プレゼンテーションはコミュニケーション。相手に「●」を向けて、話しましょう。
こんにちは、堀内浩二です。進捗報告やちょっとした提案などを含めると、ITエンジニアでもプレゼンテーションをする機会は意外に多いもの。ところが「プレゼンテーションが苦手」という方、多いですよね。そこで今回はビジネススクールでプレゼンテーションを教えているAさんにお話を伺いました。
Aさんの守備範囲は、資料の構成から実施に至るまで幅広いのですが、今回は「進捗報告会など日常的なプレゼンの場」で、この記事を読んですぐ効くコツを教えてほしいという、ずうずうしいお願いをいたしました。
Aさん まず、プレゼンテーションの目的は、相手に自分の望む行動を取ってもらうこと。
堀内 と、よくいわれますよね。
Aさん よくいわれることなんですが、実はまだまだ考え抜く余地があるケースが多いんです。プレゼンテーションに説得系と報告系があるとすると、説得系のプレゼンテーションでは目的を明確にしやすいですよね。
堀内 相手にこれを買ってほしいとか。
Aさん そう。でも報告系のプレゼンテーションでも、実はちゃんと目的があります。決して「報告すること」自体が目的にはならないはずです。聞き手に何かを理解してほしいのか、意見をいってほしいのか、具体的な行動をしてほしいのか。
例えば、「報告会でプレゼンをしても、いつも質問が出ない」という場合を考えてみましょう。分かったかどうかを知るために質問を促したいのであれば、質問したくなるような状況を作る必要があります。
堀内 事前にそこを考えずに、ただ「質問がなくて不活発」というのでは、目的意識が甘かったということですね。これは、具体的にはどうしたらいいのかなあ。
Aさん 必要なのは、想像力なんです。
堀内 想像力!
Aさん 想像力を使って、聞き手のことを考え抜く。現在A地点にいる聞き手にB地点に行ってもらうことが目的だとしたら、相手がB地点に行くまでの障害を取り除いてあげることをイメージしてみてください。聞き手の立場は、知識は、気になっていることは、などなど。
堀内 ただ「自分のいいたいことを分かってもらおう」というレベルでは十分ではない。
Aさん そう。「あなたはB地点に行くべきだ」という思いが聞き手に伝わっても、実際の行動に結び付かなければ、目的達成にならないわけですから。例えば、「聞き手がこの報告を受けて、次に取る行動は何だろう?」と考えてみれば、社内の説得に使えるようなロジックや資料を用意しておいた方がいいかな、といった想像が働くと思います。
堀内 もし、聞き手の気持ちがうまく想像できなかったら?
Aさん 「聞きなさい」と言っています(笑)。報告ということは、聞き手とは初対面ではないと思います。しっかり想像力を働かせたうえで聞きに行けば、的を射た質問ができますよ。
堀内 資料をすごくきちんと準備して、本番ではそれを読み上げるだけという報告スタイルの人がいますよね。
Aさん もったいないと思います。それなら配って読んでもらえば済む話ですよね。「配布資料を読むだけでよかった」、つまり聞くまでもなかったと聞き手が思ったとしたら、ビジネスプレゼンテーションの評価としては最低です。
堀内 「報告」とか「プレゼン」というと、何となく「トウトウと語る」というイメージがあると思います。それが邪魔をしている気がするんですが、どうすればいいんですかね。
Aさん 「相手の時間を大事にする」という意識を強く持つだけで、おのずとプレゼンテーションのスキルは上がりますよ。
堀内 なるほど、トークとか立ち居振る舞い以前に、意識の持ち方だけでスキルアップすると。
Aさん そう。考えてみてほしいのですが、報告書を読んでおいてもらえば済むところを、なぜ直接会ってプレゼンテーションするのでしょうか。相手の時間を大事にしようと思ったら、プレゼンテーションではどうするべきでしょうか?
堀内 ただ読む以上の価値を与えるべきですよね。つまり、その場で相手によく理解してもらう?
Aさん その通り。つまり、プレゼンテーションは、コミュニケーションなんです。そしてコミュニケーションでは、相手の反応が自分の次のアクションを決めます。よく「聴衆の目を見て話せ」っていいますよね。あれもただにらめばいいのではなく、聞き手がどこまで理解しているかを知ろうということです。
堀内 確かにプレゼンテーションの上手な人は、聞き手の理解度を観察して、それに合わせて内容を変えていきますよね。あれはかなりレベルが高いと思うんですが……。
Aさん それは難しいと思います。それに、事前に決めたシナリオを外れてしまうと、自分が混乱してしまうリスクもあります。でも、相手の理解度に応じてスピードを落としたり、いったん戻って説明し直したり、質問を受け付けることは、できますよね。
堀内 それならできそうですし、それをしなければ一方通行になってしまうということですね。他に「コミュニケーション」という観点から、すぐに実践できるコツはありますか?
