世界一を目指す学生が作った10のアプリ、日本代表は――Imagine Cup 2013日本大会レポート(1/2 ページ)

NFCを使った非常時ソリューション、Kinectの新感覚ゲーム、ノンコーディング2D/3Dゲーム開発ツール、Markdownエディタなどを紹介。

» 2013年04月23日 18時00分 公開
[柴田克己,@IT]

 マイクロソフトによる、学生を対象とした世界規模のITコンテスト「Imagine Cup 2013」の日本大会が、4月7日に東京都品川区の日本マイクロソフト本社で開催された。

 Imagine Cupは、2003年の第1回大会より数えて今年で11回目。これまでに190以上の国から、160万人を超える学生が参加しているという。世界大会の開催地は毎年異なっており、今年は7月にロシアのペテルスブルクで行われることが決まっている。日本大会は、その国内予選としての役割も担う。

 大会冒頭にあいさつを行ったのは、日本マイクロソフト業務執行役員デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の伊藤かつら氏。マイクロソフト創業者であるビル・ゲイツ氏の「プログラミングやコードを書くことは、考え方を学ぶこと」といった言葉や、ソフトバンクグループの創業者である孫正義氏の「脳みそがちぎれるまで考える」といった言葉を引きつつ、「今回のImagine Cupに参加した学生たちの柔軟なアイデアと、それを形にし、他の人々に発信するスキルに対して期待している」と述べた。

日本マイクロソフト業務執行役員デベロッパー&プラットフォーム統括本部長 伊藤かつら氏

 「10年前まで、ITは一部の人のためものだった。近年ではインターネットと新たなデバイスの登場によって、その構造が大きく変わっている。ネットとデバイス、そしてさまざまなサービスの登場により、いまやITは、すべての人のものになった。これは、ITの民主化ともいえる。民主化されたITの下では、小さな組織や個人のアイデアが世の中を変えいくことができる。ぜひ、皆さんのアイデアを、熱意を持って世界に表現してほしい」(伊藤氏)

全10チームが自らの作品をプレゼンテーション

 今年の日本大会では、「競技部門」と「Windows 8チャレンジ部門」の2部門について、それぞれの最優秀賞を決めるためのプレゼンテーションが行われた。応募作品は、Windows 8やWindows Azure、Visual Studioファミリをはじめとするマイクロソフトの製品や技術を利用しており、いずれの部門も3月中旬までに作品の応募が行われている。今年は昨年と比較して3倍以上の作品が寄せられたという。

 4月7日に行われたのは、事前審査を通過した作品の制作チームによる最終プレゼンテーションと、審査員による質疑応答および最終審査だ。

 競技部門では、「ゲーム」「イノベーション」「ワールドシチズンシップ」の3つのカテゴリの募集が行われた。その中から、ゲーム4作品、イノベーション2作品が最終審査に残った。日本大会の最優秀賞には、これら6作品の中から1つが選ばれる。

 最優秀賞の受賞チームには、賞金と、ロシアで開催される世界大会への出場権が与えられる。併せて、世界大会へ向けた技術やプレゼンテーション研さんのサポートが提供されるという。

 一方のWindows 8チャレンジ部門は、Windows 8の機能やデザインコンセプトを生かした「Windowsストアアプリ」のコンテストとなる。カテゴリは問わず、ユーザーシナリオやデザイン、革新性、ビジネス実現性、プレゼンテーションといった基準によって審査が行われる。この部門の最終審査では、審査員だけではなく、大会の観覧者にも投票権が与えられており、プレゼンテーションの内容も結果に大きく影響してくる。

 Windows 8チャレンジ部門の最終審査には、ゲームやユーティリティなど4作品が残った。競技部門と異なり、世界大会への参加権は得られないが、最優秀賞を獲得したチームには、賞品として「Microsoft Surface」が贈られる。

 日本大会の審査員は、フィラメント 代表取締役社長の池尻大作氏、慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 教授の稲見昌彦氏、ジャーナリスト、作家の新清士氏、バイドゥプロダクト事業部の矢野りん氏、マイクロソフトデベロップメント 代表取締役社長 兼 日本マイクロソフト 業務執行役員最高技術責任者の加治佐俊一氏が務めた。

世界を目指すアイデアが火花を散らした「競技部門」

 大会はまず、競技部門ファイナリスト6チームによるプレゼンテーションからスタートした。各チームとも、約20分という短い持ち時間の中で、さまざまな趣向を凝らしたプレゼンテーションを行い、作品のコンセプトやアピールポイント、技術的な特徴について紹介を行った。

競技部門ファイナリスト
作品タイトル(カテゴリ) チーム名 学校名
NFKey(イノベーション) NFKey HAL東京
Pafffy(ゲーム) Clear Voice トライデントコンピュータ専門学校
トイチェッカー(ゲーム) KRAD 太田情報商科専門学校
ぬけがみ(ゲーム) でやんぞ HAL大阪
Enchant Flower(ゲーム) flower_shooter HAL名古屋
Knowall Library 5.0(イノベーション) Project N 京都コンピュータ学院

NFKey

 HAL東京のチームNFKeyによる「NFKey」(ナビゲーション・フォロー・キー)は、近距離無線通信技術として「おさいふケータイ」「Suica」などでも採用されている「NFC」を活用した、自動車の管理システムだ。

 東日本大震災や、2012年末に発生した笹子トンネル天井板落下事故などから「大規模な災害が発生した場合に、現場に放置された車両を移動させることで、救助活動や復旧活動を迅速に行えるのではないか」との着想を得て開発に取り組んだという。

