スイッチング・ハブには、上記に挙げた基本機能のほかに、さまざまな付加機能をサポートしており、それが製品ごとの差別ポイントとなっている。ここでは、カタログ・スペックを見比べるに当たって必要なキーワードを整理しておこう。
スイッチング・ハブなどのネットワーク機器は社内の随所に配置されるため、個々の機器の状態をそばで逐次確認するのは難しく非効率的だ。そこで、スイッチング・ハブ自体に管理に必要な動作状況を随時記録させておき、必要に応じてその情報をネットワーク経由で取り出せるようにしておけば便利である。こうした機能を備えたスイッチング・ハブを「インテリジェント・スイッチ」などと呼んでいる。
離れた場所にあるネットワーク機器の情報を管理する仕組みを「RMON(Remote Monitoring)」と呼び、その動作に使われるプロトコルを「SNMP(Simple Network Management Protocol)」という。インテリジェント・スイッチでは、トラフィック状況や温度情報などを「MIB(Management Information Base)」と呼ばれるデータベースに保存しており、管理端末からSNMPを使って随時取り出すことができる。通常は、ネットワーク監視を行っているサーバがSNMPを使って各所に配置されたネットワーク機器のMIBにアクセスして情報を取り出したり、書き換えを行っているが、急激にトラフィックが上昇したり機器の温度が上昇した場合などの緊急事態には、ネットワーク機器側から能動的に監視サーバに対して情報を通知することができる。この動作を「SNMP Trap」と呼ぶ。
すべての機器がSNMPに対応していると便利だが、インテリジェント・スイッチは値段も高く、ワークグループ内のスイッチや小規模なネットワークなど、管理機能を必要としないケースもあるため、トラフィックが集中する場所などを中心に適材適所で配置していこう。RMON/SNMPは単体で使用されることは少なく、たいていはHP OpenViewなどのネットワーク管理ツールとペアで使われる。
前述のように、通常のスイッチング・ハブではセグメントを区切ることができない。もしセグメントを分割したい場合には、物理的に2つのスイッチング・ハブを配置する以外に方法はない。だが「バーチャルLAN(VLAN)」という機能を使えば、スイッチは1台のままで、ポートごとに論理的にネットワークを分割することが可能になる。VLANのメリットは、社内の組織異動があったときなどでも、ネットワーク機器の構成を変更することなく、設定を変更するだけで論理的にネットワーク構成のみを変更できる点にある。
複数のスイッチング・ハブをまたいでVLANを構成することもできる。その標準規格が「IEEE 802.1Q」であり、ネットワークを流れるフレーム上にVLANを識別するID(タグ)を付けることで、スイッチング・ハブがどのVLANに属するフレームかを判別するため、「タグ付きVLAN」などと呼ばれることもある。
このVLAN機能をよりダイナミックに割り当てることを可能にするのが、ユーザー認証の標準仕様「IEEE 802.1x」だ。IEEE 802.1xに対応したVLANでは、あらかじめ設定された認証ポリシーに応じて、ユーザーごとに許可された範囲のネットワーク以外へはアクセスできないようにすることができる。動的にVLANを割り当てることで、セキュリティ効果アップが期待できるようになる。現在、ウイルス/ワームが企業セキュリティの脅威になっているが、外部から持ち込まれたノートPCなどを社内LANに接続する際、ウイルス/ワームに感染していないことが認証によって確認されるまで、VLANによって別セグメントとして隔離することも可能だ。このような仕組みを「検疫ネットワーク」と呼んでいる。
最近、社内LANでは通常のデータのほかに、音声やビデオ映像等リアルタイム性を要求されるデータを含むことが多くなってきている。また通常のデータ通信においても、社内の基幹業務にかかわるトランザクションなど、重要度の高いデータが含まれていることもある。この場合、これらのパケットを優先的に処理する仕組みが重要になってくるが、それを実現するのが「QoS(Quality of Service)」と呼ばれる帯域制御機構だ。
これを規定したのが「IEEE 802.1p」だが、同規格はIEEE 802.1Qで定義される拡張タグ内の優先制御情報に基づいて処理を行うため、両者は通常ペアで扱われることになる。IEEE 802.1pではQoS制御のほか、ビデオ映像配信などで必要な「マルチキャスト(一斉配信)」のサポートも行っている。ちなみに現在IEEE 802.1pは、複数のネットワーク・セグメントをまたいで通信を行うための規格を定めた「IEEE 802.1D」に統合されている。
ここまでスイッチング・ハブを導入される際に必要となる基礎知識を解説した。後編では、ギガビットクラスの機能に加え、スイッチング・ハブの選択のコツを紹介する。
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