デザイナが知っておくべきユーザーインターフェイスの法則。ユーザビリティを向上させる具体的なチェックポイントを考えよう
はじめまして。数年、Webアプリケーション開発会社でUI(ユーザーインターフェイス)制作を担当しているデザイナの嶋田です。業務アプリケーション開発を中心に、ユーザーの業務を理解して、情報設計、最適なUIデザインの提案を目指しています。
この連載では、これまでの経験を生かして、私と同じようなWebアプリケーションのUI(ユーザーインターフェイス)制作を担当する方々を対象に、ユーザビリティ向上のヒントとなる要素をご紹介していきたいと思います。
あなたは電車に乗るときに、「どのようなモーターで駆動しているのか」や「どのような材質で車両ができているか」を気にするでしょうか? あなたの見えない場所でいかに複雑で高度なことが行われていようとも、それはあなたの目的、つまり「任意の駅まで行く」ということとは本質的に関係がありません。乗客(ユーザー)にとっては、「目的を快適に達成する」のが最優先事項であり、見えない裏側は「完ぺきに動くのが当然」なのです。
逆に、あなたが気にするのは「シートの乗り心地」や「駅到着前のアナウンスの分かりやすさ」「路線図の見やすさ」などでしょう。このような、ユーザーとシステム(対象)が接する部分を「ユーザーインターフェイス(UI:User Interface)」と呼びます。また、インターフェイスの使い勝手・使用性を「ユーザビリティ(Usability)」と呼びます。ユーザビリティの低い電車に、あなたは乗りたいですか?
同じことがWebアプリケーションの開発にも当てはまります。いくら高性能のサーバを導入し、データベース設計を入念に行っても、UIの使い勝手が悪いのでは台無しです。さまざまなWebアプリケーションを見ていると、ヘルプを読まないと分からないような機能や、押せるようにはとても見えないボタンが実装されているものもあります。
このようなユーザビリティの問題点を、事前に洗い出したり、公開後にも修正していくことで、顧客離れを防いだり、類似サービスとの差別化、新規ユーザーの学習コストを下げることが可能です。
加えて、昨今ではマルチタッチディスプレイや3Dディスプレイなどの、まったく新しいインターフェイスも続々と登場しつつあります。次期Windowsでは標準でマルチタッチ機能が搭載されるともいわれています。これらの特徴を有効活用できるUIを開発するため、ユーザビリティ設計に対する注目はこれからも一層高まっていくでしょう。
ここで、一般的なユーザビリティの定義をご紹介します。規格の名前は必ずしも覚える必要はありませんので、それぞれの定義が何をいわんとしているのかを洞察してみてください。
この概念が一般的になったのは、1994年にヤコブ・ニールセンというアメリカの工学博士が著書の中で提唱したことがきっかけです。その中で彼は、ユーザビリティを構成する要素として下記の5つを挙げました。
その後、PCとインターネット環境の普及と時を同じくして、国際標準化機構(ISO)による定義の厳密化が行われました。そのうち現在最も一般的な規格がISO 9241(オフィスワークに関する人間工学的要求)です。
余談ですが、この規格に準拠したISO 13407(インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス)では、周辺文書にて、ユーザビリティを定量・定性的に計測するための手段が紹介されています。製品のユーザビリティ評価にとても有効ですので、一度ご覧になってください。
また、ソフトウェアの品質を評価するための規格、ISO 9126というものもあります。
以上のように、さまざまな定義付けが異なる言葉でなされていますが、「ユーザーにとって使いやすいものを提供する」という目的は、ほぼ同じととらえて問題ありません。
さて、開発担当者の視点でこれらを見直すと、気になる点が3つあります。
第1に、これらの定義が「べからず集」であるということです。これらを守れば「製品として備えるべきユーザビリティを、最低限確保することができる」ということであり、より高い付加価値を生み出すために作られたものではありません(13407に関しては、製品の競争力に影響を及ぼすレベルで運用しようとする向きもあります)。
第2に、具体的な実装方法について言及されたものではありませんので、すぐに開発現場で使えるようなものでもありません。顧客や上司に「理解性、習得性、操作性が確保されたUIを作ってくれ」といきなりいわれても、普通はもう少し具体的な依頼でないと動きにくいはずです。
第3に、開発するアプリケーションの対象ユーザーや、その周囲の環境によっても重きを置くべき点が大きく変わり得るということです。スペースシャトルの操作パネルと、携帯ゲーム機のメニューをまったく同じ方法論で作るのは、いささか無理があるというのは、想像に難くないでしょう。
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