スマホ技術者も知らないと損する「O2O」の基礎知識Androidで使えるO2O技術まとめ解説(1)(2/5 ページ)

» 2012年09月07日 00時00分 公開
[松井暢之, 吉村隆一郎,TIS 戦略技術センター/同社 クラウドテレフォニー推進室]

「集客」+「コンバージョン」とは

「集客」+「コンバージョン」とは、メディアから店舗やサービスにユーザーを集客し、その先の行動につながることを意味します。例えば、ユーザーが新聞の広告を見てスーパーへ行ってピーマンを買うことや、バナー広告からサービスのサイトへ人を誘導することが当てはまります(前者は購入、後者はサイトアクセスがコンバージョンとなります)。

 雑誌広告からは来店したユーザーをカウントできませんが、Web広告からサイトへアクセスしたユーザーをカウントするのは容易です。そこでスマートフォンを媒介にオフラインとオンラインをつなげることで、このオンラインの強みをオフラインにつなげられるようになるのです。

 例えば、ユーザーがスマートフォン経由で位置情報を送ると、近くの店舗のクーポンが送られてくるサービスを考えましょう。ユーザーはこのクーポンを店舗に見せて、さらにスマートフォンの「おサイフ」機能経由で支払って商品を購入したとします。

 店舗側は、このクーポンの情報と支払い情報を残すことで、どのユーザーがどのサービスに出したクーポンで来店して、いくら分の購入につながったのかを測定可能となります。こうすることで、店舗はクーポンを出した情報と来店が結びつき、購入に至ったかまでクーポンの効果を分析できるのです。

O2Oのパターンと事例の整理

 現時点では、上記の例ほど簡単にすべてを上手くつなげている企業は多くありません。個人情報の保護や設備投資など、さまざまな制約が存在するため、「実験的な試みとして」という企業が大半です。現在国内外で行われているO2Oの主要な事例を「集客」+「コンバージョン」の観点で整理してみたのが、表1です。

表1 現在国内外で行われているO2Oの主要な事例
種類1 種類2 コンバージョン サービス名 運営会社 説明
写真 情報発信 来店 StaffSnap アパレルウェブ アパレルショップのスタッフが写真で情報発信し来店誘導させる
ソーシャル クーポン 来店 ソーシャルメディアクーポン ローソン ソーシャルアカウントをフォローすると商品と無料引換のクーポン情報が発信される
位置情報 ポイント 来店 スマポ スポットライト お店にいってチェックインすることでポイントが貯まる
ポイント 来店 shopkick Shopkick 音を拾って店へのチェックインを自動で行う
位置情報 在庫情報 来店 Milo ebay(米国) Web上から近くの店の欲しい商品の在庫情報を検索できる
ソーシャル 情報発信 来店 My Local WALLMART ウォールマート(米国) 地元の店舗のFacebookページにい「イイね!」をすると、イベント情報や割引情報が送ってくれる
ソーシャル バーコード 購入 shopping+ インサイト・プラス 商品をチェックインし、共有できる
位置情報 在庫情報 来店 HereNowBest! イード Web上から近くの店の欲しい商品の在庫情報を検索できる
情報発信 在庫情報 購入 コレカモ.net チームラボ Twitterで商品名をつぶやくと、在庫情報を返してくれる
位置情報 クーポン 来店 レコチェック リクルート チェックインをしたり、近くのお店のクーポン情報を探せる
位置情報 - 来店 ロケタッチ ライブドア チェックインができる
位置情報 ゲーミフィケーション 来店 MyTown ゆめみ チェックインすると、ゲーム内の街が大きくなる
位置情報 - 購入 サミットネットスーパー サミット Web上で商品の購入だけではなく、近くの店舗での受け取りができる
NFC 位置情報 来店・購入 Yahoo! ロコ Yahoo! Japan、大日本印刷 横浜みなとみらいでのNFCを利用したキャンペーンを実施
NFC 位置情報 来店 Yahoo! ロコ Yahoo! Japan、東急電鉄、凸版印刷 東急東横線の渋谷駅と自由が丘でのNFCを利用したキャンペーンを実施
ポイント 位置情報 予約・決済 協業 Yahoo! Japan、PGM PGMでゴルフ場を予約したり、決済するとYahoo! ポイントが付く

 気を付けるべきは、「何をコンバージョンとしてとらえるか」でしょう。来店させるのが目的なのか、実際に商品を購入するまでを目的とするのか、それによって、取るべき手段が変わってきます。

