Windows NTでも、ネットワークの資源をまとめて管理するために、「ディレクトリ・サービス」が提供されていた。Windows NTのディレクトリ・サービスでは、ユーザーやグループ、コンピュータを管理することができる。Windows NTのディレクトリ・サービスでも管理する基本単位はActive Directoryと同じく「ドメイン」と呼ばれる。そしてディレクトリを管理するコンピュータを「ドメイン・コントローラ(DC)」と呼んでいる。
ユーザーがNTドメインに参加(ログオン)する場合には、ドメインに登録されているユーザー名とパスワードを入力し、参加するドメインをリストの中から選択すればよい。
ログオン処理が終了して、正しく登録されたユーザーとして認証されれば、ユーザーはその後ドメインの資源を利用できるようになる。この処理はActive Directoryでも行われるため、ユーザーはNTドメインにログオンした場合とActive Directoryにログオンした場合の違いに気付くことは少ない。NTドメインにログオンできるクライアントは、Windows NTに限らず、Windows 2000やWindows XP、Windows Server 2003からもログオンが可能である。これとは逆に、Windows NTクライアントを使ってActive Directoryにログオンすることもできるため、ログオンしているドメインの違いをユーザーがログオン時に識別することは難しい。
逆にいうと、ユーザーは参加するドメインのバージョンは意識せずにログオンできるということである。
■Windows NTのログオン画面
■Windows 2000のログオン画面
■ Windows XPのログオン画面
このように、ユーザーは参加するドメインの種類を意識する必要はないが、管理者は、NTドメインを管理する場合と、Active Directoryドメインを管理する場合では、その違いをはっきりと意識しなければならない。その気になれば、NTドメイン管理の知識だけでActive Directoryドメインを管理することも可能である。基本的には、NTドメインを管理していた管理者が、それまで手掛けていた作業をActive Directoryでもそのまま行えるように配慮されている。
しかしそれでは、Active Directoryの機能を十分に生かすことはできないだろう。例えば、NTドメインでユーザーのパスワードの変更を依頼された場合を考えてみたい。この場合NTドメインのユーザー管理では、管理ツールの「ドメイン ユーザー マネージャ」というツールを使って作業していた。しかし例えば、登録されているユーザーが1万人いたとすると、パスワードの変更をしたいユーザーを探すだけでもたいへんな手間がかかる。これに対しActive Directoryでは、大規模なネットワークをより効率的に管理するためのユーザー管理ツールとして「Active Directory ユーザーとコンピュータ」ツールが提供されている。
NTドメインがフラットにリソースを管理していたのに対して、Active Directoryではリソースを階層的に管理する。「Active Directory ユーザーとコンピュータ」ツールには、検索コマンドが提供されているし、OU(Organizational Unit:管理組織)などで管理者が事前に階層構造を構成しておくと、どの部門のユーザーかという情報をもとに、パスワードの変更を行いたいユーザーにすぐにたどりつける(検索コマンドを使った場合、検索結果からパスワードのリセットを簡単に実行できる)。
検索結果が表示されれば、それらのユーザーに対して簡単に操作を適用することができる。
このように、NTドメインからActive Directoryに移行すれば、さまざまな管理作業の効率化を図れるだろう。
Windows NTのディレクトリ・サービスを使用してネットワーク上のユーザー、グループ、コンピュータを管理している環境(NTドメイン)も多いと思うが、Windows NTのディレクトリ・サービスには機能的な限界があった。
1つは、管理できる情報の種類が少ないということだ。NTドメインでは、ユーザーのメール・アドレスや所属部門、上司の名前などを登録する機能はない。
もう1つは、管理できる情報の量が少ないということだ。NTドメインでは、ディレクトリ・サービスが使用するデータベースのサイズの実用上の上限は約40Mbytesである。NTドメインでは、ユーザー1人当たり1Kbytesの容量を消費するので、ディレクトリ・サービスで管理する情報がすべてユーザーだとすると、単純計算で4万人が限界ということになる。ユーザーだけでなくグループやコンピュータも管理することになると、登録可能なユーザー数はさらに少なくなってしまう。
このようにデータベースの最大サイズに制限があるため、大規模環境では1つの組織でもドメインを複数に分けて運用することになる。ネットワークの規模や組織の構造などに応じて、この分け方にはいろいろな方法がある。例えばユーザー・アカウントとコンピュータ・アカウントで分けるマスタ・ドメイン・モデルなどである。
ユーザー名やグループ名、コンピュータ名などの重要な情報を格納しているSAMデータベースは、ドメインを管理するうえで非常に重要な役割を担っている。もしこのデータベースが壊れてしまったり、何らかの障害によって使用できなくなったりすると、ユーザーはドメインにログオンすることも、ドメインの資源を利用することもできなくなる。そのため、Windows NTドメインでは「シングル・マスタ複製」を利用して、SAMデータベースの耐障害性を確保している。シングル・マスタ複製とは、NTドメインで利用するSAMデータベースのマスタ(元)が1つしかないということを意味している。NTでは、マスタとなるデータベースの複製をほかのコンピュータに持たせることができる(複製を作ることを「同期」という)。マスタのデータベースを管理するコンピュータのことを「プライマリ・ドメイン・コントローラ(PDC)」と呼び、複製のデータベースを持つコンピュータを「バックアップ・ドメイン・コントローラ(BDC)」と呼ぶ。
PDCが停止していても、BDCが稼働していればユーザー情報、グループ情報、コンピュータ情報を利用することができる。つまりユーザーはドメインへログオンして、ドメインのリソースを利用することはできる。
しかしBDCでは、複製されたデータベースは変更ができないという制約がある(データベースを変更することができるのはPDCだけ)。変更ができないということは、例えば新たにユーザーを追加したり、ユーザーのパスワードを変更したり、グループのメンバを追加したり削除したりできないということである。
ユーザーの追加やグループのメンバの変更はそれほど頻繁に発生する作業ではないため、このような場合は、PDCが復旧するのを待ってから作業をするという選択もできるだろう。しかし、例えばユーザーがパスワードを変更したいという要求は、ユーザー側の要望であるため、任意の時間に行えることが望ましい。このような管理情報のメンテナンスは、意外なときに発生するものだし、ひとたび発生すると、緊急性が高いケースが少なくない。例えばユーザーのパスワードも、ユーザー情報の一部の属性であり、ディレクトリ・データベースで管理されている。つまり、PDCが停止しているとパスワードの変更すらできない。こうした問題を回避するため、Windows NTでは、BDCをPDCに昇格するという機能が提供されていた。しかし、昇格の作業は管理者が手作業で行わなければならない。Active Directoryでは、こうした限界が改善されている。
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