「AIDL」とはAndroidのプロセス間通信のためのインターフェイス定義言語で、Javaのinterfaceを定義する書式に似ている独自言語で記述します。
拡張子は「.aidl」で、慣習としてインターフェイスには「I」で始まる名前が付けられます。このファイルをEclipseのプロジェクト内に入れておけば、自動的に対応するJavaのソースコードが「gen」ディレクトリに生成されます。
以下が今回のサンプルで使用しているAIDLです。
package com.example.android.service; // 【1】 import com.example.android.service.ICalculatorCallback; // 【2】 import com.example.android.service.CalculatorExpression; interface ICalculatorService { // 【3】 oneway void registerCallback(ICalculatorCallback callback); // 【4】 oneway void unregisterCallback(ICalculatorCallback callback); int add(int lhs, int rhs); void sum(in List values); // 【5】 void rotate(inout int[] array, int num); int eval(in CalculatorExpression exp); }
package com.example.android.service; oneway interface ICalculatorCallback { // 【6】 void resultSum(int value); }
package com.example.android.service; parcelable CalculatorExpression; // 【7】
青い部分がAIDL固有のキーワードです。
【1】のように、Javaと同じパッケージ宣言が必要です。一方で、Javaとは異なり、【2】のように同一パッケージのAIDLも明示的にインポートしなければなりません。【3】のようにインターフェイス名を宣言します。この名前とファイル名は同一でなければなりません。
【4】の「oneway」というキーワードは、そのメソッドの終了を待つ必要がないことを意味しています。【5】のように、オブジェクトの引数には「in」「out」「inout」のいずれかのキーワードを指定します。プリミティブ型には、この指定は必要ありません。「in」が入力にのみ使用する、「out」は出力にのみ使用する、「inout」は入出力に使用することを意味します。適切に指定することで、プロセス間でのデータ転送量を抑えられます。
【6】のように、インターフェイスのすべてのメソッドにonewayを指定する代わりに、インターフェイスにonewayを指定することも可能です。
【7】の「parcelable」キーワードで指定したクラスが「Parcelable」であることを指定します。このクラス名とファイル名は同一でなければなりません。
AIDLを一般化すると、次のような形式になります。
package <PackageName>; [import <FQCN>;] [parcelable <FQCN>;] [oneway] interface <InterfaceName> { [oneway]<ReturnType> <MethodName> ([in|out|inout] <ArgType> <ArgName> ……); }
上記の「ReturnType」「ArgType」、戻り値と引数に使用可能な型には制限があります。後ほど一覧にして示します。
AIDLは、簡潔な定義でプロセス間通信が行え、かつコールバックまで実現可能です。コールバックを介して、サービスとクライアントで相互通信が実現できるわけです。
もし、AIDL以外でプロセス間通信を行おうとすると、TCP/IPを使用する(非公開クラスの「WindowManagerService」「ViewServer」のように)、UNIXドメインを使用する(「netd」「ndc」のように)、共有メモリを使用する(「Ashmem」「Zygote」のように)、といったローテクな方法に頼らざるを得ません。
AIDLは定義ファイルだけをクライアントに配布することで、Javaコンパイラで保証される安全で簡単なプロセス間通信が行えます。サービスとクライアントの相互通信については、次回詳しく解説します。
Androidの根幹をなすInetntによるメッセージングを支える技術として「Parcel」「Parcelable」というものが存在します。これは、普通にAndroidアプリを作成していても特に気が付かないかもしれませんが、とても多くの場所で使われています。
誤解を恐れずに簡潔に説明すると、ParcelableはJavaの「Serializable」で、ParcelはParcelable専用のストリームです。Parcelは、カーネルを経由してプロセス間で受け渡しされるデータを抽象化したクラスです。
Parcelというのは日本語では「小包」という意味で、Androidにおいては小さいデータを意味します(具体的にはデータが128bytes以内であれば、データコピーのオーバーヘッドが抑えられるように設計されています)。
Parcelには、データを書き込む「writeXxx」というメソッドと、書き込んだデータを読み出す「readXxx」というメソッドが存在します。
書き込まれたデータはJavaヒープの外にバイト配列として展開されます。データが追加されるたびに「realloc」で領域が確保されます。Javaヒープの外にデータを保持するのは、プロセス間通信でカーネルモジュールがダイレクトにアクセスできるようにするためです。
Parcelには、「marshall()」「unmarshall(byte[], int, int)」が用意されており、それぞれ、Parcelをbyte[]に変換するメソッドと、byte[]からParcelに変換するメソッドです。これらのメソッドはParcelableをバイト配列に変換したり、バイト配列からParcelableに戻したりできるため、プロセス間通信以外でも便利に使えます。
ただ残念ながら、Parcelableが入れ子になっていると、marshall()が行えない(例外が発生する)という制限が存在します。Parcelを使用すると、制限の範囲内でインスタンスをストレージに保存して永続化可能です。
ただしParcelは、あくまでもプロセス間通信などの一時的なデータの受け渡しに使うことを想定しており、将来的なデータフォーマットの互換を保証するものではないため、Javadocでは永続化やマシン間通信には使用しないように忠告しています。
Parcelに読み書き可能なデータ型は、AIDL同様に制限されています。以下の表は、ParcelとAIDLで扱えるデータ型の一覧です。
種別 | Parcelの型 | AIDLの型 | 補足 |
---|---|---|---|
プリミティブ | byte | byte | |
double | double | ||
float | float | ||
int | int | ||
long | long | ||
String | String | 文字列はプリミティブ扱い | |
プリミティブ配列 | boolean[] | boolean[] | |
byte[] | byte[] | ||
char[] | char[] | ||
double[] | double[] | ||
float[] | float[] | ||
int[] | int[] | ||
long[] | long[] | ||
String[] | String[] | ||
SparseBooleanArray | × | キーがint、値がbooleanのマップ型 | |
Parcelables | Parcelableを実装したクラスと、その配列すべて | Parcelableを実装したクラスと、その配列すべて | 読み出す際にクラスローダを指定する必要がある |
Bundles | Bundle | × | 読み出す際にクラスローダを指定する必要がある場合がある |
アクティブオブジェクト | IBinder、IBinder[] | IBinder、IBinder[] | |
IInterface、IInterface[] | × | ||
ParcelFileDescriptor | × | ファイルディスクリプタ | |
コンテナ | Object、Object[] | × | Serializableも扱える |
List | List | ||
Map | Map | ||
SparseArray | × | キーがint、値がオブジェクトのマップ型。読み出す際にクラスローダを指定する必要がある | |
ParcelやAIDLでは、charやshortなど、すべてのプリミティブ型ないしプリミティブ配列型をサポートしていないことに注意してください。
ParcelとAIDLでは、サポートする型に違いがあり、AIDLの方が若干少ないです。しかし、Parcelableを実装した独自コンテナではParcelを直接扱え、AIDLはParcelableが扱えるため、実質Parcelで扱える型のすべてがプロセス間通信で扱えるようになります。
次ページでは、Parcelableそして、いよいよbindService()のライフサイクルについて説明します。
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