 「O2Oで顧客とのエンゲージを強める」といったフレーズをよく聞きますが、オンラインとオフラインをつなげるメリットは、エンゲージをどういった項目で測定するのかを設定できることにあります。逆に言えば、コンバージョンのKPIから使用する技術やサービスを考える必要があるのです。

 そこで、「集客」+「コンバージョン」の観点から、具体的なサービスの事例を2つ紹介します。

ケース【1】音を使う「shopkick」と「INFOSOUND」

 O2Oにおいて、オンラインとオフラインのつなぎに何を使うのかは難しい課題です。今のところ、屋外・屋内の位置情報がよく用いられていますが、「現在位置を得る」ためには、本稿の後半で解説するようにさまざまな技術が存在します。

 それらの技術のうち、「超音波」を使った「集客」で有名なのが、「shopkick」です。店舗内で特殊な音(不可聴音)を発信し、ユーザーが専用のアプリ経由で音を拾うとポイントが取得できる仕組みです。音を媒介にした位置情報により、オンライン情報とオフライン情報をひも付けます。

 この技術によりユーザーの店舗への「来店」を促進でき、また店舗は来店者の実数を把握可能です。また、キャンペーンと絡めるなどにより、「集客」の実績も把握できるようになります。

 このビジネスモデルはO2Oの実例として有名で、実際の効果も得られているため、同様のサービスはshopkick以外にもいくつか存在していますし、「特殊な音(不可聴音)」というコア技術に独自の付加価値を付けたINFOSOUNDのような技術も登場しています。

コラム 音のID化、INFOSOUNDとは?

INFOSOUNDは、ヤマハが開発した「音にデジタルデータを埋め込んで情報を発信する」技術です。INFOSOUNDは特殊な音(不可聴音)にIDを付けて送信できるため、単純なポイント付与だけではなく、クーポン発行や情報発信などに活用できます。

また、音の複製を困難にする技術が導入されているため、「shopkick」で過去あったような、音を複製され不正にポイントが引き出されるような問題を防げます。

さらに、店舗の専用機器からだけではなく、テレビからも「特殊な音」を発信できるため、オフラインチャネルのテレビCMでクーポンID付きの音波を流し、店舗に来店すると店舗の位置情報を元にオンラインでアクティベートしてクーポンが利用可能になるといったように、さまざまな応用が考えられます。


 新しい技術とスマートフォンとアイデアが出会ったことで、魅力的なサービスがたくさん生まれてきたと言えるでしょう。

ケース【2】「顧客接点強化」の「Callクレヨン」

 今度は視点を変え、位置情報ではなく「電話をかける」というオフラインをオンラインと融合させるサービスとして、TISのサービス「Callクレヨン」を紹介します。図2は、楽天トラベルの導入事例です。

図2 Callクレヨン事例

 ユーザーがコールセンターへ電話した際に、ユーザーが見ていた情報(施設の情報や予約情報)を、コールセンターのオペレーターへ表示させる仕組みです。これにより、従来の「Webシステムと電話」だけではできないサポートをユーザーに提供し、オペレーターーの対応やナビゲーションの質を上げられます。

 また従来の「Webシステムと電話」だけでは把握できない、「電話をした」以降のユーザーの行動も把握し分析できるようになります。ユーザーが「Web上で見ていた情報」をオペレーターと共有することで、電話(オフライン)の弱点とWeb(オンライン)の弱点それぞれを補うことが可能となり、このサービスにおけるコンバージョン=「予約」や「問い合わせ」を向上できるのです。

 昨今、Webビジネスにおいても「おもてなし」といった言葉が使われますが、電話とWebを融合させて顧客満足度を上げてコンバージョンへつなぐことが、このO2Oサービスのコンセプトとなっています。

新しいビジネスモデルが産まれる可能性

 以上、オフラインとオンラインをつなぐ「糊」が異なる、2つのケースを見てきました。O2Oは、昨今はやりの「ポイント」や「ソーシャル」にとどまらない、間口の広いコンセプトです。また、これまでにない、新しいビジネスモデルが産まれる可能性を大いに秘めています。そのためには、ビジネスと技術要素の両方を知る必要があります。

 次ページでは、O2Oビジネスを考えるうえで重要な要素であるプライバシーと、O2Oを支える技術要素を具体的に見ていきます。

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