「派遣でスキルアップ」のつもりだったのに転職活動、本当にあったこんなこと(1)(1/2 ページ)

多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。

» 2006年07月25日 00時00分 公開
[高野和幸アデコ]

 現在、派遣社員として活躍されているITエンジニアの方は大勢いらっしゃるでしょう。そして派遣社員としての就業に興味を持っている方も、かなり多いのではないかと思います。

 転職活動で本当にあった危険な事例を紹介する連載の第1回として、派遣社員になることを決めたあるITエンジニアが陥った落とし穴について紹介します。

派遣社員になりたい!

 鹿田さん(仮名)は25歳のネットワークエンジニア。社員200人弱のネットワークインテグレータに勤務し、大手IT企業に常駐してネットワークの保守・監視業務を行っていました。

 大学でも理工系の学科を専攻しており、IT関連の知識には自信を持っていた鹿田さん。いずれは大規模なネットワーク構築・設計ができるスペシャリストを目指して、大学卒業時に現在の企業に就職したのです。

 どんどんスキルを磨いて、業務でも経験を積んで……と考えていたのですが、配属されたプロジェクトは保守・監視業務が中心のものばかり。入社からすでに3年が経過しましたが、仕事は多忙を極め、ネットワークの設計や構築にかかわるチャンスすらありません。目標に近づけない焦燥感を感じながらの日々です。また、就業当時から「安い!」と感じていた給与も一向にアップせず、イライラは募るばかりでした。

 そんなある日、鹿田さんは久々に大学の先輩と再会。一緒に食事をすることになり、興味深い話を聞いたのです。

 先輩は卒業後しばらくは正社員として入社せず、派遣社員として働いていました。鹿田さんと同様、ネットワークエンジニアとしてキャリアを積みたいと考えていましたが、いきなり大規模なネットワーク構築・設計ができる大手企業に入社することは難しいと判断し、派遣社員として業務経験も積みながら、資格の取得を目指して勉強することにしたというのです。

 派遣での就業なら希望に近い勤務時間や勤務場所を選べるので、勉強のための時間をきちんと確保することができたとのこと。もちろんちゃんと給与がもらえるので、生活の心配もしなくていい。しかも、正社員と遜色ない額で、少し残業があると正社員より給与が高い月もあったと先輩はいいます。

 そして、卒業から3年。難関といわれる資格を取得し、そのタイミングで希望する大手ネットワークインテグレータへの転職を見事に成功させたというのです。現在は思う存分自分のやりたいネットワーク構築・設計の仕事をすることができ、充実した毎日を過ごしていると笑顔で語る先輩。そんな話を聞きながら、鹿田さんは心の中で何度も「これだ!」とつぶやいていました。

 翌日、早速会社を休んで人材派遣会社へ出掛けた鹿田さんは、想像していた以上にエンジニア向けの仕事があることに驚きました。しかも先輩のいうとおり、時給の高いものが多く、月額では現在の給与を軽くオーバーするものばかり。

 鹿田さんの決心は固まりました。

 会社を辞めて、当面は派遣社員として働き、経験を積むのです。ただ目的はあくまでもスキルアップして、自分の希望がかなえられる大手ネットワークインテグレータに転職すること。ずっと派遣社員でいるつもりはないので、3年といわず、1年で難関資格を取得して再び転職活動をすることに決めました。

 ようやく見えてきた希望の光に、鹿田さんの心は弾むばかりです。

 すぐに現在の会社へ退職の意思を伝えると、タイミングよく派遣会社から声が掛かり、派遣社員として順風満帆なスタートを切ることになりました。

最高の環境が悲劇の始まり?

 鹿田さんが派遣されたのは、医療系企業の社内システム運用担当でした。居心地は最高です。

 社内ネットワークの管理からPCの操作方法の案内といったヘルプデスク業務までを幅広く受け持っていましたが、スタッフは鹿田さんを含めて3人おり、忙しすぎない絶妙の業務量。適度に残業も発生して、給与が30万円を超える月もありました。

 会社にはいろいろな部署にたくさんの派遣社員がいて、年齢も近い仲間ばかり。週末になるといつも飲み会が催されます。業務に追われていたこれまでの生活から一転、楽しい日々が続きました。

 すぐにでも資格の勉強を始めようとしていた鹿田さんでしたが、そのうち「給与もアップしたし、条件的には希望どおりになったのだから焦る必要もない。きっとこれは神様が忙しすぎた自分にご褒美をくれているんだ。半年くらいは骨休めをして、リフレッシュしてから勉強をした方が能率もいいはず」と考えるようになっていたのです。

 そのまま半年どころか1年が過ぎようとしていたとき、突然事件は起きました。

 派遣先の企業がほかの企業に吸収合併されることになり、業務の見直しの必要性から大量の派遣社員の契約が終了されることになったのです。終了対象者の中には鹿田さんの名前もありました。

 まったく想定外のアクシデントにパニックになる鹿田さん。幸いにも派遣会社には翌月からの新しい仕事を用意してもらうことができ、無職になってしまう事態は避けられたものの、あらためて派遣社員として働くことのリスクを実感。やはり安定した正社員として働きたいと、あわてて転職活動を開始することにしました。

1年間、目的を忘れて過ごしたツケが

 目指していた資格の取得を果たせなかったどころか、まともな勉強さえすることなく過ごした1年のブランクはあまりに大きいものでした。ところが鹿田さんの中には「せっかくステップアップを狙って退職をしたのに……」という気持ちばかりが強く残っており、前職の企業と同等かそれ以上の規模の企業への応募を繰り返してしまいます。

 当然、面接のオファーすらない連敗地獄。鹿田さんは精神的にも追い詰められていきます。

 すっかり意欲を失い、派遣の仕事も欠勤が目立つようになってしまった鹿田さんには、派遣先からの契約終了が続きました。結局、この後の1年間で実に3社を転々と渡り歩く結果になってしまったのです。

 転職活動も相変わらず成果のない日々が続き、途方に暮れている鹿田さんに、ある日、あの先輩から電話がありました。

 私が鹿田さんとお会いしたのは、涙にくれる鹿田さんを見かねた先輩が、人材紹介サービスについてアドバイスをしたことがきっかけでした。

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