マイクロソフトが若年層のための教育支援施策「YouthSpark」を日本で始動。高校生による模擬授業「21世紀の教室」を公開した。
日本マイクロソフトは11月13日、「マイクロソフト 21世紀の教室(以下、21世紀の教室)」の模擬授業を公開した。「21世紀の教室」とは、マイクロソフトが考える21世紀における学校教育の姿である。この取り組みは、マイクロソフトが全世界で進める若年層のための進学・就労・起業支援施策「YouthSpark(ユーススパーク)」の一部であり、パートナー企業と連携し、2年間で1000の教育委員会へ紹介する計画だという。
海外の教育におけるICT活用事例を見てみると、イギリスでは所得格差による教育格差を防ぐため、政府が低所得者層にパソコンやデータカードの無償配布を行っている。シンガポールのFuture Schoolでは、1人1台のPC環境が整備されているとのこと。ポルトガルや韓国でもICT活用への取り組みが普及しており、米国フィラデルフィアの低所得者層地域の学校では、1人1台PC環境を導入した結果、進学率が100%になったという実績もある。
そんな中、日本政府は「2020年までに、21世紀にふさわしい学校教育を実現する」としている。YouthSparkの発表記者会見に駆け付けた参議院議員元文部科学副大臣 鈴木寛氏は、「これからは、1人1人にパーソナライズされた教育が必要。従来型の一方向、一斉、画一的な教育から卒業し、それぞれ異なる才能を持った人々がいかにチームビルディングをしていくかが重要である。そして、このような新しいパラダイムを取り入れるためには、教師を支援する環境も必要。日本の若者を、いかにアクティブにしていくかが、重要なポイントである。そのために、社会が総掛かりでやっていかなければならない」と語った。
今回、若者の教育支援施策「YouthSpark」を日本で実施するにあたり、日本マイクロソフト代表執行役社長 樋口泰行氏は「これまでのビジョンは、“すべての家庭と机にコンピュータを”というものだった。これからは、“すべての人々の持つ可能性を最大限に引き出すための支援を”を掲げていく。つまり、物質的整備の視点から、非物質的なことへ視点を移す」と述べた。続けて、「私たちは、将来の人材を育てていくことに貢献したい。例えば、テクノロジを使うことで、いつでもどこでも、タイムリーにアドバイスができるようになる。また、瞬時に結果を分析し、どのような学習が足りていないのかをすぐに判断できるようにする。勉強は、画面を見ているだけではダメで、自分で実際にペンで入力したり、音声を入力したりすることが大事だと考えている」と話した。
その1つの方法が、タブレットPCを活用した学習支援策「21世紀の教室」である。「21世紀の教室」の技術的背景には、先日発売されたタッチパネルに対応したWindows 8やクラウドプラットフォーム「Office 365」、教師への情報提供やオンラインコミュニティを支援する「Partners in Learning Network」などの環境が利用されている。
模擬授業では、群馬県立前橋高等学校の生徒たちが授業を行っていた。今回の科目は理科。「太陽と金星の関係」を学ぶために、生徒たちはPCで絵を描いたり、太陽に見立てた電球とその周りを回る金星をPCで録画したりした。この模擬授業を受けて、「今までの授業に比べて、分かりやすかった/楽しかった」と答える学生が9割。友だちが困っていると隣の生徒が積極的に教える姿が印象的だった。
授業が終わり、「今日の授業で『いつもより良かったな、楽しかったな』と思うことと、『いつもの方がいいな、不安だな』と思うところは?」と尋ねると、「皆が書いたノートを前の大きな画面で一斉に見られるのがいい」という感想がある一方で、「いつもは手を上げていないときは当てられないし、ノートを人に見られることもない。でも、今日のような授業では、手を上げていなくても勝手に自分のノートを他人に見られてしまうのがちょっと嫌だ」という意見もあった。
他には、「PCだといろんな色がたくさん使えていい」「教材の絵が見やすい」「実際に行けない宇宙などでも、手元のPCで宇宙旅行の気分が味わえて楽しかった!」といった肯定的な意見もあれば、「頭には入りやすいが、書きづらい」「慣れない人も多いのでは?」「電子機器に頼ってしまうことで、今までしてきたものがおろそかになってしまうのが不安」などという声も上がっていた。
なるほどと思ったのは、「電池が持つか心配」という意見。確かに、1人1台分のコンセントが各教室に付いている学校は、まだ少ないのかもしれない。まずは、そういったインフラから整えていく必要があるだろう。
生徒たちによる「21世紀の教室」の生の声が、日本の未来の教育にどのような変革をもたらすのか。注目していきたい。
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