「スマートフォンテストラボみやぎ」訪問レポートどうする!? スマートフォンの動作検証(2/2 ページ)

» 2012年12月19日 18時00分 公開
[小川誉久,デジタルアドバンテージ]
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 「スマートフォンテストラボみやぎ」(以下、「SmartPhone Test laboみやぎ」を略して「SPTみやぎ」と表記)は、宮城県が地域の産業振興、モノづくり振興を目的として運営している宮城県産業技術総合センター内に開設されたテストラボだ。場所は、仙台駅から地下鉄とタクシーを乗り継いで45分ほど、仙台のベッドタウンとして開発された泉区にある。

宮城県産業技術総合センターのホームページ 宮城県産業技術総合センターのホームページ
この宮城県産業技術総合センターには、70人の研究者がおり、さまざまな計測機器や実験設備などを備え、地元企業のモノづくりを後方支援している。一企業では準備できない機器や設備を手数料程度の料金で提供したり、共同研究を行ったりしている。SPTみやぎはこの中に開設されている。

 SPTみやぎが開設されたきっかけは、2011年3月の東日本大震災だったという。震災後、仙台・宮城のIT企業や個人クリエイターやデザイナーらが結束し、Androidアプリ開発を軸に産業復興を進めようとした。この活動を進める中で、高品質なアプリケーションを開発するには、Androidアプリの評価検証施設が必要だということになったものの、開発者が気軽に利用できる手軽なものがなかった。そのための基盤になることを目的に、SPTみやぎが開設された。

 SPTみやぎでは、原稿執筆時点(2012年11月現在)で国内外のスマートフォン、タブレット端末 78機種、83台をテスト用として提供している。詳細は上記SPTみやぎのホームページを参照されたい。

県外の開発者でも利用可能

 利用手順や料金、用意されている機種については、前述のSPTみやぎのホームページに詳細があるので参照されたい。SPTみやぎ/宮城県産業技術総合センターの運営主体は宮城県であり、県内の産業振興が主眼ではあるが、県外の開発者であっても申し込んで利用できる。

 利用手順は簡単で、まず利用したい希望日と使いたい機種をSPTみやぎに連絡し、施設と機種の空き状況を確認する。予約ができたら、当日現地に行き、機材を借りてテストを実施する。基本的には、開発環境一式をノートPCなどに入れて持ち込み、実機にアプリをインストールして動作テストをしながら、鋭意デバッグすることになるだろう。

 利用料金は、1日の利用で、機種数に応じて3700円(10機種)から1万4800円(51機種以上)程度となっている。当社で調べたところでは、ほかのレンタルサービスでは、1機種1日のレンタルでも1万円前後と高額であった。これを考えれば、たとえ往復の新幹線料金を勘定に入れても(東京−仙台 片道1万円程度)、SPTみやぎの使用料は安価で、中小企業や個人であっても利用できるレベルである。

ということで、テストしに行ってきました仙台へ!

 さっそくSPTみやぎに連絡して予約をとり、東京から仙台に向かった。今回の目的は、当社アプリ「ロケスマ」の動作テスト。すでに公開しているアプリではあるが、普段テストしている端末以外でもきちんと動くのか、チェックするのが目的である。ノートPCに開発環境を入れ、現地でデバッグできるようにして出かけた。

 宮城県産業技術総合センターがある仙台市泉区は、新興住宅街と企業や研究施設などがブロックごとに立ち並ぶ緑豊かなところだ。建物の入口に到着したので、受付にお願いしてSPTみやぎの担当者を呼び出してもらい、テストラボまで案内してもらった。宮城県産業技術総合センターは大学の研究棟のようなところで、その一角にSPTみやぎの部屋がある。部屋に入ってみると、テスト用のスマートフォンがずらりと並べられた棚と、テストを行うためのデスクがあった。想像ではもっと広い場所かと思っていたが、案外とコンパクトなところだった(まあ、スマートフォンのテストに広い場所はいらないので問題なし)。

テスト用スマートフォンの棚 テスト用スマートフォンの棚
テスト用のスマートフォンは、この棚にきれいに並べられている。ここから、予約した機材を借りてテストする。
国内モデルのAndroid端末 国内モデルのAndroid端末
色も形もさまざま。
海外モデルのAndroid端末 海外モデルのAndroid端末
つまり、海外向けに開発したソフトウェアの実機テストもできる。

 まず最初は、必要書類に記入をし、申請した端末を棚から出してもらう。端末機種数によって料金が変わるので、テストを希望する機種をあらかじめよく調べておくこと。とはいえ、ほかのテスターとバッティングがなければ、現地でテスト用機材の追加などは可能なようだ。

