米EMCが「Software Defined Storage」を発表、その意味はストレージの新たな利用スタイルを追求

米EMCは5月6日(米国時間)、同社のイベント「EMC World 2013」で、業界初というSoftware Defined Storageプラットフォームソフトウェア「ViPR(ヴァイパー)」を発表した。今年後半に製品として提供開始するという。EMCがViPRで言う「Software Defined Storage」とは、汎用コンピュータを使ったストレージ装置のことではない。

» 2013年05月07日 19時34分 公開
[三木 泉,@IT]

 米EMCは5月6日(米国時間)、同社のイベント「EMC World 2013」で、業界初というSoftware Defined Storageプラットフォームソフトウェア「ViPR(ヴァイパー)」を発表した。今年後半に製品として提供開始するという。

 「Software Defined Storage」は、「Software Defined Networking(SDN)」にならって一部のストレージ関連ベンダが使い始めている言葉。Software Defined Networkingと同様、人によって、あるいは場面に応じてこの言葉で表現される内容はさまざまだ。EMCも、インテルプロセッサを搭載した汎用コンピュータでつくったストレージ装置を「Software Defined Storage」と表現する場合があるので自ら混乱を招きがちだ。だが、同社がViPRでやろうとしているSoftware Defined Storageは、それとは大きく異なる。

 米EMCのプロダクトオペレーション&マーケティング担当上席副社長、ジェレミー・バートン(Jeremy Burton)氏は「ユニバーサルリモート(日本でいう学習リモコン)のようなもの」と形容する。操縦する機器ごとに異なる使い勝手の別個のリモコンを使うのではなく、1台の統合型リモコンを使えば統一的な手順で各種機器が操作できるのと同じだとする。この形容も、単純にまとめすぎているきらいがある。

コントローラでストレージの利用を制御

 ViPRは、SDNでいえばSDNコントローラのように、ストレージ装置と独立して動作するソフトウェア。ストレージに対しての振る舞いでいうと、大別して2種類のモードを提供する。1つはコントロールプレーンとデータプレーンに分けた場合に、コントロールプレーンの機能のみを果たすモード。もう1つは、コントロールプレーンに加え、データプレーンにも関わるモードだ。この2つは、相互補完的に利用できるようになるという。

 コントロールプレーンのみのモードでは、EMCのVNX、VMAX、VPLEX、Isilon、Atmosといった製品や、他社のストレージ製品に対し、統一的な方法で集中的な設定が行える。それぞれのストレージ製品が提供するAPIを利用し、ネットワーク接続されたストレージを検知し、単一の論理的なストレージプールとして見せる(実際に単一の仮想ストレージプールを構築するわけではない)。そしてこれらのストレージからサービスカタログを作成しておくと、アプリケーションをデプロイしたいユーザーは、セルフサービスポータルからそのアプリケーションに適したサービスとしてのストレージを選択し、即座に利用できる。すなわち、異種ストレージの利用設定(「プロビジョニング」と呼ばれる)プロセスの統一および自動化を助ける一方で、物理的な機器単位での利用ではなく、サービスとしての利用を可能にする。

 このモードでは、コントローラ(「ViPR Controller」と名付けられている)は実際のストレージデータの流れに介在しない。いったん利用設定が済んだら、サーバおよびアプリケーションがストレージ装置と直接にデータ通信を行う。従って、ストレージの備える性能や機能を生かすことができる。ViPR ControllerはEMCの「Storage Resource Management(SRM)」というストレージ管理ソフトウェアと連携し、物理ストレージの稼働情報を取得、これに基づいてサービスレベルを監視できるようになるという。

既存ストレージ装置をクラウド対応に

 コントローラの、アプリケーション側(あるいはサーバ側)との連携については、これもSDNにおけるSDNコントローラと同様に、VMware vCloud、OpenStack、Hyper-Vといったクラウド運用基盤と連携でき、自動化が可能という。ViPRのAPIは公開され、これを使って上記以外の連携も実現できるとしている。

 このコントローラは、各種ストレージ装置に対してソフトウェア的な付加価値機能を統一的に適用するための、統合ポイントとしての役割も果たす。具体的には、例えばRecoverPointによる遠隔複製機能や、現在VPLEXが提供している遠隔リアルタイム複製によるHA機能を、ViPR経由で各種ストレージ装置に適用できるようにする予定という。

 もう1つの、コントロールプレーンとデータプレーンの双方に関わるモードは、平たく言えばストレージ仮想化を行う。このモードでは、異種ストレージ装置を実際にまとめ上げ、あたかも単一の装置であるかのようにサーバ側から利用できるようになる。こうした手法で、既存ストレージ装置が対応していないような、新しいストレージアクセスプロトコル/APIに対応するという。EMCではこれを「ViPR Data Services」と呼んでいる。第1弾としては、Object Storage API/Amazon S3 API、およびHDFSに対応すると同社は発表している。例えばAmazon S3 APIへの対応は、Amazon Web Servicesと社内ストレージインフラとの連携や統合運用を容易にすることが考えられる。

ViPRは、他社製品を含めた物理ストレージ装置を統合的に利用したり、ソフトウェア機能を適用するための土台を提供する

 だが、例えばHDFSについては(そしてオブジェクトストレージも)、コンピュータ内蔵の安価なハードディスクドライブを使って、拡張性の高いデータ管理/処理が行えるのが魅力だ。EMCや他社の(ハードディスクほど安価ではない)商用ストレージ装置を、Hadoopのストレージとして使いたいユーザーはいるのだろうか。ViPRを担当するEMCアドバンスト・ソフトウェア部門マーケティング担当バイスプレジデントのクリストファー・ラトクリフ(Christopher Ratcliffe)氏にこの質問をしたところ、IsilonがHDFS対応をしたときと同じ答えが返ってきた。つまり、データを移動するのは重い作業であり、それを回避できるメリットがあるとする。

 ViPRによるストレージ仮想化は、コントローラを分散配置することで、地理的に離れた場所に存在する複数のストレージ装置を、単一のストレージリソースとして統合運用できるのが特徴だ。もちろんそれ以前のメリットとして、想定外にデータが急増したとしても、即座に、事実上無制限な容量拡張ができる点が挙げられる。

 以上をまとめると、EMCがViPRで目指すSoftware Defined Storageとは、これまでの物理ストレージの利用における各種の制限、すなわち物理的に単一の場所になければならない、装置によって設定手順がまちまち、異種の装置を併用しにくい、各装置で容量に制限がある、設定・運用が複雑、サーバ/アプリケーション側の担当者が自分で利用設定できずに時間が掛かる、などを取り払い、ストレージをサービスとして、あるいはポリシーベースで利用できるようにする仕組みと言えそうだ。

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