前回は、「第9回 丸投げは失敗の始まり――調達マネジメント(1)」として、調達マネジメントの勘所を目指すべき調達マネジメントの方向性を提示するとともに、勘所として発注者が頭を悩ますポイントを取り上げた。
目指すべき調達マネジメントの方向性とは、これまでの「丸投げ型」マネジメントから脱却し、発注者も積極的に関与する「パートナーシップ型」マネジメントを実現することである。そして、前回取り上げた発注者が頭を悩ますポイントは、以下の3点である。
・選定前の「RFP作成」
・実際の「選定」
・選定後の「進ちょく/品質管理」
「RFP作成」については、その効果・重要性と具体的な実践テクニックを前回解説した。今回はRFP作成後に実施するベンダの「選定」と、その後の「進ちょく/品質管理」について解説する。
ケーススタディは、前回記事でも紹介したA社のRFP作成後を取り上げる。A社の状況を簡単に確認しておこう。
では、初目手部長の検討の様子をのぞいてみることにしよう。
初目手部長 「俺はシステムのことはよく分からんが、提案内容はどちらもこちらの要望にそれなりに応えていると思う。どちらにするか悩ましいなあ」
「そうだ。それぞれ提案の良い点/悪い点を整理してみよう(表1)」
X社 | Y社 | 評価理由 | |
---|---|---|---|
提案内容 | ○ | ○ | 技術的なことは不明であるが、両者ともこちらの要望をおおむね満たしている |
価格 | × | ○ | 開発費用はY社の方が2割ほど安価 |
信頼感 | ○ | × | X社の参画メンバーであるX山氏と以前仕事(メインフレームの機能拡張)を一緒にしたことがあり、そのときはよくやってくれた |
表1 X社とY社の提案比較 |
初目手部長 「結局、価格を取るか信頼感を取るかということか」
「いや、ちょっと待てよ。X社にY社の価格でやってもらえればそれが一番だ!」
「よし、X社と価格交渉してみよう」
このケースでは、「提案内容」「価格」「信頼感」という3つの評価項目を比較することで選定している。このように項目ごとに優劣を整理して、どちらの企業がより委託先として適しているかを判断することは間違っていない。しかし、評価項目はこの3つで正しいのだろうか。また、評価理由と評価結果は正しいのだろうか。多くの企業の担当者が頭を悩ますことは、「どういう項目で評価すればよいか」「どういう観点で優劣を評価すればよいか」ということ、いい換えれば、「何を」「どうやって」評価するかということであろう。
これについては後述するとして、ここではもう1つ別の観点で問題点に言及する。それは初目手部長が「1人で提案を比較検討している」ことだ。彼がよほど経験豊富なベテランプロジェクトマネージャで機能要件から技術要件、開発手法や運用要件までそのすべてを理解していれば、それでもよいかもしれない。しかし、彼はシステム経験がなく、評価理由にも技術的なことは不明としている。このような状態で選定することは大きなリスクを抱えることになる。
筆者の経験でもこのようなことがあった。システム的・技術的バックグラウンドが乏しい発注者が、「技術的なことはよく分からないので、そこはベンダに任せる」としたうえでベンダを選定した。そのプロジェクトでは、新システムを全国約1000カ所に展開しようとしていた。しかし、プロジェクトの納期間近になって問題が判明した。それは、システムのハードウェアとアプリケーションの基本的な構成に致命的な問題があり、全国展開に耐えられないというものであった。結果として、ほぼゼロからの再構築となり、当初稼働予定から1年以上の遅延と大きな予算超過を招く結果となってしまった。
ここでいいたいことは、「1人で選定してはいけません」ということではない。この問題の本質は、「分からないことを自分(たち)が分からないまま先に進める」ことである。自分1人で分からないなら、ベンダに説明してもらいつつ自分で勉強してもよい。時間が許さなければ、社内の経験者・有識者を巻き込んで見てもらえばよいだろう。社内に適任者がいないのであれば、社外の専門家や有識者(私たちのようなコンサルタントなど)にレビューや選定の協力を依頼することも考えられる。
「セカンドオピニオン」(専門家による第2の意見)という言葉を耳にしたことがあるだろうか。医療や不動産売買などの現場で注目されている言葉である。意思決定に専門知識を必要とする場合に、しかるべき見識を有する人の意見を聞き活用する、という意味ではベンダ選定についても同じことがいえるであろう。
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