 具体的には、自動車のカギをNFCによるICカードキーとし、非常時にはしかるべき公的団体(救急班や自衛隊)がマスターキーを使って、自動車を移動させることが可能になるというもの。災害時以外にも、カーシェアリングシステムにこのシステムを採用することによって、シェアされている車両の位置情報を使った在庫管理や、予約システムの高度化が可能になるとする。バックエンドのシステムにはWindows Azure、自動車側ではWindows 8タブレットやカードリーダーなどの機器が利用されている。

 審査員からは、システムコストについての考えや、スマートフォンによるレンタカーとの差別化をどう図るのかといった質問が行われた。

Pafffy

 「声を出してスカッとできるアクションゲーム」として発表された「Pafffy」は、チームClear VoiceによるWindowsストアアプリ。マイクに向かって声を出したり、手をたたいたりしながらパワーをため、画面上でタッチした方向にキャラクターを動かしてゴールまで導くという分かりやすいルールの作品だ。

 主に子どもが遊ぶことを前提としたルールやUIのシンプルさと、親しみやすい丸みを強調したキャラクターデザインが特徴。プレゼンテーションも、同作品のコンセプトである「声」を張った元気に溢れるもので、審査員の注目を集めた。

トイチェッカー

 「ゲームをやりながら思わず身体が左右に動いてしまう現象を、そのままゲームにできないか」との発想から生まれた、チームKRADの「トイチェッカー」は、マイクロソフトの「Kinect」を使い、プレイヤーの「身振り」によってキャラクターを操作するレースゲームとなっている。

 おもちゃの世界をモチーフにしたコース上を、加速やコーナリング性能が異なるさまざまなタイプの車体で走り抜ける。ジャンプ台を使って飛び上がった際には、鳥のように羽ばたくジェスチャーをすることで滞空時間を延ばすこともできる。コースの追加による課金といったビジネスモデルも考慮されていた。

ぬけがみ

 こちらの作品も、Kinectを使ったゲームだ。画面上の「天使」を、ゴールまで誘導することがゲームの目的だが、その誘導方法に独自のアイデアが光っていた。

 ステージは「表」と「裏」の2レイヤから構成されており、Kinectによってキャプチャされた人体の「シルエット」によって、「表」のレイヤが透過し、そこに「裏」のレイヤが現れるようになっている。どちらか片方のレイヤだけでは、天使はゴールにたどり着くことができないため、プレイヤーには、天使の動きに合わせてタイミングよく身体を動かし、表裏を切り替えることが求められる。人体のシルエットに対する当たり判定をどのように処理するかが、開発上のポイントだったという。

 プレゼンテーションの段階では、天使が1つしか登場していなかったが、今後は複数の天使が同時に出現するようなモードの実装も検討しているという。また、「2人プレイモード」「ステージコンストラクションや作ったステージの投稿、ダウンロード」「ランキング」といった機能を追加することで、プレイヤーが繰り返し遊べる仕組みを作っていきたいとした。

Enchant Flower

 画面の美しさや、それを実現するためのプログラミング技術に工夫が見られたのが、チームflower_shooterによる「Enchant Flower」である。鳥に乗った女の子のキャラクターが、ステージとなる砂漠化した土地を飛び回り、制限時間内に少しでも多くの土地を「緑化」させることが目的となるアクションゲームだ。

 鳥が飛んだ軌跡は、そのまま緑化されるが、ステージ上に複数配置されている「光る花」を3角形で結ぶように飛ぶと、その内部が一気に緑化できるといったテクニカルな要素も含まれている。

 いわゆる「敵」は出現せず、「画面を塗りつぶしていく感覚を楽しんでもらう」ことを主眼に開発したという。そのため、操作や画面スクロールをスムースにし、緑化されて少しずつにぎやかになっていく画面表示による処理落ちを防ぐためにプログラミング上で工夫をした。画面表示時の計算範囲やモデリングデータの持たせ方、データ圧縮やローディングの処理といった部分がポイントになったという。

Knowall Library 5.0

 「イノベーション」のカテゴリで最終審査に臨んだ、京都コンピュータ学院のチーム「Project N」による「Knowall Library 5.0」は、2Dや3Dのアクションゲーム、シューティングゲームをノンコーディングで開発するための汎用ゲームエンジンだ。

 開発を行っている米山哲平氏によれば、「もともと、中学時代に自分でゲームを作るためにKnowall Libraryの開発を始めた」という。そのゲーム自体はまだ完成していないというが、Knowall Library自体は着実にバージョンを重ね、すでに7万行以上のコードを含む大作となっている。

 プレゼンテーションでは、ステージ上に存在するオブジェクトの3DモデルをKnowall Libraryに読み込み、ドラッグ&ドロップで配置や当たり判定の設定を行ったり、カメラを配置してステージエディタ上でリアルタイムに動作プレビューを行える様子などがデモされた。オブジェクトに対してシェーディングエフェクトを追加したり、物理演算の結果を反映させることも可能だ。

 加えて、Knowall Libraryでは、プレイヤー以外のキャラクター(NPC)の移動設定や、フローチャートによるAI構築も行える。AI構築用のフローチャートは、既存のものを使うこともできるが、コーディングによって拡張することもできる。コードで記述した処理は、Knowall Library上で自動的に解析され、フローチャートのパーツとして追加されるという凝りようだ。

 Project Nでは、「2D、3Dの両方で使い勝手の良い汎用的なゲームエンジンは少なく、それがKnowall Libraryの優位性になると考えている。このツールで、世界中の人にゲームを作る楽しさを知ってほしい」とし、今後はサポート面などを考慮し、法人化した上でのツールの一般公開も検討しているという。

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