まずは必要書類に記入して提出 まずは必要書類に記入して提出
テストしたい端末などを記載して担当者に渡す。          
貸し出し用端末の準備 貸し出し用端末の準備
貸し出し機を棚から取り出してもらう。          
ということで準備完了 ということで準備完了
こちらはテストに使えるデスク。デスクには、備え付けのノートPCも用意されている。

 後は借りた実機にアプリケーションをインストールして粛々とテストを行う。多くの機種はWi-Fiだけでなく3Gなどの公衆回線も利用できるので、実利用環境に近い状態でテストができる。

テスト風景 テスト風景
Androidは機種ごとにコネクタ位置や電源スイッチの位置が違うので、ケーブルを接続したり、電源をオンにして開発環境からアプリをインストールしたりするだけでも意外な苦労がある。

 SPTみやぎの利用時間は午後5時15分まで。テスト中にイレギュラーが発生したりすると、想像以上に時間がかかったりするので、時間には余裕を見ておくほうがよい。特に、利用したスマートフォン端末にインストールしたアプリをアンインストールし、変更した設定を戻してから返却を行う必要があるので、その時間も見込んでおくこと。行く前にじっくりテスト計画(どの機種で何をテストするか)を練っておくことが効率的なテストには肝要である。

 結果からいうと、今回のロケスマのテストでは、致命的な問題は発見されなかったが、表示上のマイナーなトラブルはいくつか見つかった。やはり、これだけ豊富な機種について、集中的にテストできる環境は有用である。

スマートフォンの実機テストでお困りなら、ぜひ利用を!

 くり返しになるが、国内外の主要スマートフォン/タブレットを数十機種もテストできて、1日最大1万5000円程度というのは破格である。特にメーカーや機種の多いAndroid向けアプリケーションの実機テストが不十分と考えているなら、迷わず予約して利用することをお勧めしたい。東京からなら、余裕で日帰り利用が可能である。




スマートフォンテストラボみやぎ 担当者インタビュー
「震災復興支援として、アプリ開発の基盤を提供したい」

宮城県産業技術総合センター 企画・事業推進部 総括研究員 岩間 力 氏(写真左) 宮城県産業技術総合センター 企画・事業推進部 総括研究員 岩間 力 氏(写真左)
同 商品開発支援班 班長 研究員 伊藤利憲 氏(写真右)

(以下 敬称略)

―― 宮城県産業技術総合センター設立の目的は?
岩間:宮城県産業技術総合センターは、宮城県の中小企業の技術力の底上げを目的として設立されました。現在は約70名の研究者が在籍しており、情報通信から製造技術、デザイン、食品開発に至るまで、企業との共同技術開発や、分析支援などを行っています。中小企業では揃えにくい高価な分析装置や立体造形機などもあり、共同研究とまではいかなくても、設備を利用するだけという企業もたくさんあります。

―― スマートフォンの検証施設を設立したわけは?
伊藤:東日本大震災で宮城県の地元企業は大きな影響を受けました。震災復興に向けてどのような支援ができるのかを考えているときに、技術やデザインに強いベンチャー企業として有名なカヤックさんが復興を目的として仙台支社を設立したこともあり、それが仙台や宮城の企業さんがAndroidアプリ開発を積極的に行うきっかけになりました。そうした中、この地域の中にスマートフォンの検証施設が必要だと分かりました。周知のとおり、スマートフォンが世界で急速に普及する中で、宮城県から、日本から、世界に向けてアプリケーション・ビジネスを興せるような企業を支援したいと考えました。

―― スマートフォンのアプリ開発は活発化しましたか?
伊藤:はい。カヤックさんにもご支援いただき、Fandroid EAST JAPANというAndroidアプリ開発者のコミュニティが地域の企業やデザイナー主体で立ち上がり、勉強会やアプリコンテストなどを実施しています。コミュニティは非常に活発で、これまでも独創的なアイデアや、アプリケーションが次々と生まれています。こうしたアプリ開発において、品質向上のためにSPTみやぎが役立っています。

―― 今後の活動の目標は?
伊藤:仙台がスマートフォン・アプリ開発の一大拠点になってくれたらうれしいですね。SPTみやぎなどによって、世界に羽ばたく開発者を応援する基盤を提供するとともに、コミュニティもますます拡大させたいです。そして宮城県の地場企業とのコラボレーションを実現して、自動車関連産業や観光・食産業、デザイン産業などの地場企業を活性化できれば何よりです。当センターには、IT関係だけでなく、ものづくりやデザインなどの支援機材も充実しています。新幹線を使えば、仙台は東京からでも遠くありません。仙台の地場企業とコラボするといいことがある、そんな風に思ってもらえる環境を作って、復興支援につなげていきたいですね。



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