プログラムの後半、「IT企業 新卒採用の裏側 オフライン版」では、IT企業の人事担当者が、求める人材や採用プロセスについて語った。カヤック GIVE&ギ部※の佐久間祐司氏、チームラボ 経営情報管理室の村上理映氏、楽天 開発部の浅見貴之氏の3名が、パネリストとして登壇した。
各企業は、2011年度の新卒採用では、学生を何人採用したいのだろうか。現時点では、採用人数を厳密に決めているわけではないようだ。「カヤックでは、『何をするかより誰とするか』を大事にしています。そのため、何人採用するかではなく、この人となら一緒に面白いことをできそうか、を見ています」と佐久間氏。チームラボでも、採用人数は毎年変動するという。楽天は、2010年度に400人ほど新卒を採用しており、そのうち技術職は100人程度。今年も同じぐらいの規模になるだろう、と浅見氏は述べた。
では、各企業はどのような学生を採用したいのだろうか。
カヤック 佐久間氏 「誰かが、こんなものをつくりたい、といったときに『お、それいいね』と一緒になって心から盛り上がれる人がいいですね」
チームラボ 村上氏 「オタクを採用したいですね。オタクは受動的であるというイメージがありますが、わたしたちはオタクを『自分の興味があるものに積極的にキャッチアップしにいく』人たちであると考えています。1つのことに一生懸命な人材が欲しい」
楽天 浅見氏 「楽天は、技術者が多い会社です。社員の3分の1、つまり1000人ぐらい技術者がいます。そのため、幅広い人材を求めています」
「新卒入社したエンジニアは、どのような活躍をしているのか」という質問については、「若いうちから活躍できる」「新人扱いはしない」という声が多かった。
カヤック 佐久間氏 「新卒入社2年目のプログラマが、コーポレートサイトをほとんど1人で作ってしまいました。3週間、社長と一緒に強化合宿を行いました。コーポレートサイトは、Web企業の“顔”です。企業の“顔”作りを若手に積極的に任せます」
チームラボ 村上氏 「入った瞬間からスペシャリストとして扱い、新卒の扱いはまったくしませんね。チャンスだらけなので、何でもできる環境です」
楽天 浅見氏 「入社2、3年目の社員が執行役員として活躍しています。『執行役員2.0』という制度がありますが、これはインターネットを小さいころからたしなんでいる若手の力で会社を変えていこうという制度です。今年、2007年度入社のエンジニア2人が執行役員として働いています」
採用フローについては、柔軟な対応を取っている企業が多かった。各企業の平均面接回数は3回程度。基本的な流れは1次面接は現場スタッフ、2次面接でリーダークラス、3次面接で役員面接というものだが、学生によっては面接回数を重ねる場合もあるという。
採用担当者は、学生のどこを見て「合格」「不合格」を決めているのだろうか。「技術職の採用で重視しているポイント」については、各企業の特色が出た。
カヤックは「もの作りが好きな人」「伸びしろがある人」の2点を重視しているという。「放っておいても、ものを作ってしまう人、作らずにはいられない人がいいですね。例えば、学校の課題を、指定された範囲を超えたこだわりをもって作ってしまいました、という人がいいですね」と佐久間氏。伸びしろがある人とは、どのように見極めるのだろうか。佐久間氏によれば、「人からのアドバイスをきちんと受け入れることのできる素直な人」と「自分なりのこだわりがある人」は将来的に伸びるという。
楽天では、持っている技術をそれなりに評価するが、それ以上に会社の姿勢に共感できるかどうかを見ているという。「一番重要なのは、目標に共感することです。わたしたちは『世界一のインターネット企業』を目指しています。この目標に対して、恥ずかしがらずに『世界一になりたいです! がんばります!』と本気で答えてくれる人を採用したいですね」と浅見氏。
一方、入った瞬間から働けるスペシャリストを求めるチームラボでは、「できる!」と思える人を採用するという。「『学校の授業外で作ったもの』を見せてもらっています。制作物が不完全なものでもかまいません。大事なのは、そこにどれだけ技術へのこだわりが見られるかどうかです」と村上氏は語った。
入社後の育成についても、各企業の特色が出た。
カヤック 佐久間氏 「入社される方の技術力に合わせるために、集合研修ではなく、1人1人担当社員がついて、実際のプロジェクトを通してコードレビューをしながらOJTで指導します。入社までの間も、その人の興味や適性、得意な言語などに合わせて、課題に取り組んでいってもらいます」
チームラボ 村上氏 「いわゆる『新入社員研修』というものはありません。入社直後からプロジェクトを任せてしまいます。その代わり、内定後に課題を出して、入社時までに仕上げてもらうようにしています。これには、短期間で高い技術力をつけてもらおうという狙いがあります」
楽天 浅見氏 「研修制度を用意しています。研修の最初には、コミュニケーション能力をつけるために、マナー研修や営業のような研修を行っています。技術研修は約2カ月半ほど。JavaとPHPをよく使っていますが、Rubyも歓迎します」
「エンジニアとしてのやりがいは何か、どのようなエンジニアに成長できるか」という質問については、各社が自由でユニークな開発環境を用意していると語った。
「カヤックでは企画から運用まで、技術者が全部かかわることができます」と佐久間氏。「技術なら、どんなものでも試すことができます。新しいことをやってみたいと手を挙げた人にはどんどんやってもらうため、手を挙げた人勝ちですね」。
チームラボでは、自分の好きなことのために2週間を使うことができる自由研究制度がある。「チームラボは、社員がオフィスの内装を作っています。ずっとさびしかったトイレを癒し空間にするため、トイレットペーパー部分にハムスターが動く画面を取り付ける研究をした技術者がいました。ハムスターが、トイレットペーパーの回転に合わせて走るんですね。あまりにハムスターがかわいいので、今度は皆が紙を使いすぎるようになってしまいましたが」と語り、会場の笑いを誘った。
楽天で働く醍醐味は、「責任感、影響力のあるサービスにかかわることができる」ことだ、と浅見氏は語った。「楽天市場が5分でも止まってしまったら、日本中のお店が困るわけです。責任感はものすごく鍛えられますね」。また、楽天には「楽天ジャングル」という制度がある。技術者が自由にサーバを使って、いろいろなプロダクトを作ることができる。ジャングルで作ったプロダクトの選手権なども開催され、技術者たちは自由にもの作りをしているという。
ディスカッション後、会場からは多くの質問が出た。時間が過ぎてからも、会場内には多くの学生が残り、採用担当者たちに積極的に質問をしていた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.