「クラウドDevOps」サービスを国内で正式発表、日本IBMサービス事業者が重要なターゲット

日本IBMは2月26日、アプリケーションの開発から検証、デプロイメント、運用までのプロセスを同社クラウドサービス上で完結できるサービス、「IBM SmarterCloud Application Services(SCAS)」を国内で正式発表した。2012年12月に提供開始していたという。

» 2013年02月26日 18時26分 公開
[三木 泉,@IT]

 日本IBMは2月26日、アプリケーションの開発から検証、デプロイメント、運用までのプロセスを同社クラウドサービス上で完結できるサービス、「IBM SmarterCloud Application Services(SCAS)」を国内で正式発表した。同社はこれを「PaaS」と表現しているが、開発・運用担当者支援のSaaSともいえるし、広義のMaaS(Management as a Service)と表現することもできる。

リーンスタートアップを支えるITツール

 SCASの第1弾は「Collaborative Lifecycle Management(CLMS)」と「SmarterCloud Application Workload Services(SCAWS)」(筆者は2月20日に発行した「IT INSIDERブリーフィング」で、これらを国内未発表のサービスとして取り上げた)。この2つは、IBMのクラウドサービス「SmarterCloud Enterprise(SCE)」上で、2012年12月に世界的に提供開始された。12月末の時点で幕張データセンターでも提供開始されていたが、機能追加が続いていたなどのタイミングの点から、国内発表が同日になったという。

 CLMSとSCAWSは、例えばオンラインサービス事業者が、企画から開発、検証までをできるだけ短期化したい、初期リリースをできるだけ早く行い、デプロイ後も継続的にフィードバックループを回して順次機能を追加・変更していきたいといった、「リーンスタートアップ」的なユースケースには特に貢献できると、日本IBM スマーター・クラウド事業部 ソリューション 理事 クラウドマイスターの紫関昭光氏は説明した。CLMSがアジャイル開発を促進し、SCAWSがDevOps(開発運用連携)を実現するからという。IBMではこのサービスの利用者として、オンラインサービス事業者のほかに、独立系ソフトウェアプロバイダなどを想定している。

日本IBM スマーター・クラウド事業部 ソリューション 理事 クラウドマイスターの紫関昭光氏

 CLMSはIBM Rationalのチーム開発支援製品(「Rational Requirements Composer」「Rational Team Concert」「Rational Quality Manager」)を一体的に、SCE上で提供するサービス。役割別の利用ユーザー数に応じて課金される(最低で約8万円/月)。これらの製品は、ソフトウェアとして販売されているものと同一だ。しかし、例えば本番と同様な検証環境を即座に、使った分だけの料金支払いで用意できるなど、クラウドサービス上でこうしたサービスを使うメリットは大きい。

 一方、SCAWSは「IBM Workload Deployer(IWD)」(旧「WebSphere CloudBurst」)のソフトウェア部分をSCE上で提供するサービスだ。あるアプリケーションを構成する複数のコンポーネント(Webアプリケーションサーバ、データベースなど)間の接続構成やアプリケーション外のサービスの利用設定を定義した「仮想アプリケーションパターン」を作成、このパターンを利用して、関連コンポーネント群を一括デプロイできる。

 この仮想アプリケーションパターンの作成とデプロイメントに関して、SCAWS、IWD、PureApplication Systemは同一のソフトウェアツールを搭載しているため、共通の仕組みでアプリケーションをデプロイできるという。すなわち、例えばSCAWSでアプリケーションを構成し、これをSCE、社内のPureApplication System、あるいはIWDにデプロイすることが可能だ。

 紫関氏は、SCAWSの主な機能として、「1.複数の仮想マシンをトポロジーごと一括デプロイする」「2. 仮想アプリケーションパターン設計時に、スケールアウトポリシーの設定で、Webサーバ、Webアプリケーションサーバの動的な増減ができる」「3.デプロイメント後の運用もセミオートマチック化され、障害が検知されると自動的に新たな仮想インスタンスを立ち上げる」「4.キャッシュサーバ、プロキシサーバなど、複数のアプリケーションが共用で使うサービスを設定できる」の4つがあると説明した。

「仮想アプリケーションビルダー」でアプリケーションの構成とデプロイメントプロセスを抽象化、省力化できる

グラフィカル画面でアプリケーションを構成

 SCAWSの利用には、追加の契約などは要らない(CLMSも同様)。SCEユーザーは「サービスインスタンスの追加」で、SCAWSを選択し、料金などを確認して利用開始する。「仮想アプリケーション」を選択すると、SCAWSの「仮想アプリケーションビルダー」というツールのグラフィカルデザイナ画面が立ち上がる。WebSphere Application ServerやDB2などのミドルウェアコンポーネントを、「道具箱」であるパレットからドラッグ&ドロップして、相互間の接続設定やJVMのヒープサイズ、スケーリングポリシーなどを設定し、Javaアプリケーションとともに「仮想アプリケーションパターン」として定義する。このパターンを使い、一括したデプロイメントが可能。

 なお、SCAWSは、Linux上で動作するJavaベースのWebアプリケーションについて、その構成やデプロイメントの自動化を目的としたもの。SCAWSではActive Directoryなどもデザイナ画面のパレット上に表示されて利用できる。だがこれは、SCAWSとは別個にSCE上で稼働するActive Directoryの仮想マシンとの、接続設定ができるようにしているのだという。

もう1つの手法、「仮想システムパターン」

 上述の「仮想アプリケーションパターン」のほかに、SCAWSでは「仮想システムパターン」というデプロイメント手法を利用できると、紫関氏は説明した。

 まず、SCEでは従来から、OSと、WebSphere Application Serverなどのソフトウェアを別個に管理しておき、必要になったときにこれらを仮想マシンとして組み立て、プロビジョニングする方法を提供しているという(図のいちばん左)。

 「仮想システムパターン」は、上記のOSとミドルウェアをオンデマンドで組み立てる管理手法をベースとしながら、デプロイメントの直前に、起動スクリプトを組み合わせられるようにしたものだという。例えば複数の仮想マシンに1つの仮想システムパターンを設定しておくこともでき、VLANメンバーシップを同期させるといったネットワーク設定や、IPアドレスが決まらないとインストールできないソフトウェアの投入が可能になるという。このタイプのデプロイメント手法を提供するために、SCAWSでは「パターンエディタ」というツールを提供しているという(図の中央)。

SCEとSCASの組み合わせで、3段階のデプロイメント手法が提供されている

 これらと比べると、上述の「仮想アプリケーションパターン」は、かなり抽象化された環境を提供している。だが、「仮想アプリケーションパターン」を使ったデプロイをする際には、実際には「仮想システムパターン」がつくられ、これがデプロイされるのだという。紫関氏は、「仮想アプリケーションパターン」を使うと、だれでも作業ができる半面、自由度が低い。従って「仮想システムパターン」と「仮想アプリケーションパターン」はケースバイケースで使い分けるべきだという。

アプリケーションを社内に移行するには?

 では、SCASを使って構築したアプリケーションをSCE上にデプロイし、運用開始した後に、これを社内のPureApplication SystemあるいはIWDへ移行する際には、どのような作業が必要なのか。これについて紫関氏は、アプリケーションのEARファイル、データベースデータ、そしてWebSphere Application Server、DB2などのミドルウェア相互の接続関係と構成を記述したJSONファイルをファイル転送すればいいと答えた。OSおよびWebSphere Application Server、DB2などのミドルウェアの実体は、ファイル転送する必要がなく、PureApplication SystemあるいはIWD上のものを使えるという。

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