この1カ月の間に、x86サーバ市場では重要な動きが相次いだ。インテルの新CPU「Xeon 5500番台」の発表、そしてこのCPUを採用した数々のサーバ新製品の発表。なかでも興味深いのは、ネットワーク製品ベンダであるシスコシステムズによるブレードサーバの発表だ。
シスコが長期的に目指しているのはサーバ、ストレージ、ネットワーク製品の緊密な連携による、より自律的で柔軟なデータセンターの構築だ。しかし短期的には、ネットワーク製品の対応が発表されていない。
従って、現在の段階でシスコのサーバ製品が提供できるユニークな価値は、FCoE(FibreChannel over Ethenet)をいち早く採用したことだ。FCoEによってIPネットワークとストレージネットワークを統合すれば、機器の数とケーブルの本数が減るため、投資コストと運用コストが減らせることをアピールしている。
しかし、シスコはサーバ事業の成功に向けて多数の課題を抱えている。
まず、FCoEは標準技術であり(ただし実際には必要な標準のすべてが固まったわけではない)、シスコ以外のサーバベンダもやろうと思えばできるということだ。シスコはこの技術の採用で先行しているというアドバンテージしかない。
また、シスコはネットワーク機器分野ではリーダー的存在だが、サーバについてはユーザー企業の信頼を獲得する努力をゼロから始めなければならない。サービスプロバイダはシスコに耳を傾けるだろうが、一般の企業は話が別だ。米シスコのサーバ・アクセス・バーチャライゼーション ビジネスユニット シニアディレクター スコット・ローズ氏も、一般企業からの信頼を得るには時間が掛かることを認めている。
もう1つある。シスコは、今回のサーバ発表につながるユニファイド・コンピューティング戦略で、「仮想化を共通な抽象化レイヤとして、サーバ、ストレージ、ネットワークを緊密に結び付けること」をテーマに掲げている。しかし、現在のところ同社はストレージを商品として持っていないし、特定の他社からのOEM供給を受けて提供するという発表もしていない。逆にストレージベンダ各社との幅広い連携を強調している。
たしかにサーバ仮想化は、まずサーバとストレージの緊密な連携を促進し、次にこれらと連動するネットワークレイヤでの高度な機能の開発を促進する。シスコがサーバで競合することになる主要システムベンダは、ほとんど全社がストレージ製品ベンダでもある。サーバとストレージの緊密な連携なら、自社製品で提供するのが圧倒的に有利だし、各社はすでに、サーバだけでなく、ストレージや周辺機器、仮想化コンサルティングなどを組み合わせたビジネスに力を入れている。
そこで問題となるのは、「シスコはオープンなエコシステムを推進することで、既存勢力であるシステムベンダに十分対抗できるのか」という点だ。「オープン」は聞こえこそいいが、複雑さが増幅する危険性もはらむ。シスコがユニファイド・コンピューティング戦略で目指す方向性との齟齬(そご)をきたす可能性もある。
シスコと友好的な関係にあり、仮想化ソフトウェアベンダであるヴイエムウェアの大株主でもあるEMCがもしシスコのサーバのOEM供給を受け、自社製品として提供し始めたとしたら、シスコよりもEMCのほうがサーバ市場における強力な存在として浮上してくるかもしれない。
このようにさまざまな課題を抱えるシスコのサーバ事業だが、日本支社は人的な体制づくりでさらに興味深い動きを見せている。
2008年にこれまでIPネットワークとはあまりかかわりのなかったマイクロソフト、HP、ロータス/SAP、サン・マイクロシステムズなどの経験者を次々に幹部として起用しており、人という点では以前のシスコから大きく様変わりしている。こうした人々がどうシスコを変えていくのか。まさに腕の見せ所だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.