x86プロセッサの供給元には、IntelとAMDの他にVIAもある。IntelのAtomで少々苦しい立場のVIA。しかしGoogle TVが救世主となるかも。
「第119回 AMDとIntelのビジネスのベクトルを比べる」で、IntelとAMDの製品を取り上げた後、そういえばx86にはもう1社ソース(供給元)があるということが心をよぎり、少々とがめるものがあった。すると、それを見透かしたかのように、ESC 2010(Embedded System Conference 2010)という展示会に合わせて、そのもう1社であるVIA Technologiesも新しいプロセッサ製品を発表したのだった(VIA Technologiesのニュースリリース「VIA Unveils Nano E-Series at ESC 2010, Readies Embedded Industry for Next-Generation 64-bit Computing)。あまり話題にならなかったニュースリリースである。しかし、これは不公平にならないように取り上げておかなければならないだろう。
なお、似た名前のESEC(Embedded Systems Expo:組込みシステム開発技術展)という展示会が、5月中旬にあったがこちらは日本、ESCの方は米国カリフォルニア州サンノゼである。どちらも「似たような」業界筋の展示会だが、サンノゼのESCの方が「本場」にもかかわらず、「業界の内輪の展示会」という親しみやすい(田舎っぽい)雰囲気がある。
VIA Technologiesについては、ご存じない方も多いかもしれないのでコメントしておくと、組み込み向けのx86プロセッサを販売している台湾のファブレス半導体会社である。といっても1社でポツンと商売しているというより、台湾の多くの会社がそうであるように、いろいろな関係企業との間で商売をしているような印象がある。日本ではあまり表に出ないが、低価格の組み込み向けx86ボードなどではVIA Technologiesのプロセッサを搭載した台湾製のものを時々目にする。
古い話になるが、もともとVIA Technologies社はチップセット・メーカーでもあった。その後、米国のx86互換チップのベンチャーだったCyrixを買収してプロセッサ商売に入った。さらに米国のIDTの傘下でやはりx86互換チップを開発していたCentaur Technologyも買収している。今回、発表された製品はそのCentaur Technologyの設計によるものである。
実は大分前、IntelがAtomを出したときに、VIA Technologiesは「後ろを取られた感じで」やりにくかろう、といったことを書いた(「第104回 ネットブックの裏側に見えるIntelの戦略」参照)。「裏をとられた」と表現したのは、先行するIntelの性能向上に追随すべく、VIA Technologiesが必死に追いかけていたら、IntelがVIA Technologiesよりも性能が低い、その代わりローコスト、低消費電力でVIA Technologiesが主要なターゲットにしていた組み込み市場に向いた特性のAtomを出してきて「挟まれて」しまった、と感じたからだ。
それからすでに2年ばかり経ち、VIA Technologiesとしてはそれにどう対抗したのか、「その成果が見えてきたのかなぁ」と思い、久しぶりにVIA TechnologiesのWebサイトをのぞいてみた。正直いって、少々期待外れだった。多くのファブレス・チップセット・ベンダが淘汰されてく中で、しぶとく生き残ってきたVIA Technologiesの社長なら何か仕掛けをしてくるのではないだろうか、と期待を持ちすぎたためかもしれない。
VIA TechnologiesのNano Eシリーズというプロセッサは、確かに「お買い得風」なチップではある。Intel製だと、少しお金を張り込まないと手に入らない「64bit」とか「スーパースカラー」とかの「正統的なプロセッサ性能」を、(ニュースリリースに価格は書いてないけれども)多分、AtomやCeleronクラスの価格で手に入れることができると思われる。
しかしである。2年前と大きく構図は変わっていない。2年前でもVIA Technologiesのプロセッサは、Atomと比べれば「上」だった。しかし、当然ながらIntelは最上位までの分厚いラインアップを持っており、Atomラインも拡充が進んでいる。VIA Technologiesの方は2年前と比べて「当社比」で性能は向上しているけれども、あくまで限定された「クラス」の中での高性能である。組み込み用途なのだから、どかんとAtomと正面からぶつかるようなものを期待していたのだがそうではない。高性能というところでAtomとの直接対決を避けているようにも見えるのだ。
何で、直接対決を避けるのかといえば、消費電力だろう。確かに待機時の低消費電力をうたっているし、動作時の低消費電力化機構もアピールしているが、もともと「64bit」で「スーパースカラー」コアである。軽量化を徹底したAtom系と動作時の消費電力の絶対値を比べてしまうと、かなりつらいのではないかと想像する。また、細かい突っ込みを入れるのなら、待機時の低消費電力はIntelほど最先端の微細なプロセスを使えていないためではないか、とも思われる。
そのあたりの弱みを打ち消すべく、クラスの中での高性能を打ち出しているようにも思えるのだ。性能対消費電力といった「比」にしてしまえば、あまり遜色ないように打ち出せるからだ。リソースの限られる中で何とか対抗手段を考えているVIA Technologiesの苦境が透けて見えるような味付けである。
VIA Technologiesには、ここを何とか乗り切ってもらいたいものである。ちょうど、ソニーとGoogleの提携話(テレビ向けプラットフォーム「Google TV」のこと。詳細はNewsInsightの記事参照)も飛び込んできた。それに搭載されるプロセッサはIntel製だそうである。長年何度となく試みて跳ね返されてきたx86系の悲願である「家電への本格進出(と制覇)」がこれにより開けてきそうだ。ソニーはともかく、x86のボードにGoogleのAndroidを載せて家電を作る、という動きをフォローするであろう多数のアジア系のメーカーが「似たようなもの」を作ろうとするとき、VIA Technologiesの製品は悪いチョイスではあるまい。少々電気は食うけれど、安い値段で高性能といった味付けにできるからだ。頑張れVIA Technologies、負けるなよ!
■関連リンク
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。
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