マイクロソフトの認定資格プログラムのうち、新資格MCTSの必須科目が日本でもスタートした。本記事では、どんな資格制度になったのか、どんな資格があるのか、どのようなスキルパスがあるのか、そして受験にどんなメリットがあるのかを解説する。なお、本記事の執筆は、新資格試験スタート前であり、その点はご了承願いたい。
マイクロソフト認定技術者、MCP(Microsoft Certified Professional)は、マイクロソフトが、マイクロソフト製品に関する知識とスキルをITエンジニアが持っていることを証明する資格である。MCPは、数あるベンダ資格の中でも比較的人気が高い。それには以下のような要因が考えられる。
例えば、Windows 2000トラックを例に挙げよう。受験者は70-215試験「Installing, Configuring, and Administering Microsoft Windows 2000 Server」に合格すればMCPとなる。この試験は「Windows 2000 Server」という単一の製品知識を修得していることの証明となる。
さらに、70-210試験「Installing, Configuring, and Administering Microsoft Windows 2000 Professional」および70-218試験「Managing a Microsoft Windows 2000 Network Environment」の計2科目を取得し、設定された選択科目の1つに合格すれば、上位資格であるMCSA(Microsoft Certified Systems Administrator)として自動的に認定される。さらに、その上にはMCSE(Microsoft Certified Systems Engineer)が用意されている。このように、間口が広く奥行きがあるのがMCP試験の特徴である。
しかし、最近では個々の製品知識を持っていても実務には役に立たない場面も登場している。もちろん、MCP試験も工夫されている。よくいわれる「資格があっても役に立たない」と主張するつもりはない。MCP試験の名誉のために、MCPがどれくらい有意義かを記しておこう。
特に、Windows 2000から導入されたケーススタディ形式の出題は、実際のSEが直面する場面をシミュレートしており非常に興味深い。ケーススタディでは、仮想の顧客の要求仕様と関係者のインタビューで構成された長文ドキュメントが提示される。受験者は、このドキュメントを読み、いくつかの設計上の決定を下す。中には無意味と思われる情報も含まれるので、必要な情報を取捨選択しなければならない。また、想像力も必要とされる。
例えば、社長が「年率20%の成長を続ける」と宣言していたら、社員が大幅に増えることを想定しなければならない。これは、実際のSEに不可欠なスキルである。そして、そこまでのスキルを要求するMCPは高い価値があると筆者は思っている。
Windows Server 2003以降のMCP試験はさらに工夫がされていて、個別の製品技術だけではなく、ITシステムを運用するための幅広い知識が要求されているのだ。
しかし、個々の試験問題の改良だけでは、MCPの価値を維持することが難しくなってきたことも確かである。第1の問題点は、資格体系が複雑な点だ。ITプロフェッショナル向けの上位資格には、MCSA、MCSEのほか、MSDST(Microsoft Certified Desktop Support Technician)があるし、MCSAとMCSEにはSecurityとMessagingという専門分野が設定されている。さらに、MCDBA(Microsoft Certified Database Administrator)というデータベース開発管理資格も用意されている(図1)。
第2の問題点は、専門分野が分かりにくいことだ。MCP資格の称号には、一部の例外を除き、専門分野は含まれない。もちろん、自分から名乗ればよいのだが、ロゴに含めることはできない。例えば、開発者向け資格であるMCAD(Microsoft Certified Application Developer)では、Webアプリケーション構築またはWindowsアプリケーション構築のいずれかをマスターすればよいが、ロゴにはどちらを修得したかは記載されない。
第3の問題点は、技術の多様化により従来のような「ネットワーク設計」や「ディレクトリサービス設計」といった単純な図式では収まらなくなってきたことだ。一時「IT doesn't matter(ITは役に立たない)」という論文が話題になった(米ハーバード・ビジネス・レビュー誌に掲載された)。筆者はITが役に立たないとは思わないが、ITは目的遂行の手段であり、本当に重要なことが何かを忘れてはならないとは思う。しかし、現在のMCPには、ビジネス戦略まで考慮した資格は存在しない。
さらに、「MCP試験問題集」が出回ることで、本来持つべき実力を伴わない人がMCPを取得するようになってきたこともある。このことはマイクロソフトも認めている。詳細はマイクロソフトの次のWebサイトを参照してほしい。ただし、なぜか日本のWebサイトには詳細情報がない。
ただし、不正受験についてはすでにいくつかの対策が打たれている。例えばシミュレーション試験の導入など、試験問題の改善に加えて、契約による規制も強化されている。試験問題を漏らした人やカンニングをした人は、現在のMCP資格をはく奪され、今後も永久に取得できなくなる。なお、いくつかのトレーニングセンターが「補足資料」と称して、試験問題を配布していることも指摘している。日本でそのような事例があるかどうかは分からないが、健全なトレーニングセンターに対する挑戦であり、厳しく取り締まってほしいものだ。
マイクロソフトでは、こうした問題に対処するため、MCP試験体系を順次切り替えることにした。まず、資格体系を単純化している(図2)。
次に、ロゴ表示ガイドラインを変更し、専門分野を記述できるようにした(図3)。従来の製品別MCP資格はMCTS(Microsoft Certified Technology Specialist)に相当する。MCTSでは個々の製品や技術に対するスキルを証明する。ITプロフェッショナルであれば、既存の環境の運用保守ができ、開発者であれば仕様に従ってプログラムを作成できるスキルを指す。
上位資格は、MCITP(Microsoft Certified IT Professional)およびMCPD(Microsoft Certified Professional Developer)の2種類に統合され、専門分野で区別するようになる。MCITPおよびMCPDは、与えられたビジネス条件を満たすシステムを設計できるスキルを指す。このレベルまで来ればプロのエンジニアとして一人前といえるだろう。
新資格では、さらに上位資格としてMCA(Microsoft Certified Architect)を設定した。日本ではすでにMCA(Microsoft Certified Associates)という資格があるため、ここでは便宜上単にアーキテクトと呼ぶことにする。
アーキテクトは「ITビジネスをリードするためのスキルを認定する」と定義されている。アーキテクトでは、個々の製品知識だけではなく、ビジネスを戦略的に展開するための企画立案や組織内の調整まで要求される。これは、従来のIT資格には見られなかった発想である。アーキテクトは、技術センスと同じくらいビジネスセンスが要求される。そのため、ほかの資格にはない以下の特徴がある。
原稿執筆時点では具体的な方策は発表になっていないが、文書では伝えきれないニュアンスを師弟関係のような形で修得してもらおうということのようだ。
新しいMCPの資格認定は、SQL Server 2005およびVisual Studio 2005対応資格から順次開始する。ITプロフェッショナル系の資格は、おそらくWindows Vista以降に登場するだろう。既存のMCP資格はそのまま継続し、失効はしないので安心してほしい。
とはいえ、進歩の速いIT業界である。新しい資格にはできるだけ早く対応したい。そこで、新資格へのアップグレードパスも用意されるということである(画像2)。詳細はマイクロソフトのWebサイトを参照していただきたい。
新しいMCP資格について、筆者の思うところを書かせていただいた。マイクロソフトのWebサイトにはもう少し詳しい情報が出ているが、正直なところ、抽象的な言葉が並ぶだけで、取得のメリットが分かりにくい。本記事には幾分主観的な主張も含まれるが、新しいMCP資格取得のきっかけになれば幸いである。
なお最後に再度付け加えさせていただくが、冒頭でも紹介したように、新MCP資格に対応したMCTSの必須科目の日本語対応試験が開始された。
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