産業界にイノベーションを起こす“新・潰しの利く人間”ロボット工学はすべてに通ず

» 2008年10月14日 00時00分 公開
[荒井亜子,@IT]

 ロボット製作を通じてものづくり教育・人材育成を行っている、ロボテスト 取締役 竹中恭二氏は10月10日、パソナテックカンファレンス2008で「エンジニアの成長を加速 ロボット技術の人材育成への活用」と題し、これからの製造業で求められる人材像について語った。

日本のロボット産業は最先端ではない

 ロボテスト 取締役/富士重工業 相談役 竹中恭二氏

 2007年問題ともいわれた団塊世代の大量退職により、ベテラン技術者が次々と現場を去っていく。現場を支えるのは、専門技術の範囲が狭い若い技術者だ。加えて、日本は超少子高齢化が急進展し、若い世代の人口そのものが減っている。理系離れ、資源高による希少金属の高騰も製造業にとって大きな問題だ。日本が国際競争に打ち勝つには、これらの問題を解決しなければならない。こうした背景を受け、経済産業省は「新経済成長戦略」において、製造業では、航空機、ロボット、新電池、医療介護といった4つの分野を推進していくこと発表している。

 竹中氏はこの中で特にロボット産業を指し、「これは、日本が現在世界をリードしている(自動車会社で溶接をするような)産業用ロボットを発展させる構想ではなく、もっと一般人の生活に根ざしたサービス用ロボットの開発を進める構想だ」と説明している。「日本ではASIMOなど二足歩行ロボットが目立ち、ロボット技術が最先端を行っているように思われているが、それは大間違い。日本のロボット産業は、研究レベルでは進んでいるが、それを産業化する次へのステップが進んでいないのが現状」(竹中氏)。

 問題はそれだけではない。現在の資源価格の高騰が製造業とって大きな痛手となっている。竹中氏は「資源料は上がり、売値は下がる、原価はインフレ、売値はデフレ状態。利益は資源国に利益が流れていく。新たな成長メカニズムの中では、日本と海外市場の中で所得が還流し、内需産業を発展させ国民生活を豊かにしたい。そのために、使用するエネルギー源を見つめ直し、資源の利用効率を引き上げるなど、対策を講じなければならない」と指摘する。

 新しく価値のある製品の創出、原価を抑えるための資源の活用法……、問題は山積みだ。竹中氏は「製造業の基本である新たな付加価値の創造、“日本ブランド”力の強化、当たり前だがこれに尽きる。それらを成しえるための人材育成は急務である」と強く訴える。

“新・潰しの利く人間”

 竹中氏は、これからの技術者は「(人口が減っていることから)少数精鋭で、“マルチな人間”」が望まれると述べる。「製品を取り巻く社会環境、マーケット環境の変化に柔軟に対応できる幅広い視野を持ち、いろいろな課題を自らの働きかけで解決できるような人間を育成していかなければいけない」(竹中氏)。特に製造業において、これまで個人は1つの専門技術を深堀していくことが主流だった。しかしこれからは、「複数の専門技術を理解することによって全体の成り立ちを理解できる能力が重要になってくる。バランス感覚があり、複数の専門知識を統合化でき、コミュニケーション力を持つ“新・潰しの利く人間”が必要である」(竹中氏)。

 「新・潰しの利く人間」

ロボット工学はすべてに通ず

 竹中氏は、潰しの利く人間になるために、ロボット工学の習得は大きな意味を持っていると主張する。

 そもそもロボットと機械の違いは何か。素人目からは同じことのように見えるし、ロボットというとつい鉄腕アトムや、ガンダムのような二足歩行のメカを想像してしまう。だが竹中氏によるとこうした思い込みがロボット工学への理解を妨げているという。

 「ロボットとは、ある機械が自ら自分の環境をセンシング(センサーでキャッチ)し、機械の頭脳でどうするかを考え、指令を発し、自らの動く機械を動かして目的を果たすもの。機械工学を基礎に、電気工学、電子工学、情報工学を融合したコンピュータ技術適用のソフトウェア」(竹中氏)。二本足で歩くロボットだけことにこだわることはない。

 竹中氏はロボットの魅力をひと言で「効率よくまとめられた機械」と説明する。さまざまな工学の融合から新たな知恵が生まれる。その知恵で創出された機械をシステマティックに一体化する。「ロボット開発においては、機械を効率よくまとめる、システム指向が非常に重要」(竹中氏)。機械の中身だけでなく、機械が動く環境も考え、どう組み立てるとシステムとして成立するかといった物事の仕組みをしっかりととらえる能力が必要ということだ。

 竹中氏は、「このシステム指向のプロセスは現代の科学技術の急速な発展の中で、社会に役立つ付加価値の高い製品を生み出す源泉になっていく。これはロボット製作に限ったことではなく、家電製品、自動車においても同じ」。

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