「でも、職種で単価が決まってしまうということはありますよね?」
このような話をした時、ある若いエンジニアがこう質問しました。
私は、エンジニアは修業が必要な職種であり、若いうちは給料が横並びになるのは仕方がないでしょう。しかし、ある程度の修業期間が終われば、職種で単価が決まるというのは言い訳にすぎない、とも思っています。
というのは、先ほどのAさんも私も、職種は一緒だったからです。ならば、Aさんと私とでは何が違っていたのでしょうか。
Aさんは得意分野を明確にしていただけではなく、営業企画はすべて彼が取り仕切っていました。
「この会社には今こういう課題があるはずだから、その件について解決策があるといえばアポは取れるはず。アポが取れれば自分も同行するから、自分の都合のいい日にアポを取ってほしい」――万事がこのような感じでした。営業も仕事が受注できる確率が高いので一生懸命、Aさんの言うことを聞きます。
一方、私の得意分野も一応あったので、営業にはそれを伝えていました。しかし、営業から見た時の優先順位は決して高くなく、合いそうな仕事があれば相談に来る、という感じでした。
そのため、私が最高のパフォーマンスを出せる仕事ばかりが来るわけではありませんでした。結果として、私の報酬は相場的な単価になってしまったのです。
要するに、Aさんと私の「市場価値」の差は、営業にコミットしているレベルの差でした。
営業が売りやすいものは、顧客も理解しやすい。その上、行き先の会社が最も欲しがっているものを提供するのであれば、相手も高い報酬を払うのは当然です。
市場価値を高めるということは「顧客に売れる価値を作る」ことなのです。
ここまで読んでも、「やっぱり技術者としての能力を磨いたり、その証明としての資格取得がエンジニアとしての市場価値を高めることになる! 営業なんて自分に関係する話だとは思えない」という人もいることでしょう。
実は、私自身がそうでした。それなりに資格も取りましたが、ITコーディネータという資格を取った(現在は返上しています)あとで、この考え方は間違っているかもしれないと思うようになりました。
というのは、ITコーディネータの多くは、自分の市場価値を高めるためにこの資格を取ったのです。この資格のできた当初は、もうすぐ定年というエンジニアが大挙してこの資格を取ったことからも分かります。「第2の人生」でより高い報酬を得ようという人が群がりました。
しかし、ITコーディネータの資格を取って、それが仕事につながった人は、エンジニアあるいはコンサルタントとしての能力とは関係ありませんでした。能力が高いから仕事が取れるのではなく、自分で営業できるから仕事が取れたのです。人脈で仕事を取った人もいますが、それは「自分を売り込む」という意味での営業行為だったと言えるでしょう。
人脈で仕事を取るというのは、紹介してもらう、ということです。あるコンサルタントが別のコンサルタントを紹介するのは、かなりの信用があるときだけです。何かトラブルがあった場合、一番損するのは紹介者自身だからです。
営業とは、信用を勝ち取ることと、ある意味で同義です。紹介してもらえるのは営業力が高い人なのです。
ここまで言っても、いや違う、やっぱり能力と資格だという方には、もはや言うことはありません。
「完全に納得したわけではないが、営業マインドや営業センスをつけるということも大切な気がする」というエンジニアは、ぜひ引き続き、連載を読んでください。連載回数を追うにつれ、重要性に気が付いていただけると思います。
今回の話を図にまとめました(図1)。
右下の楕円の部分は、書いていなかった部分なので補足します。
提供側が「誰に・何を」を明確にし、それが顧客側のニーズと合致したときに、顧客は最大の単価を支払ってくれます。
重要なのは「マッチング」です。あなたがいくら「誰に・何を」を明確にしても、それが顧客側に届かなければ、結局は相場的な単価しか支払ってもらえません。
市場価値を最大にするためには、あなたに合った顧客を探し(集めることも含めます)、その話を聞き、あなたの価値をきちっと伝えなければなりません。
この一連の行為を「営業」と私は呼んでいます。これが、まさにこの連載のテーマであり、あなたがあなたの市場価値を最大化するためのヒントを提供するのが、著者のミッションだと思っています。
お付き合いいただければ幸いです。
ITブレークスルー代表
森川滋之
1963年生まれ。1987年、東洋情報システム(現TIS)に入社。同社に17年半勤務した後、システム営業を経験。2005年独立し、ユーザー企業側のITコンサルタントを歴任。現在はIT企業を中心にプロモーションのための文章を執筆するかたわら、自分の価値を高める「自分軸」の発見支援にも従事している。
著書は『SEのための価値ある「仕事の設計」学』、『奇跡の営業所』など。日経SYSTEMSなどIT系雑誌への寄稿多数。
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