「Interop Tokyo 2013」会場の無線電場状況が強烈に「汚い」環境で、いかに良い品質の通信を実現するか。その方策と実験の内容を速報する。
2013年6月12〜14日の3日間にわたって開催されている展示会「Interop Tokyo 2013」に先立つことほぼ半年前の2013年1月、「きれいな無線をもとめて」という記事がInterop ShowNet NOCブログで公開されました。皆さん、ご覧になったでしょうか?
これは、会場内に大量の電波発信源があり、電波が強烈に「汚い」状況になるInteropで、ストレスなく無線LANを使えるようにしたいという決意を表明する記事でした。
Interop Tokyo 2013初日の6月12日、その取り組みの詳細が公開されました。無線機器の持ち込み制限などを行うことなく、いろいろな電波が出ている環境において公式無線LANサービスの品質をできるだけ維持する、という方向性に基づくものでした。
ポイントは以下の5点です。
1つ目のポイントは、各アクセスポイントから出る電波強度を下げたうえで多くのアクセスポイントを設置し、アクセスポイントを「マイクロセル化」するというものでした。これは、人口密度が高くなる場所で電波通信サービスを提供するときの代表的な手法です。
マイクロセル化は、無線LANコントローラによる統合管理とセットで稼働しています。各セル(=アクセスポイント)は最低限の設定のみを持ち、コントローラが状況に応じてリアルタイムにアクセスポイントでの電波強度などを制御します。
幕張の会場では、1つの無線LANコントローラが複数のアクセスポイントを同時に制御しています。コントローラとアクセスポイントの間にはインターオペラビリティがないことが多いので、同じベンダのコントローラとアクセスポイント同士がつながります。
Interop Tokyo 2013のShowNetで利用されているコントローラとアクセスポイントのセットは、シスコシステムズ(Cisco)、ジュニパーネットワークス(Juniper)、フルノシステムズ、ヤマハ(YAMAHA)、フォーティネット(Fortinet)の5社です。
マイクロセル化とコントローラによる統括的な制御の副産物として実現できているのが、「無線LANによる位置情報サービス」です。CiscoのWi-Fiシステムでは、各アクセスポイントからの電波強度情報がコントローラに集まり、データセットをAPI経由でアプリケーションに提供しています。NaviTimeはそのAPIを利用して、位置情報に基づくアプリケーションを提供しています。
無線LANで使われる周波数帯のうち、5GHzの方が比較的キレイで、2.4GHzの方は5GHzよりも汚れています。また、2.4GHzが実効上3チャネルしか使えないのに対し、5Ghz帯は実効上12チャネル使えます。こうした要因から、2.4GHz帯は「仕様上、どうしてもこの周波数帯しか使えないクライアントのみに限定したい」という方針でShowNet無線サービスが設計されました。
2.4GHzの方が電波が遠くまで届く傾向があり、5GHzと両方を利用できるクライアントでも2.4GHzを利用する可能性が高いことが観測されたため、2.4GHzでのアクセスは一度却下し、できるだけ5GHzを使うように促します。さらに、一度5GHzで接続したクライアントに関しては、可能な限り5GHzを使うように促す設定もされているそうです。
無線LANに関する取り組みで最もこだわったのは、「チャネルの割り当て」だったそうです。
会期前に行われるShowNetの構築、検証作業「ホットステージ」で試行錯誤した結果、本番環境では、「1チャネルに全てを突っ込む方法」と「チャネルをぶつける」という2つの方法が採用されています。
多くのアクセスポイントを設置するには、できるだけチャネルが被らないように設計するという手法が一般的ですが、今年のShowNetでは、あえて全ての公式アクセスポイントのチャネルをぶつけるという、逆転の発想で運用が行われています。
例えば、1つのチャネルに固定したうえで大量のアクセスポイントをバラまくと、そのチャネルは「電波だらけ」の状態になります。昨今の無線LAN製品の多くは、各自が自動的に最適なチャネルを探し出す機能を備えていますが、あえて「電波だらけ」の、NG判定されるチャネルを作ってしまえば、公式アクセスポイント以外は勝手に他のチャネルに逃げてくれる――という考え方です。
検証の結果、2.4GHz帯に関しては、よく利用される1、6、11の3つのチャネルをあえてぶつける方式が最も良さそうだということが分かりつつあるようです。なぜそうなるのかなど詳細に関しては、会期を通じてさまざまな検証が行われていくとのことです。
各アクセスポイントでは、弱い電波のクライアントを積極的に切断するような設定がされています。電波が弱いクライアントは切断されると新たなアクセスポイントへと移りますが、それによって素早いハンドオーバーが可能となります。
最後のポイントは「高い位置」であるとのことでした。
幕張メッセの会場内では、出展社が持ち込む無線LAN機器の多くは、ユーザーの手元や足元の高さに設置されており、物理的に位置が低いほど「電波が汚い」状況が顕著になるそうです。そういったこともあり、アクセスポイントは高さ約2メートル強のところに設置してあります。
会期前の実験では、あまりうまく通信ができない場所でも高い位置で使えば通信品質が改善されることも検証されていたようです。例えば、ノートPCを持ち上げるとスループットが急激に改善したり、脚立に乗って通信を行うとさらにスループットがよくなるなど、数値測定ではなくユーザーエクスペリエンスとしても分かるぐらいの違いが生じたとのことです。
高い位置に置くことで、アクセスポイント同士のネゴシエーションもうまくいくようになるという利点もあります。各アクセスポイントは互いに電波を受信し合い、その結果をコントローラに送信することで、コントローラが適切な電波強度をアクセスポイントにリアルタイムに設定します。出展者ブースという障害物を可能な限り避けるには、アクセスポイントが高い位置に設置してある方が有利です。
このように、「汚いながらもその中で頑張る」という考え方は非常に現実的であり、面白いと思いました。ただし取材時点では、まだ見えていない部分もありました。
電波が「汚く」なるのは、来場者が会場内に入る会期中であり、記事執筆時点では初日の様子を見てみないと効果は分からないとのことでした。ただ、2012年は会期開始前の時点ですでに公式サービスが使えないほどの「ヨゴレ」状態だったので、それと比べると今年は非常に安定しているそうです。
この取り組みは、今回がゴールではなく、今後も模索は続きそうです。
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