スマホ技術者も知らないと損する「O2O」の基礎知識Androidで使えるO2O技術まとめ解説(1)(3/5 ページ)

» 2012年09月07日 00時00分 公開
[松井暢之, 吉村隆一郎,TIS 戦略技術センター/同社 クラウドテレフォニー推進室]

O2Oと「パーソナル情報」

 これまで見てきましたように、O2Oというキーワードの下にさまざまなサービスが運用されはじめ、今までにはなかった新しい価値が提供されています。

 しかし一方では、今までにはなかった新しい問題を引き起こすことにもなりかねません。この章では、O2Oビジネスとパーソナル情報について考えます。

パーソナル情報の商業的価値

 例えば「集客」+「コンバージョン」ビジネスの例として、以下のようなパターンを考えてみます。

  1. 利用者はスマートフォンを用い、「自分が今いる場所」をサービス提供者に送る
  2. サービス提供者は、今居る場所に近い提携店舗を利用者へリコメンドする
  3. 利用者はリコメンドされた店舗に赴き、ポイントゲット!

 利用者はポイントをゲットできて幸せ。店舗は来店者数が増えて幸せ。サービス提供者はサービス利用料が得られて幸せ。何だか、とってもWin-Win-Winな関係なのですが、さて利用者の視点に立った場合、いったい何を対価にポイントを受け取ったのでしょうか?

 この場合、「自分の現在位置情報」をサービス提供者に支払い、ポイントを得たと考えられます。「自分の現在位置」という、これまで価値があるとは考えられてこなかった情報が、高速なネットワーク網とスマートフォンの普及に伴い、大勢の人から簡単に収集できるようになったため、商業的な価値を持ち得るようになったのです。

 しかしサービスの利用者は、自分が支払ったモノの価値を本当に理解していたのでしょうか……?

 この例のような位置情報だけではなく、購買履歴や閲覧履歴、果ては体温や脈拍といったライブな身体情報まで、技術革新に伴い収集できそうな情報がどんどん増えています。

 経済産業省に設置された「パーソナル情報研究会」は、その報告書(PDF)の中で「単独で個人情報※に該当するか否かにかかわらず個人と連結可能な情報」を「パーソナル情報」と定義しました。

※「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述などにより特定の個人を識別できるもの(他の情報と容易に照合でき、それにより特定の個人を識別できることとなるものを含む)

 このパーソナル情報からは莫大な市場価値が生まれると言われており、実際2011年の世界経済会議(ダボス会議)では「パーソナル情報は新たな資産価値である」とうたわれ、マッキンゼーは「グローバルな位置情報サービスの提供により6000億ドルの新規市場創出が期待できる」とレポートしています。

 このようにパーソナル情報を上手く用いれば、今までにない価値を提供する素晴らしいO2Oサービスを展開し新たな市場を開拓できるでしょう。ただし扱い方をひとつ間違えると、個人のプライバシーが暴かれ、利用者にとってもサービス提供者にとっても不幸な結果を招きかねません。

パーソナル情報を取り扱うためのガイドライン

 ではパーソナル情報を上手く用いるために、注意すべきポイントは何なのでしょうか。

 例えば米国は、2012年2月に「消費者プライバシー権利章典」の草案を公開しました。その草案では、「INDIVIDUAL CONTROL」「TRANSPARENCY 」……といった7つの「消費者の権利」がうたわれています。これは「ネットワーク上の自分のプライバシーデータを自分でコントロールできる権利」と言っても良いのですが、そのコントロールのために「消費者によるオプトアウトができること」が必須とされています。

 明示的に「ダメ」と言える手段は提供しなければならないが、言われなければパーソナル情報をビジネスで使って良い、ということですね。少しビジネス寄りの規定をトップダウンで決めてきたようにとらえられます。

 一方EUでも、2012年1月に新しい「EUデータ保護規則」の原案を公表しました。この規則ではCookieやIPアドレスなどの「オンライン上の識別子」も個人情報であると定義し、アメリカの「消費者プライバシー権利章典」とは対照的に「消費者を追跡するためにはオプトインが必須」とされています。

 明示的に「使って良い」と言われない限り、パーソナル情報をビジネスで使ってはならない、ということですね。これ以外にも、自分のプライバシー情報をネットワーク上から削除することを要求できる「忘れられる権利」など、消費者保護に主眼を置いた規則となっています。

 このように米国・EUはそれぞれ異なった立場を取り始めているようですが、翻って国内の動向はどうでしょうか。

 残念ながら、トップダウンで包括的な法規制は提示されておらず、消費者・業界で醸成されたボトムアップ的なコンセンサスもまだ得られていないのが現状です。法整備やコンセンサスが得られないまま、技術とビジネスが先走ってさまざまなトラブルを起こしたり、逆に萎縮してしまって、この大きなビジネスチャンスを逃す…… というのは良くない傾向でしょう。

 幸い日本でも、官・民それぞれからパーソナル情報を利用するためのガイドラインが発表され始めています。経済産業省の「パーソナル情報の利用ガイドライン(案)(PDF)」、総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会 第二次提言(PDF)」の配慮原則、NTT docomoが自主的に定めたモバイル空間統計ガイドラインなどです。

 このようなガイドラインを参考に、自らのサービスにおけるパーソナル情報とは何か、その扱いにはどのような配慮が必要か、そして「プライバシー情報の提供によって得られるメリットとデメリット、およびその制御の仕方」を利用者に示すことが、今後のO2Oビジネスにおいて重要になってくるでしょう。

O2OクライアントとしてAndroidを使う際の技術

 これまで見てきましたように、パーソナル情報を適切に扱えれば、O2O周辺には大きなビジネスチャンスがあり、実際のサービスも始まりつつあります。このチャンスを逃す手はありません。

 そのためには、以下のようにシステムを構成する各レイヤで新しい技術に取り組まなければなりません。

  • さまざまなセンサデバイスの活用
  • クライアント・サーバ間のリアルタイム双方向通信
  • 高速な通信回線網
  • C10K問題に対応できる分散耐性の高いアーキテクチャ
  • ビッグデータを扱える分散ストレージ
  • システム全体を貫くセキュリティポリシーの策定と実装

 おのおのの技術を全て解説するわけにはいかないので、本連載では「O2OクライアントとしてのAndroid」を中心にした、次ページ以降で紹介する以下の【1】〜【3】の技術を解説していきます。

  1. GPSの限界を超える「屋内・屋外測位」技術
  2. ユーザーを前向きな気持ちにさせる「近接通信」技術
  3. ユーザーに情報を送り届ける「Push Notification」

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