多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
現職への不満から転職を考えるようになり、転職活動を始めるというケースはよくあります。しかし、初めのうちは不満が理由だったにしても、転職活動を通して徐々に前向きな理由に変えていく必要があります。
今回は、強い不満から転職活動を開始し、最後まで前向きになれなかったため転職に失敗した3人のITエンジニアの例をお話しします。
江原さん(仮名)は32歳のITエンジニアで、大学を卒業してから10年の経験があります。社員200人ほどのシステム開発(SI)会社に在籍し、主に製造業や流通小売系企業向けのシステム開発に従事してきました。
社長が大手メーカー出身のため、主な仕事はそのメーカーの下請けの案件で、システムの一部分の開発を請け負う形が多かったそうです。いわば2次請けの仕事ですが、開発の上流工程の部分はある程度経験できていたようでした。
しかしながら、江原さんには大きな不満がありました。エンドユーザーとの距離が開き過ぎていたことです。「エンドユーザーの声が聞ける、元請けの仕事がしたい……」。一念発起して転職活動を始めた江原さんは、自社開発のパッケージソフトを持っているベンチャー企業に転職しました。ソフトウェアの企画開発だけでなく、導入も行っている会社です。念願の元請けのプロジェクトを経験して、江原さんは大きくキャリアアップするはずでした。
社員60人ほどのソフトハウスに勤める辻さん(仮名)は、来る日も来る日も終電帰り。大手SI会社に開発要員として常駐し、証券会社向け基幹システムの刷新プロジェクトに参画していました。エンドユーザーの証券会社が用意した作業事務所には、辻さんのようなプログラマが常時100人程度は詰めていたそうです。
厳しい環境にも耐えられるのは、やっぱりこの仕事が好きだから。辻さんは同じくプログラマのお父さんの影響からか、小学生のころからパソコンが趣味でした。高等学校を卒業した後、早くプログラマとして働きたい一心で、周囲の反対にもかかわらず大学に進学せず、コンピュータの専門学校を卒業して現在の会社に入社したとのことです。
そんな辻さんも、社会に出て7年。プログラマとして成長すると同時に社会人としても成長しました。それにつれてソフトウェアの開発よりもっと上流の仕事に興味を持ち始め、転職を考えるようになったそうです。
就職情報誌で情報を収集し、とある書籍小売業の社内情報システム担当者として転職しました。システムを開発することに代わって、いかにうまく使いこなして本業を支援するかが目的となりました。
柿田さん(仮名)はベンチャー系ソフトウェア開発会社に勤める28歳のITエンジニアでした。自社製品の開発に従事し、ハードワークながらやりがいを感じて働いていました。残業代が出ないという不満を除いては……。柿田さんの会社では、本来違法であるサービス残業が一般化していたのです。
仕事内容には十分満足していた柿田さんですが、サービス残業のむなしさにとうとう転職することを決めました。転職サイトで求人情報を探し、いくつかの会社に応募してみたそうです。
その結果、柿田さんは中小規模のソフトハウスに転職しました。大手のパートナーとして大規模案件にかかわれるのがこの会社の魅力で、仕事量は波がありますが、働いた分だけ時間外手当が支給されます。サービス残業に起因するストレスを感じることなく働けるようになるはずでした。
江原さん、辻さん、そして柿田さん。一見すると、初めての転職で成功したかのように思えます。でも、この3人はまたすぐ転職することになりました。
私がこの3人に会ったのは、「転職したけど何かしっくりこない」「あの転職は失敗だったのでは」、そう思ってそれぞれが当社の転職支援サービスに登録してきたときのことでした。
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