万円、30歳であれば450〜480万くらいになるという。ただ、2次請けから1次請けメーカーへの転職を希望する人もいるようだが、それはなかなか難しいようだ。やはり、1次請けメーカーに転職するには「理系マスター卒」などの学歴要件がネックになることがあるからだ。

 このエンジニア系アプリの“業務版”といえるのがビジネス系アプリだ。大手コンサルティング会社系の開発会社などは、この分野の人材を積極的に募集している。

 この分野に転職するには、何かの業務にどれだけ精通しているのかというのがポイント。ある業界に精通していれば、それこそ小さい会社からでもコンサルティングファームまで狙える。その中で年収アップするには、例えば金融系のシステム開発をずっとやってきたのならば“金融分野”で転職先を探した方がいいだろう。

 「自分の得意分野は何なのかを早いうちに形成すべきです。できれば開発環境をWindowsではなくUNIX系にシフトし、より大きなものにフェーズを上げていき、基本設計までできるようになっていると、非常に売り込みやすい。年収10〜20%アップで、かつ有名企業に転職できる可能性もあります」

26歳、35歳で年収アップ転職の分岐点がやってくる!

 「35歳=転職年齢限界説」なるものが流布され、転職は年齢が若い方が有利といわれるが、ビジネス系アプリに関しては、「むしろ業務知識が身に付いてくる20代後半以降がいい」と吉田さんは話す。一般的に最低経験年数は3年以上を求められる。

 逆に、現在隆盛を極めているERPの導入コンサルタントは、若年層にとって最も狙い目の分野。大手コンサルティングファーム、シンクタンク、SIer、さらに老舗のエンジニアリング会社など、多くの企業が人材不足の状態にある。

 「ERPやCRMなどの導入コンサルティングのニーズが爆発しているため、アドオン開発しかやったことがない人でも採用しています。若手の人材不足が深刻な大手コンサルティングファーム系の子会社では、第2新卒などポテンシャル採用を20〜30人規模で実施して一気に育てていこうという非常に思い切ったことをやっています。ある会社では、26歳までであれば業務系アプリでもエンジニア系アプリでも構わないという方針で、将来のプロマネを育てようとしています。ITコンサルティングの分野では人手が足りないということですね」

 もっとも、26歳前後で大手コンサルティングファームの直系子会社に転職した場合、年収アップはそれほど期待できないと考えておいたほうが無難。しかし、ファームの直系子会社であるだけに、「30歳になった時、現在の仕事にとどまった場合に比べ、年収に大きな差が出てくる可能性が高い」と吉田さんは指摘する。こうした中、新卒で入社試験を受けて落とされた人が再チャレンジしているケースも多いという。ただし、繰り返しになるが、30歳前後で上流工程の仕事をしたくて転職するのであれば、26歳前後がリミットになる。

●職業別「転職時の平均年収」〜35歳の上限は年収700万円
図3 35歳で転職した際の平均年収が700万円を超えているのは、外資系の「コンサルタント/ERP/SCM」職種のみ。人材ニーズの高まりをうけ、昨年度よりもアップしている(出所:Tech総研/リクルート・2003年7月度) 図3 35歳で転職した際の平均年収が700万円を超えているのは、外資系の「コンサルタント/ERP/SCM」職種のみ。人材ニーズの高まりをうけ、昨年度よりもアップしている(出所:Tech総研/リクルート・2003年7月度)

 他業界と比べて若年層の方が転職に有利といわれるIT業界で、35歳前後でも転職を狙えるのが、プリセールスだ。ただし、プリセールスでは、日本独自のパッケージよりも外資系企業のパッケージを扱うケースが9対1の割合で多いため、英語力は避けて通れない。TOEICのスコアでは、最低730点以上が求められることになる。

 「英語ができる方は、すごくいい条件で転職しています。年収700〜1000万円というケースが多くなっています。エンジニアで、かつ英語ができる方は限られるので対象となる人材はかなり狭められる。それだけに、企業側は『入社してくれるのだったらお金は出す』というスタンスでくる。いわゆる“売り手市場”の立場を保ちながら、30歳で年収800万円以上を獲得することも可能です」

33歳までに転職すると「生涯賃金」がアップする!?

 ここまでさまざまなパターンの転職における年収のアップダウンを見てきたが、いざ転職する段になると、誰もが慎重になるもの。特に年収ダウンでの転職はなおさらだろう。ただ、慎重になりすぎるあまり、いたずらに転職時期を遅らせれば、自分がますます不利な立場に追い込まれる可能性が高いことも認識しておく必要がある。

 「基本的に、転職する側が有利な売り手市場に立てるのは33歳までです。なぜ34歳になると厳しいのかといえば、この年齢になると、社内でも管理職に登用される時期です。採用プロセスでも役員面接の比重が高まり、人間性や社風に合うかなど、技術スキル以外の部分をじっくり見られるようになり、入社のハードルが一気に高くなります。有利に移ることを考えたら、早めに決断する方が得策です」

 目先の年収はもちろん大事だが、その点ばかりに目が行ってしまうと、スキルアップ、キャリアアップのチャンスを失い、結局「リストラ」などということにもなりかねない。特に、現在大手で仕事内容の割りに高い収入を得ている人はその危険度が高いといえる。動きの早いIT業界でサバイブしていくためには、目先の年収だけでなく、「生涯賃金」という視点から転職を考えてみることも必要かもしれない。

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