HPは2月11日、リモートクライアント・ソリューションに関連して、興味深い発表を行った。ブレードPC新製品「HP Blade PC bc2200」あるいは「HP Blade PC bc2800」に、シンクライアント端末とシトリックスの「XenDesktop 3」カスタマイズ版などをバンドルしたパッケージを提供するという。
HPが同日に行った香港でのリモートクライアント・ソリューション・イベントでは、バンドルパッケージの大まかな構成が明らかにされた。bc2800あるいはbc2200、シンクライアント端末の「HP t5630」、ブレードPCエンクロージャ、イメージ管理ツールの「HP Rapid Deployment Pack」、ハードウェア管理ツールの「System Insight Manager」と「Intergrated Administrator」、そしてXenDesktop 3。1パック当たり850米ドル程度からの価格でHPが販売するという。
シトリックスによると、バンドルするXenDesktop 3はHP専用エディション。「Advanced EditionとEnterprise Editionの中間くらい」(シトリックスの担当者)という。米国で発表されたばかりのXenDesktop 3におけるICA拡張プロトコル「HDX」、そしてコネクションブローカー(接続管理ソフト)のDDC(Desktop Delivery Controller)のライセンスは含まれるが、XenServerは含まれない。現時点ではこれ以上の詳細は明らかになっておらず、そのほかの機能がどこまで含まれるかは分からない。
ニュースリリースのタイトルは「HP Strengthens Client Virtualization Portfolio with Bundled Blade PC and Citrix XenDesktop Offering」(HP、Blade PCとCitrix XenDesktopのバンドルでクライアント仮想化ポートフォリオを拡充)となっている。
これは一見して少々分かりにくい。クライアント仮想化(デスクトップ仮想化、あるいは仮想PC型シンクライアント・ソリューション)は、ブレードPCとは直接関係のないものだからだ。クライアント仮想化では、一般的なサーバにサーバ仮想化ソフトウェアを適用し、複数のデスクトップOSを仮想マシンとして動かし、これをシンクライアント端末などから遠隔的に利用する。この環境にはブレードPCは絡まない(ただし、接続プロトコルや接続管理には、クライアント仮想化とブレードPCで共通の技術を利用できる)。
デスクトップ仮想化でHPとシトリックスがバンドル商品を企画するなら、XenDesktopとHPのサーバ機を組み合わせるのが自然だ。ブレードPCを組み合わせたバンドルは、どういう意味を持つのか。ブレードPC上で複数のデスクトップOSを仮想マシンとして動かし、これをシンクライアント端末から使わせるつもりなのか。
シトリックスの担当者は、それも可能だと話す。小規模な導入なら、例えば無償のハイパーバイザをBlade PCに導入し、その上で仮想マシンを動かせばいいという。
しかしHPにとってのこのバンドルの意味は、ブレードPCがHDX(ICA)を無償で話せるようになることのようだ。シトリックスのXenApp(旧製品名Citrix Presentation Server)を導入している顧客は多い。こうした顧客に追加的にブレードPCを採用してもらうには、ICA(HDX)環境に入り込むのが最短距離だという計算だ。
HPアジアパシフィック パーソナルシステムグループ リモートクライアント・ソリューションズ ビジネスユニットマネージャのアレン・ティファニー(Allen Tiffany)氏は、@ITの取材に対し、「仮想デスクトップとブレードPCをともに使いたい顧客は、シトリックスのソフトウェアスイートを使ってすべてを管理することができる。ブレードPCでは、無償でHDXもRGS(Remote Graphics Software:HPのシンクライアント接続技術)も使えることになる」と説明する。
バンドルされているXenDesktopを使ってクライアント仮想化を行うこともできる。その場合は別途サーバ機を購入し、XenServerやHyper-Vなどのハイパーバイザを動かして、その上でデスクトップOSを仮想マシンとして動かすのが正攻法だ。だが、こうした使い方をする際に、クライアント仮想化ソリューションとしてこのバンドルがどれくらいコスト効率に優れるのかは、バンドルされるXenDesktop 3の正確なライセンス条件が分からない以上、まったく不明だ。
HPとしては特にデスクトップ仮想化でシトリックスを優先ベンダとして扱うようなことはしていないと、ティファニー氏は話す。ヴイエムウェアは同社のコネクションブローカーで、HPの接続技術であるRGSをサポートするなど、VMware View(旧製品名VMware Virtual Desktop Infrastructure)との連携も進んでいるとの認識だ。
別記事でも触れたが、HPはリモートクライアント・ソリューションの接続プロトコルで複数の選択肢を用意している。その1つであるRGSは特に、同社が戦略的に重視している接続方法でもある。接続管理をつかさどるコネクションブローカーについても、HPはSAM(Session Allocation Manager)という製品を持つ。
ではHPは、HPとシトリックス双方の環境を自社で一括管理することで差別化を図るつもりはないのだろうか。サーバ仮想化では、サーバハードウェアベンダは複数のサーバ仮想化プラットフォームを、自社サーバの物理環境と統合管理できるようにすることで差別化を図る動きがある。クライアント仮想化でも、例えばHPのSAMで、現在このツールが対象としているRDPやRGSに加え、HDX(ICA)を扱えるようにすることもできるはずだ。
「それはできることはできる。HPがすべてをやることも究極的には可能だ。しかし当社のコアコンピテンスは何か、パートナーのコアコンピテンスは何かという問題がある。シトリックスは市場で確立されたベンダだ。顧客の選択肢を確保するために、HPは意識的にソフトウェアでICAへの最適化をしていない」(ティファニー氏)
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