多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
皆さんが転職を考える理由には、さまざまなものがあると思います。
100%ポジティブな転職理由というものは少ないかもしれません。だからといって、ネガティブな理由ばかりではいけません。ネガティブな理由だけで転職活動を行っていると、大きな落とし穴にはまってしまう可能性があります。
転職の相談をするために弊社にやってきた、ITエンジニアの渡辺さん(仮名)。開口一番、こんなことを聞くのです。「ITアーキテクトにコミュニケーション能力はいらないですよね?」
私はびっくりしてしまいましたが、ともかく渡辺さんの状況を詳しく聞いてみることにしました。
渡辺さんは27歳で、ソフトハウスに勤めていました。仕事は客先に常駐してのアプリケーション開発。かかわるプロジェクトは短期間のものが多く、開発・テストを繰り返す毎日です。
ITエンジニアとして年数を積むにつれ、渡辺さんの心の中には「大規模な開発をしてみたい」「上流工程にかかわってみたい」という思いが芽生え始めました。しかし、所属している会社では実現できそうにないため、転職を考えるようになりました。何社かに書類を提出し、面接に進みましたが、連戦連敗という状況だったのです。
大規模開発や上流工程を希望していることから分かるように、渡辺さんは将来に向けてのステップアップを望んでいました。しかし、1つ大きな問題がありました。技術力には自信があるものの、コミュニケーション能力に自信がなかったのです。
一般的に、ITエンジニアが経験を積んでメンバーからサブリーダー、リーダーの立場になると、社内のメンバーや協力会社のメンバーを管理するようになります。クライアントと接し、調整を行うことも増えます。プロジェクトマネージャともなれば、「人・モノ・金・情報」を管理し、チーム全体のモチベーションを上げながらプロジェクトを成功に導くという、高度なスキルが必要となってきます。そこで必要不可欠なのがコミュニケーション能力です。
自分がプロジェクトマネージャになるという選択肢を考えると、どうしても不安になってしまったという渡辺さん。「自分にプロジェクトマネージャは務まるのか?」「プロジェクトマネージャを目指す以外に、ステップアップの方法はないのか?」と考えていました。
そんなとき、ある雑誌で「技術を極められるITアーキテクト」という記述を目にした渡辺さんは、「ITアーキテクトを目指せば、コミュニケーション能力に自信がなくてもやっていけるのでは」と考え始めました。それが冒頭の「ITアーキテクトにコミュニケーション能力はいらないですよね?」という問いになったのです。
果たして、本当にITアーキテクトにコミュニケーション能力は不要なのでしょうか?
まったくそんなことはありませんよね。確かに「技術を追求できる」と表現されることもあるITアーキテクトですが、だからといってコミュニケーション能力が不要ということはありません。顧客の要望からシステム全体を設計し、それを開発担当者に伝えて作り上げていくITアーキテクトは、高い技術力はもちろん、高いコミュニケーション能力を必要とする職種といえます。
私はこのことを、ていねいに渡辺さんに説明しました。そしてこう話しました。
「大規模な開発や上流工程にかかわってみたいと考えていらっしゃるのですよね。そうなれば、かかわる人は増えます。人が増えれば、コミュニケーションはより一層重要なものになります。避けて通ることはできませんよ。
こうやって話している限り、渡辺さんのコミュニケーション能力にはまったく問題ないように思えます。ステップアップのために頑張ってみませんか」
渡辺さんは私の話を聞いて、「分かりました。希望の仕事ができるように頑張ってみます」といってくれました。
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