WAN接続ポートでの帯域制御とは?ネットワーク設計の定石(後編)(2/2 ページ)

» 2004年05月28日 00時00分 公開
[根本浩一朗ソリトンシステムズ ]
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サービスの選定と導入

利用する通信サービスの選定

 通信事業者と契約帯域を決定するため、実際に必要とされる通信帯域の検討をします。通常はアプリケーションごとに必要な通信帯域の総和を求め、各拠点の必要帯域を求めます。ただし、実際にはいつでも100%の通信が行われるわけではなく、総和で求めた帯域を使い切ることはまれです。めったに利用されない分の帯域も用意しておくことはコストを考慮すると許されません。

 従って、帯域とコストの最適化を図るために総和で求めた帯域から一定量を引いた帯域で通信事業者と契約することが多いです。通信量が多いときは優先度の低い通信が犠牲になりますが、基本的にTCPの通信であれば「再送処理」が組み込まれていますので、総和の通信帯域をそのまま用意する必要はありません。

 A社を例に取って整理していきたいと思います。

ネットワーク機器の優先制御の例

テレビ会議

・本社で2Mbit/s、支社400Kbit/sを確保

・通常、「動画」を見られる帯域に384Kbit/s程度は必要

・ただし利用者の品質要求に応じて画質向上ができるように帯域の余裕が必要

VoIP

・本社には同時15通話で約300Kbit/s、支社には同時3通話で60Kbit/s程度確保

・音声は圧縮するコーデックにより必要帯域は異なるが、音質の確保を考慮すると最低でも1通話当たり20Kbit/s程度の確保が必要

・テレビ会議と同様に利用者の品質要求に応じて帯域の余裕が必要

ERP、ポータルシステムなど

・システムの仕様によっても変化するが、A社が使用しているシステムでは拠点当たり500〜1Mbit/s程度必要

・上記を考慮して本社では2.5〜5Mbit/s程度となりますが、利用時間を考慮すると3Mbit/s以上の確保が必要

ファイル共有、e-mail、Webなど

・共有されるファイルには設計図面など容量の大きいデータも多く存在するため、バースト的にデータ通信が発生

・サーバ群を本社集中にし、メール、Webの通信も本社を経由するため、これらの通信容量も考慮する必要がある

・これらの状況を加味して支社では1〜2Mbit/s、本社では3〜5Mbit/s程度確保する


 上記によって求めた帯域を足し合わせた総和は、A社の場合本社は12Mbit/s程度、支社は3Mbit/s程度となりました。この総和から20%程度を差し引き、本社は10Mbit/s程度、支社は2.5Mbit/s程度とします(本来であれば過去のデータなどを考慮して差し引く帯域を検討していくことが多いですが、本稿では単純に20%程度としました)。

 上記に基づいて実際にサービスを選定しますが、比較的広帯域を必要としています。また、バックアップも必要条件にありましたので、動的ルーティングを導入しやすいということ、本社LAN再構築も終わりL3スイッチのイーサネットポートに余裕があることから広域イーサネットを採用することにしました。また、バックアップ網もダイヤルアップからインターネットVPNに変更し常時接続としました。これにより冗長性を確保しつつバックアップ側も通常時から利用できるようになります。優先度の低いデータはインターネットVPN側を使用させることでファイル共有やWebの通信も高速化され、利用者の生産性に貢献できることになります。

 広域イーサネットやIP-VPNを選択してLAN用L3スイッチから直接WAN接続するケースが増えていますが、インターフェイスは10Mbit/s(10BASE-T)や100Mbit/s(100BASE-TX)で提供され、実際に通信事業者と契約して使用できる帯域はA社の例でも2〜3Mbit/sなどインターフェイスの速度より低帯域であることが多いです。

 実際に使用できる帯域が2〜3Mbit/sであっても、通常のイーサネットのポートでは区別なしにデータをWAN側に送出し続けるためにパケットが処理し切れずに捨てられることもあります(ポートのバッファ容量を使い果たした状態です)。これによりTCPの再送機能が働けばさらにネットワークが遅くなるといった問題の原因になる可能性もあります。通信サービスに接続するイーサネットポートでは帯域制限機能が付いている機器か、帯域制御装置を使用することが望ましいでしょう。

