どうせタダでしょ? 人材紹介会社10社利用します転職活動、本当にあったこんなこと(13)(1/2 ページ)

多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。

» 2007年10月09日 00時00分 公開
[高野和幸アデコ]

人材紹介会社を利用するメリット

 業界、業種を問わず、優秀な人材の確保に積極的に動くことが企業のミッションとなってきているこのごろ。求職者側にも、目指したい将来像をよりクリアに描ける環境を求めて転職するという考え方が、しっかりと定着してきたように思います。

 そのための情報収集の手段として、インターネットを上手に活用するほかに、いわゆる人材紹介会社を利用する人も増えています。人材紹介会社に登録すれば、自分に合った求人情報の提供だけでなく、キャリアカウンセリング、応募書類の書き方や面接に関するアドバイス、退職活動のサポートなどを無料で受けることができます。業務やプライベートで多忙な毎日を送っている人には、とても心強い味方だといえるでしょう。

 最近では、同じ業界の私たちでさえ正確に把握できないほど多くの人材紹介会社があります。そのため利用者から見ると、どこを利用するのか、どのように活用すればいいのかに悩むような状況が生まれてしまっているようです。

 今回は、人材紹介会社を上手に活用して転職活動を成功させたケース、上手に活用できずに失敗してしまったケースを具体的に紹介しながら、人材紹介会社との付き合い方のヒントを探ってみたいと思います。

「10社利用します! どうせタダだし」

 桜井さん(仮名)は29歳のITエンジニア。専門学校卒業後にシステム開発会社に入社し、その後転職。当時は2社目の企業で、金融機関向けのシステム開発プロジェクトにサブリーダーとして携わっていました。

 前回の転職の際は個人で活動を行い、忙しい業務の合間にバタバタと2社目の企業への入社を決定してしまって、そのことをずっと後悔していたそうです。

 それから3年が経過。期待していた給与アップが実現していないこともあり、いよいよ再度の転職活動を開始する決心をした桜井さん。相変わらず業務は多忙でしたが、今回はかなりの手応えを感じていました。

 実は桜井さんと仲の良かった同僚が、人材紹介会社を利用し、業務に追われる生活の中で、目標としていた企業への転職を成功させていました。それを聞いた桜井さんも、人材紹介会社からのスカウトが受けられるWebサイトに登録。想像していた以上の数のスカウトが届き、自信を深めていたのです。

 私が会ったときには、桜井さんはすでに4社のキャリアコンサルタントと面談を済ませ、たくさんの求人情報の紹介を受けていました。可能性のある企業はおおむね提案されている状況だと考えた私は、桜井さんに「あと何社くらい人材紹介会社を利用する予定なのですか」と質問してみました。すると……。

 「少なくとも10社の人材紹介会社を利用するつもりです。どうせタダだし(笑)」

 桜井さんは、数多くの人材紹介会社を利用していることをそれぞれのキャリアコンサルタントに明らかにし、彼ら(当然私も含めてなのでしょう……)を競わせることで、より高いレベルのサービスを期待できるはずだと考えていたようです。

 「高野さんは丁寧に話を聞いてくれたから、1社応募しますよ。これからも油断せずよろしく」。そういい残して帰っていった桜井さんは、まさにそのとおりのことを実行。その後も次々と人材紹介会社を訪問し、行く先々でちやほやされることに有頂天になっているようにも見えました。

制御不能。最悪の事態に

 しかし、転職活動の「神様」はそんなに甘くはありませんでした。

 応募を始めてすぐに、とあるキャリアコンサルタントから「応募を依頼された企業には、すでにほかの人材紹介会社から応募されている」との電話が入りました。そして同じような状況がほかの企業でも……。この時点ですでに、桜井さんの活動は制御不能な状態に陥っていたのです。

 それでもいくつかの企業からは面接のオファーがあり、桜井さんは少し落ち着きを取り戻しました。しかしその後、最悪の事態が起こってしまったのです。

 複数のオファーに応えるため、忙しい中、懸命にスケジュールをやりくりしていた桜井さん。ようやく調整した日程を同時に複数の人材紹介会社に伝えたため、まったく同じ日、同じ時間帯に、第一志望の企業と優先順位の低い企業の日程が重なってしまいました。まずいことに桜井さんは、そのことを見逃してしまったのです。

 優先順位が低い企業の面接を終えて携帯電話を確認したところ、第一志望の企業の応募を依頼した人材紹介会社から、大量の着信履歴が残っていました。折り返し連絡をすると、担当のキャリアコンサルタントから面接の「ドタキャン」について強く責められ、桜井さんはようやく自分の身に起こった事態に気付いたのでした。

 どうにか面接をもう一度セッティングしてもらえたものの、当日は明らかに気まずいムード。もちろん残念な結果に終わってしまいました。

 桜井さんのケースは、いたずらにたくさんの人材紹介会社を利用すると、かえって転職活動が困難になってしまうことを教えてくれます。

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