Aさん 大事なポイントを1つ紹介します。それは、「相手に胸を向ける」ということ。例えば質問されたとしますよね。相手の顔も見ずに答えるのはもちろんNGですが、話すときには顔だけでなく、胸を向けてみてください。
堀内 (実際にいろいろ試してもらう)……なるほど! 確かに話していて「話を聞いてもらっている」感じがします。相手の胸がこちらに向いていないと、ちょっと軽んじられている感じですね。「斜に構える」とはよくいったものだ(笑)。
Aさん (笑)でも結構見かけます。あと、話を聞くときも胸を向けましょう。
堀内 「プレゼンテーションはコミュニケーション」ですからね。
Aさん そういうことです。自分の話が終わり、聞き手に回ったときこそ要注意です。相手の話にうなずくことも、反応することもなく、背もたれにそっくり返って、足を組んで、目をつぶって、貧乏ゆすりをしながら聞いている……、なんてことはありませんか? こんな態度で聞かれては、話す方も不安になってしまいます。無意識のうちにやっていることも多いので、気を付けてほしいです。聞くときも、話すときも、相手に誠意が伝わるよう、胸を向けてみる。習慣になるまで意識的にやった方がいいですよ。
堀内 ところで聞き手のことを考え抜けといっても、言いなりになれという意味ではありませんよね。
Aさん もちろん。プレゼンの目的はあくまで聞き手をB地点に連れて行くことですから、相手にのまれたり引きずられてしまってはいけません。
堀内 よく、「私は自信なさげに見えるので、説得力がないんです」という話を聞きます。そういう人に対するアドバイスはありますか?
Aさん ありますとも! 私が担当している研修でも、そうおっしゃる方がよくいらっしゃいます。でもそういう方ほど、その貴重な個性を自覚すると、強いですよ。
堀内 貴重な個性?
Aさん 「自信なさげに見えてしまう」と思わずに、例えば「押しつけがましさがない」「威圧感がない」「謙虚さがある」という強みだと思ってほしいのです。いまは威圧的に、声高に語る人が多いですから、これは貴重な個性なんですよ。
トークは立て板に水だけど、何にも記憶に残らないプレゼンテーションってありますよね。一方で、とつとつとした話しぶりでも「伝わってくる」プレゼンテーションもあります。
堀内 プレゼンテーションというと、ハキハキと雄弁に、という「型」みたいなものがあると思われがちですよね。
Aさん それは型の1つに過ぎません。重要なのは大声で話すことではなくて……。
堀内 目的を達成すること。
Aさん そうです(笑)。私は、プレゼンテーションで重要なのは「自信」「熱意」「誠実さ」だと言っています。
エンジニアのプレゼンテーションをお聞きする機会は、研修でも実際の仕事でもありますが、「熱意」と「誠実さ」が足りないと感じたことはありません。技術という依って立つものがあるからかもしれませんが、もし職種ごとに点を付けるとしたら、この2つはかなり高いと思います。
堀内 残るは「自信」ですね。
Aさん 話し手に自信が欠けていると、聞き手も不安になります。例えば、自信なさげなお医者さんに診てもらいたい人はいませんよね? 医者が不安そうだと、患者も不安になってしまう。
堀内 確かに(笑)。自信を持つためには、何があればいいですか?
Aさん 自信の源は、3つあります。
第一に、自分は誰よりもこの内容をよく分かっているという「自負」。そのためには、念入りな準備、努力が必要です。
次に、これを伝えることによって、相手に具体的な価値を提供しているという「信念」。
そして、見過ごされがちですが、とても大切なのが「個性」です。いわゆる欧米型のスピーチテクニックをまねする前に、自分の個性を自覚して、自分に合ったプレゼンテーションのスタイルを見つけること。これは「必ず」あります。そして自信を持ってプレゼンテーションをすれば、小手先のスキルを覚えるよりもはるかに上手になりますよ。
堀内 そのスタイルを見つけるには、どうすれば?
Aさん 報告会などであれば、同席している同僚がいると思います。同じ会社の人間でチームを組んで、小まめにフィードバックを受けるのがいいでしょうね。
ビジネスプレゼンテーションはチームワークでもあるんです。一人一人の個性が分かってくれば、プレゼンテーションに合わせてプレゼンターを変える、なんてこともできますよ。
堀内浩ニ
アーキット代表取締役、グロービス経営大学院 客員助教授。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。シリコンバレーに移り、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。帰国後、ベンチャー企業の技術および事業開発責任者を経て独立。現在は企業向けにビジネスリテラシー研修を提供するほか、社会人個人の意志決定支援にも注力している。
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