山中さん(仮名・30歳)は、Javaを中心とした開発経験を持つITエンジニアです。私の所属する人材紹介会社に相談にいらしたときは、すでに転職活動を開始して半年ほどが経過していました。
相談内容は、一定の期間転職活動をしているにもかかわらず、1つも内定が獲得できないというものでした。
まずは、山中さんの経歴をお聞きしました。新卒で医療系パッケージの会社に入社し、導入SEを経験。開発経験を積むことを希望してSI企業に転職するも、前職での経験を買われ、大規模サーバ環境での負荷テスト業務に従事。再度転職活動を行い、システム開発を経験するという約束で、比較的小規模のSI企業に転職。当時はJavaをベースにした開発プロジェクトを中心に活躍し、プロジェクトリーダーとしての経験もありました。
一見、転職に成功したようにも思えますが、山中さんには課題がありました。彼の売りはJavaを主軸とした開発経験なのですが、業務系と組み込み系の開発プロジェクトに交互に関わっているため、一貫した経験を積むことができていないと感じていたのです。
また、山中さんは今後の希望として、上流工程の経験を積んでITコンサルタントを目指したいと考えていました。ですがプロジェクトでは毎回、実装のチームリーダーに任命され、上流工程に携わることができていませんでした。
「このままでは希望はかなわず、ずっとJavaの開発者で終わってしまうのではないか?」と不安を感じた彼は、転職という方法を選んだのです。キャリアに一貫性を持たせ、その上で上流工程の経験を積むことにより、将来ITコンサルタントを目指せるような環境に身を置きたいと考えました。そのためには中堅以上の規模のSIerへの転職が必要だと判断したのです。
弊社に相談に来るまでの半年間の転職活動では、応募しても面接まで進める企業が少なく、面接を受けても不採用が続くような状況だったそうです。弊社に相談に来た直接の動機は、このまま転職活動を継続するかどうかの判断をするためだったといいます。
私は彼に、今後も方針を変えずに活動を継続することを勧めました。
というのも、山中さんが転職活動を開始した2011年は、比較的堅調だったソーシャルサービス系以外の求人は少なく、彼が希望する中堅クラスのSIerで活発に採用を行っている企業は限られていました。ですが、ちょうど相談のあった2012年の前半ごろから、IT企業の求人に復活の兆しが見え、積極採用を再開する企業も出てきていたのです。
転職活動の継続を決めた山中さんとともに、応募企業の選定を行いました。まずは中堅クラスのSIerを中心に十数社の企業をピックアップし、その中から本人の得意分野と指向が合致する企業を3社選び、推薦を開始しました。
3社全てから面接の連絡をもらった山中さんは、いくつかの選考をパスし、無事に1社から内定を得ることができました。ITコンサルティング会社系の中堅SIerで、彼のJavaでの開発経験を見込んで採用したいというのです。
この会社では将来の活躍の場としてプロジェクトマネージャやITコンサルタント、ITアーキテクトなど幅広いキャリアパスがあります。上流工程の経験を積んでITコンサルタントを目指せる、彼の希望通りの環境といえます。
正式な内定通知を手にした山中さんは、入社を決意しました。
今回は、中堅SIerへの転職を果たしたITエンジニア2人の成功例を紹介しました。
2人の成功要因の中には、共通している点があると思います。1つは、目指すべき方向が明確だった点です。2人とも自分の強みを把握し、どのような方向で生かしたいかをはっきりと決めていました。
もう1つは、不採用が続いても諦めず、目的達成のために転職活動を継続した点です。その背景には、日ごろから情報収集を行うことで転職市場の動向を把握し、転職に適した時期になり始めたのにいち早く気付いた点も大きく影響していると思います。そうでなければ今ごろは、転職活動を断念して前職にとどまり、悶々とした日々を送っていたかもしれません。
転職をする上で、市場動向を把握することは非常に重要です。しかし、このような情報を1人で収集するのはなかなか難しいものです。転職を考えるなら、市場に詳しいお知り合いやキャリアコンサルタントに相談されることをお勧めします。
アデコ 藤田孝弘
人事系コンサルティング会社にて人事採用と教育・人事制度関連のコンサルティングに従事。その後、IT専門の人材サーチ会社にてITコンサルタントやSEを中心とした人材のキャリアコンサルタントを経験、現職に至る。これまで、IT業界を中心に4000名以上の転職支援を行った実績あり。
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