図7 WAN接続ポートでの帯域制御 図7 WAN接続ポートでの帯域制御

導入、利用開始

 いままでの検討でネットワークの設計が固まってきています。残る作業は実際の導入になりますが、LAN用にすべてユーザー自身の所有設備として導入できるわけではありません。スムーズにネットワークを導入するために特にスケジュール管理には留意する必要がありますが、以下の項目を管理するとよいでしょう。

スケジュール管理の留意点

・通信サービス、機器の納期

・設備の準備に期間(電源など)

・移行スケジュールと旧サービスの解約日程


 なお、スケジュールは余裕を持って設定する必要があります。特に通信サービスや接続機器の契約、注文は利用開始時期が決まっている場合は早めに済ませておく必要があります。筆者が携わったユーザーの中には1円でも安くするために手配を後ろにずらした結果、設定されていた導入時期に間に合わないばかりか、急ぐあまりにユーザー自身も無理を重ねてダウンしてしまったという事例もあります。ちなみに通信サービスの一般的な納期は必ずしもこの限りではなく、筆者の経験ではおおむね以下のとおりであることが多いです。

WAN回線の一般的な納期の例

・光回線:1〜2.5カ月 (地中配管などで道路工事が必要な場合は半年以上)

・メタル回線(ADSL含め):3週間〜1.5カ月

・通信機器:2週間〜2カ月


 導入前に数日〜数週間程度試験稼働し安定動作を確認してから導入するなどの対策も必要です。また、通信サービス提供開始後も従来利用してきたサービスを1カ月程度継続し、導入後の問題発生時に従来サービスに戻して通信を維持できるようにしておくことをお勧めします。万が一通信トラブルが発生しても、ユーザーの通信には影響が及ばないので落ち着いて対処することができます。

管理、運用

 構築されたWAN部分の管理、運用はLAN部分と区別する必要はありません。LAN構築時に用意したシステムにWAN機器分の情報を追加すれば、LAN機器と同様に管理することができます。ただし、通信事業者部分はユーザー自身で管理することは当然できず、ブラックボックスとなります。最近では通信事業者でのサービス監視や障害時の通知、状態把握のためのデータを提供してもらえるなどの機能が充実してきています。ユーザー自身で収集した情報に加え、通信事業者より提供される情報も併せて管理するとよいでしょう。

 前回「“PDCAサイクル”を用いて常に最適化を図ることをお勧めします」と述べました。従来WAN部分についてはいったん導入したら4〜6年は使うのが一般的でしたが、通信事業者がどんどん新しいサービスをリリースしていることもあり、このサイクルの時間が短くなってきています。何度も述べてきたようにWAN部分は利用するだけで費用が掛かります。最適な通信状態を確保、維持するためには常に通信量や利用状態を把握し、今後の通信量の予測を考慮したうえで帯域の増減や新サービスへの移行を検討していくとよいでしょう。

 後半はWAN部分についての基本的な構築の方法論の一部をご紹介しました。LAN/WANの区別なく「最適なネットワーク」についてはそれを利用するユーザーによって十人十色であり、定型化した「正解」は存在しないと筆者は考えています。しかし、ネットワークを使うのはあくまで「人」です。

 現時点で「人」がそのネットワークをどのように利用し、何に困っているかをよく調査し、理解することこそがネットワーク構築を成功させ、なおかつ長期間快適に利用できるべく維持可能なものに仕上げるための重要な第一歩であることはご理解いただけたのではないかと思います。どんなネットワークを構築するのであっても、以下の3点を頭の片隅に入れておくとよいでしょう。

WANは余裕をもって設計しよう

・無理をしない

・無駄をしない

・過信をしない


 無理せず余裕を持って設計することでネットワークの安定を図ります。「ここまで使えるのだから目いっぱい使う」というのは、実はトラブルのもとになりやすいのです。また、余裕を持つといっても特にWANを利用するに当たっては費用が掛かりますので、最適な余裕幅を吟味することが重要です。

 さらにA社の例でも触れましたが、バックアップ網を構築したからといっても故障する可能性もあります。自動車の運転ではないですが、「○○なはず」というのは危険です。世の中には壊れない機械はありません。最悪の事態を想定して障害時の対策方法をあらかじめまとめておくとよいでしょう。

 読者がネットワークを構築する際に若干でも本稿が参考になれば幸いです。

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