この間、「システム導入の目的が共有されていない」「システムの要件が不明瞭である」「意志決定などの役割分担が決まっていない」と、教えていただきましたが……。
そのとおり、つまりもうかりやすいのは、「目的が共有され、要件が明快で、役割分担が決められているプロジェクト」なのです。
それってお客さま次第ですよね。
もちろん、そうです。でも、システム導入の対象分野について知識やノウハウを持っていれば、お客さまに先回りをして要件を出せますし、過去のプロジェクト資産を生かせます。すでに納品しているシステムのバージョンアップやリプレイス案件では、特にそうです。また、こうした知識やノウハウを、パッケージやサービスに落とし込んであれば、実際の画面を見せながら要件定義することで、要件漏れや思い違いなどを防げます。
つまり、業務知識や業界知識がある分野の案件、バージョンアップ・リプレイス案件、パッケージやサービスのカスタマイズ案件がもうかりやすいということですね。
でも、パッケージのカスタマイズだと、一般に受注金額が低くなりがちですけれど。
それ以上に、こちら側の工数や外注費が抑えられるので、利益が出やすいのです。そもそも、プロジェクトのコスト項目は下の図のようになっているのですが、最も割合が多いのが人件費なので、この部分を抑えられれば利益が出やすいのですよ。
でも、パッケージやサービスの開発には、そもそもコストが掛かっているのですよね。それに、開発はしたけど、売れなかったパッケージやサービスというのも当然ありますよね。
当然です。利用する顧客像が見えない段階でいきなりパッケージやサービスの開発を始めるのは非常にリスクが高いので、うちではあまりやっていません。うちの場合、お客さまから請けた案件のうち、汎用性が高いシステムについて、開発費をディスカウントする代わりにソースコードの権利をSI企業側が持てるように交渉します。その上で、ソースコードを拡張してパッケージやサービスとして作り上げ、同じようなニーズを抱える顧客企業に提案していくわけです。
なるほど、そのやり方なら、リスクをかなり抑えられますね。
でも、そうやってさまざまなサービスが開発・提供されるようになると、業務システムのうち、かなりの部分がカバーできるようになって、新規案件が減りませんか?
色主さん、鋭いですね! それでこそ、この講義を半年以上にわたって提供してきたかいがあります。確かに、パッケージではなくサービスとしてシステムを利用するようになると、システム乗り換えのハードルが下がるため、多くの顧客企業はリプレイスのタイミングで、「最もニーズに合致して、最も費用対効果の高いサービス」に乗り換えるようになると思います。
つまり、それって……。
まあ、SI企業の淘汰はある程度起こるでしょうね。もちろん、基幹システムはこれまでどおり、個々のニーズに応える形で開発が進められるでしょうが、一般的な業務システムニーズについては、かなりの部分がクラウドに吸収されると思います。
うちは、大丈夫なのでしょうか。
クラウドサービスが本格的に普及した後に、中堅・中小規模の会社が生き残っていくには幾つかアプローチがあると思います。うちの場合は、メジャーなクラウド基盤サービス上でニッチな業界・業務向けのサービス提供と大手が提供する業務サービスのカスタマイズ・運用管理のサービスをかなり早い段階から手掛けているので、大丈夫だと思いますよ。ただし、私たちもこれまで以上にマーケティング力が求められると思いますが。
どういう意味ですか?
自分たちでサービスを提供するにせよ、他社のサービスをカスタマイズ・運用管理するにせよ、「待ち」の姿勢だけではダメだということです。これまでは、顧客のニーズをヒアリングしてそれを要件に落とし込み、要件に基づいてシステムを開発するのがメインの仕事でしたが、これからは顧客のニーズを先取りして、それをサービスやサービスのサブセットとして提供しなくてはならないでしょう。しかも、そのニーズに対する市場が一定規模以上存在しないと、ビジネスとして成立しませんし、価格設定も非常に重要になります。特に外資系は、非常に戦略的な価格設定でサービス提供しています。
大変そうですね。
より良いサービスを開発した会社が生き残り、中途半端な企業は市場からの退場を余儀なくされるかもしれないという意味では、大変な時代です。しかし、そもそもITの世界は、常にこうした新旧の交代劇が起こっているし、だからこそ新たなチャンスも生まれると思いますよ。つまり、価格が下がることで、これまで情報システム投資に慎重だった中小企業にも市場が拡大する可能性も高いのですから。君たちにはぜひ、技術力やプロジェクト管理力と共に、マーケティング力と企画力を身に付けて、さまざまなサービスを手掛けてください。
分かりました!
イノウ
さまざまな業界や会社のことを、Webと書籍の連動で「分かりやすく」解説することを目指しています。さまざまな業界の企業を業態やキーワードごとに検索可能なWebサイト「業界地図 2012」を近日オープン予定。
『世界一わかりやすい IT(情報サービス)業界の「しくみ」と「ながれ」』 (amazonへのリンク)
イノウ 編著
行貝くん、江水くん、冠里さんをはじめとするキャラクターが解説するさまざまな業界の「入門書」。IT業界を「分かる」ために必要な「業界の知識」「会社の知識」「業務の知識」「基本の知識」を提供。
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